魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜   作:海神アリア

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2.5章幕間、最後のお話です!
魔女の皆様が、それぞれドキドキの夜を過ごしているみたいです。


第75話 幕間 高鳴る動悸の『魔女達の夜《ヴァルプルギス》』

(『時の魔女-クロニカ』/雨海 惺視点)

 

 私はレンタルした浴衣を返却し、聖を駅まで送った後に、沙織お姉ちゃんへ電話をした。何故なら、『このままでは帰れないから』である。今の私は『時の魔女-クロニカ』モードであり、学園の可愛い生徒の『瑠璃海 蒼蘭』ちゃんの姿ではないからだ。また、今回の外出手続きは姉貴が全部してくれたので、帰る時もまた彼女と合流する必要があるのだ。

 かくして、休日出勤から帰ってきた姉と落ち合い、彼女が借りて来たワゴン車の中で『お着替え』を済ませ、そのまま学園へと送ってもらった。寮の部屋に着いたのは21時過ぎ、そろそろ夜も更けて来た頃である。

 学園寮の自室に帰った私は、着替えもそこそこにベッドの上へ倒れ込んだ。

 

 ……………………………………。

 

「〜〜〜〜ッ!!」

 

 帰路に着くまでは表に出さない様にしていたが、感情のダムが遂に決壊してしまった。身体が熱く、心臓が痛い程にバクバクと轟音を奏でている。足は自然とバタバタと動き、行き場のない感情が身体を突き動かす。

 

 原因はただ一つ、聖との七夕祭りだ。

 

 まず、元男子学生にして日陰者である(わたし)にとって、『女の子と一対一(マン・ツー・マン)で過ごす事』が物凄くハードルの高い事なのである。渋谷でのお出かけや友人達とのカラオケといった、『女子高生複数人のグループ』で過ごすのとは訳が違うのだ。考えてもみて欲しい。二人で過ごすと言うことは、自然と目を合わせる機会も格段に増えるし、会話は基本的に一人称と二人称だ。言葉のパスを回す相手は目の前の少女だけであり、日陰者たる私は普遍的な女子高生より貧弱なトークデッキしか持ち合わせていない。

 

 次に、聖の浴衣姿である。

 ……何だあの破壊力抜群のビジュアル兵器は!? 

 いや勿論、『女の子が普段しないような特別な格好をする』というシチュエーションだけでも十分な威力となるのは分かる。そうでなければ世のソーシャルゲームが水着キャラやら浴衣キャラやらクリスマスキャラやらを実装する訳もないし、恐らく経済学や統計学的に裏付けされた確固たる事実なのだろう。

 

 ……だが、何だあの殺傷能力は!? 

 文学少女然とした眼鏡っ子美少女が浴衣に袖を通しただけで、彼女の醸し出すオーラが完全に別物となった。選択した浴衣の色もまた秀逸で、寒色の藍色は聖の落ち着いた雰囲気とも合致していた。恐らくあの格好で京都を歩けば、否、平安時代にタイムスリップしたとしても十分に絵になる筈だ。正直、呉服屋さんで聖の浴衣姿を見た時から心臓がドキドキしていたし、たこ焼きを頬張っている時や射的で景品を獲得した時の彼女は笑顔が素敵だった。道ゆく通行人の皆様だって、『浴衣が似合う可愛い子』とか『あの黒髪の子ビジュが半端じゃねえ!』とか言ってたし、主観と客観の両方から見て浴衣聖の破壊力は凄まじかったのである。

 

 そして何より……課外授業の一件だ。

 聖は魔力切れを起こした私に、自分の魔力を分けてくれたのである。

 そう、口移しで。

 唇と唇を重ね合わせて。

 

「〜〜〜〜〜〜ッッッ!!」

 

 あの瞬間が脳裏をよぎり、私は脳内に生じた煩悩を打ち消すべく、ベッドの上を転げ回った。

 

 いや、落ち着け、冷静になれ!! 

 確かに唇を重ねたのは事実だし、聖も『キス』である事も認めていた。だが、アレはあくまで便宜上の話で……そう、人工呼吸! 人工呼吸と同じく、立派な救命活動だったのだ!! ……そりゃ勿論、可愛い女の子にキ……人工呼吸をして頂いて、嬉しくない人間など存在しない。だが、それとこれとは別問題だ! 私が勝手にドギマギするのは筋違い&勘違いで、甚しい思い上がりも良いところだ! 

 

 …………よし、一旦落ち着こう。

 

 そう、あの時、聖の傍に居たのは『雨海 惺』でもなければ『瑠璃海 蒼蘭』でもない。クールで、ミステリアスで、柔和な雰囲気と仄かな妖艶さを併せ持つ時の魔女にして完全無欠の年上ヒロイン、『クロニカ・ナハト・ヘルゼーア』である。

 

 私が日頃、鏡の前で演技をしていた事が功を奏した。

 魔女クロニカは友人の浴衣姿を見ても取り乱さず、穏やかな微笑みのまま彼女の容姿を褒める。

 魔女クロニカは大人のお姉さんなので、飲み物や軽食をさりげなく購入するし、射的に不慣れな女の子にはちょっとしたアドバイスを送る。

 クロニカは時の魔女なので、友人の運勢を占ったり細やかな幸運を祈るための御呪(おまじな)いもする。

 

 ……正直、途中危うい所もあった気もしないでもない。だってしょうがないだろう、お祭りってテンション上がるし楽しいものだし……。それに、折角のお誘いだ。イベントを楽しむ分には問題ない筈だし、しかめっ面や無表情では誘ってくれた聖だって嫌な気分になるだろう。

 まぁ、大前提として、聖と過ごした夏祭りは凄く楽しかったし、素敵な思い出になった。少なくとも、私にとっては。願わくば、聖にとっても楽しいひと時であって欲しいが……多分大丈夫だ。スマホに保存した記念写真で分かる。彼女の楽しそうな表情に、嘘偽りは無い。

 

 ……………………………………。

 

 あー、ダメだ、ダメだ! 

 聖とのツーショットを思い返すだけで、写真を見返すだけでまだドキドキする! 

 よし、さっさとお風呂入って、汗を流そう! 

 

 私は服を脱いで、一糸纏わぬ身体となる。

 そして、頭の中で『念じながら』蒼蘭ちゃんの青い髪をかき分け、指先で金具を掴んだ。そのまま手を下に降ろし、蒼蘭ちゃんの()()()()()()

 頸に手をかけて蒼蘭ちゃんの身体を脱ぐと、鏡の中には汗で髪をベッタリと濡らした黒髪の少女が現れる。

 蒼蘭ちゃんの身体は、翌朝のシャワーで洗い流そう。今日一日、動き回った身体でお風呂に入りたかった私は、クロニカの姿となり浴室へと赴いた。

 

 身体を洗い、髪を洗い、微温(ぬる)めのシャワーで身体を洗い流す。滝行に勤しむ修行僧の様に、身と心を無心で清める。(ほて)った身体が程良く冷めて、汗と汚れが疲れと共に洗い流されるのを実感した。

 

「ふぅ…………」

 

 湯船に浸かり、手でお湯を掬って腕にかける。身体を湯に浸すと、程良い浮遊感が味わえて心地よい。

 

(髪が長いと、洗う時大変なんだよなぁ……。夏だし、いっそ切るか? でも個人的には、魔女といったら魔女帽子にロングヘアなんだよな……。髪が長い方がビジュアル的にも合っているし、将来的にはクラスメイトがやってる様なヘアメイクに挑戦する事だって……)

 

 私は蛇口を捻って洗面器に冷水を溜めて、頭から被った。無理矢理にでも頭を冷やすためだ。

 

(ヤバい……考えが女の子に染まりきっている……!? 落ち着け、()は元男子学生、元々は男だぞ? 何ビジュアルとかヘアメイクとか言ってやがる!? ()()ッ……!)

 

 モニュン、という感触が自分の腕に伝わり、()は心の中で口を噤んだ。先程の柔らかい感触は他でも無い、狭い個室用湯船内で我がもの顔で湯に浸かる、Jカップを誇る私の乳房だ。この胸部に備わったモノが、『今の自分が女である』事実に対する何よりの証左である。

 

「………………そろそろ出るか」

 

 私は風呂から上がり、バスタオルで身体と髪を拭きながら部屋に戻る。机の上に置いたスマホには、姉貴からのメッセージが届いていた。曰く、七夕祭りで撮った写真があれば、送って欲しいとの事だ。

 

『休日出勤帰りのお姉ちゃんに、可愛い妹の浴衣姿を……何卒、何卒お恵みを……』

 

 あれ? 姉貴もラボに帰っている筈だよな? 何か、砂漠で干からびそうになりながら水を求めている遭難者チックな文面なんだが? 

 

(まぁ、浴衣のレンタルを予約してくれたのは姉貴だし、お陰で友人の貴重な浴衣姿も拝めたのだ。写真くらい送らないとな。あ、しまった……お土産に袋の綿飴とか買ってくりゃ良かったか?)

 

 そんな事を考えながら、私はスマホに保存した写真を姉貴へ送信した。

 

◆◆◆

(沙織お姉ちゃん視点)

 

「ごふっ……げほっ……」

 

 突如として、私は自室で痛みに襲われた。

 具体的に言うと、脳、肺、気道、心臓、そして椅子からひっくり返った際に強打した背中だ。手足に力が入らない。目も霞むし、息も苦しい。

 

 何故こんな事が起こったのか? 

 原因は、我が最愛の妹から送られてきた画像だ。そこに写っていたのは、私が欲してやまない惺ちゃんの浴衣姿だった。

 

 だがそれは、()()姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私は引き出しから登山用の酸素ボンベを取り出して、肺の中を酸素で満たす。そして床に落ちたスマホを広い、辛うじて立ち上がる事に成功した。だが、まだ頭が痛い。まるで脳細胞の一つ一つが悲鳴をあげているかの様だ。

 

 いや、落ち着け、沙織お姉ちゃんは狼狽えない。

 

 冷静になって考えよう。

 今のしず君は可愛い女の子。そして相手はお友達の聖ちゃん。そう、これは女の子同士が和気藹々と夏祭りを楽しんでいる光景に他ならない。決して、決して()が可愛い女の子とデートをしている訳ではない。

 

(『デート』……? で……え……と……?)

 

 再び視界が霞み、心臓が早鐘を打つ。

 

(待て待て、それは()()()()()!?)

 

 そうだ、最愛の弟にして妹が、楽しそうに夏のひと時を過ごしている。これに勝る幸福が、沙織お姉ちゃんに存在するだろうか? 

 

 私は、しず君には楽しい高校生活を送って欲しいと思っている。しず君の高校時代は、何となく話の合うクラスメイトと教室の隅でゲームやアニメの話題や大学受験について、取り留めのない会話をする程度の物だった。そういう過ごし方自体を否定するつもりは無い。目立たず、ひっそりと、三年間の高校生活を送る人だって、世の中にはそれなりに存在するだろう。

 

 だが、惺が送る生活としては、余りにも寂しい物だった。我が弟に、味気ないモノクロの高校生活は似合わない。もっと笑顔溢れる青春こそが相応しいと、お姉ちゃんは断言する。

 そして我が妹が暁虹学園へ編入し、お姉ちゃんの自論は正しいモノだと証明された。しず君、もとい蒼蘭ちゃんは魔法の勉強も課外授業も『面白い・興味深い』と感じているし、魔女のお友達とも楽しく遊んでいる。この満面の笑みで映る浴衣姿の写真が、何よりの証拠だ。私はしず君が単独で写っている写真を見ながら、そう確信した。

 

 だから、お姉ちゃんは嬉しい筈なんだ……。沙織お姉ちゃんにとって、しず君の幸せが自分の幸せでもある。それは断言できる。

 

 その筈なのに、何故だか頭が、脳が粉々になりそうだ……。

 そもそも、しず君の可愛い浴衣姿は沙織お姉ちゃんが一番最初に肉眼で拝む予定だったのに、お姉ちゃんだってしず君と夏祭りに行きたかったのに……。異世界人が悪魔騒動なんて起こすから、姉妹水入らずの予定が、全部パァになってしまった。やはり異世界人は害悪でしかない、一匹残らず駆逐してやる……!! 

 

(ダメよ、怒りや憎しみに囚われては! 気をしっかり持ちなさい、沙織! この程度の痛み、長女なら耐えられる!)

 

 私は必死に自分自身へ言い聞かせる。こうなったら、脳に優しいものを見て心を落ち着かせよう。

 妹の浴衣姿だけでは、最早耐えられそうにないので、私はパソコンに保存した、脳に優しい可愛い妹の映像を再生する。

 

 チアガールのユニフォームやメイド服を着て応援してくれる茜ちゃん。

 恥ずかしがりながらも、愛らしさ全開で励ましてくれるリリアちゃん。

 自分の考え得る、『最高にクールでカッコいい、大人のお姉さん』を演じるしず……クロニカちゃん。

 

 そして、今日の午前中に入荷した、撮れたてホカホカの新映像。

 

『みんな〜! 今日は、私のライブに来てくれて、ありがと〜! それじゃあ、ドームいっぱいに、私の歌と元気をお届けするね☆』

 

 可愛い衣装に身を包み、玩具のマイクを手に取って、満面の笑みを振り撒く新進気鋭のスーパアイドル・蒼蘭ちゃんの映像だ。

 

「うおおおお! せ・い・ら! せ・い・ら! 愛してるよ、私の天使(エンジェル)、蒼蘭ちゃん!!」

 

 損傷した脳細胞に、次から次へと豊富な栄養素が送られていき、私の脳は回復していった。可愛い妹のお陰で、沙織お姉ちゃんは今日を乗り越える事が出来ました。世界中に、彼女の愛おしさが満ちる事を、お姉ちゃんは只管に願ってます。

 

◆◆◆

(白百合 聖視点)

 

 私はいつからおかしくなったのだろう? 

 それは最近の様な気もするし、或いは……生まれた時からかもしれない。

 

「はぁ……はぁ…………んんっ!」

 

 私は下着姿のままベッドに横たわり、懸命に自分の身体を鎮めようとしていた。だが、幾ら身体を慰めても、どれだけ自分の秘部を弄っても、私の脳裏に焼き付いた光景は離れない。

『時の魔女-クロニカ』、彼女と過ごした時間は楽しかった。かけがえのない思い出だった。そして、クロニカさんが幸せを祈って、かけてくれた御呪い。本当に些細な事かもしれないが、とても嬉しかった。

 

 でも、私は考えてしまったのだ。

 蒼蘭ちゃんの面影を宿すクロニカさんは、()()()()()()()()()()()()()、と。

 

 …………最低だ。

 我ながら、最低な考えだと思う。

 出会って間もない時の魔女に劣情を抱いた自分に、そして大切な友達に対して淫らな欲望を向けている自分に、私は激しい嫌悪感を抱いた。

 

「んっ……! んくぅっ……!」

 

 自分を律する様に、罰する様に、態と乱暴な指使いで身体を弄る。だが、身体中を激しい快感が駆け巡り、余計に身体が熱を帯びていく。動悸が激しくなり、息も荒くなる。

 

 蒼蘭ちゃんとキスをしたのは三回。その内の二回は彼女の許可も取らず、無理矢理唇を奪ったのだ。魔力を補給する為とはいえ、褒められた行為ではない筈だ。自分の秘密が蒼蘭ちゃんに知られた時、私は嫌われてしまうんじゃないかと不安だった。

 なのに、蒼蘭ちゃんは私の魔法を受け入れてくれた。課外授業の後も(若干気不味そうな雰囲気こそあれど)変わらず私と接してくれた。そして炎華ちゃんと同じく、私の魔力供給手段についても、皆には秘密にしてくれていた。

 

 私にとって、蒼蘭ちゃんの優しさは確かに嬉しかった。それと同時に、私は抑え難い感情を抱いてしまった。私が蒼蘭ちゃんに抱く感情は、炎華ちゃんに対するものと若干違う。炎華ちゃんは大切な親友だ。彼女もまた、私の端ない魔法を受け入れてくれた恩人だ。

 

(でも、蒼蘭ちゃんは…………)

 

 初めて出会った時から、彼女の全てが眩しかった。人形の様に愛らしい容姿、繊細な肌、碧海を想起させる藍色の髪、蒼石(サファイア)を連想させる綺麗な瞳、挙げていけばキリがない程に目を惹かれる要素ばかりだった。無論、彼女の魅力は外見に留まらない。喜怒哀楽によりコロコロと変化する表情、様々ま『魔法』に触れ合う中で見せるロマンチストな一面、危険な目にあっても立ち向かっていく勇敢さ、そして彼女が見せる素敵な笑顔。

 

(私は……蒼蘭ちゃんの事が…………!!)

 

 オーガズムにより、身体が大きくのけ反る。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 私は横になったまま呼吸を整える。そして起き上がり、浴室へ移動する。シャワーで汗を流すために、そして身体の状態を確認するために。

 

(良かった……()()()()()()()()()

 

 私は、恐らく普通の人とは『何か』が違う。幼い頃から、そうした漠然とした差異とそれに伴う不安を感じていた。それが目に見える形で現れてきたのが、中等部に進学した頃だった。二次性徴を終え、身体が大人になるにつれて、その現象は発生した。

 

 性的な興奮が最高潮に高まった時、下腹部に紫色の、不気味な紋章が現れたのだ。

 

 最初は私も驚いたし、不安だった。こんな魔法、聞いた事がない。でも、誰にも相談する事が出来なかった。何となく、人に話す事が憚られる気持ちがあった。それに、一晩寝るなり発散させるなりすれば、何事も無かったかの様に紋章は消える。特に実害と思えるものは無かったので、これは些細な秘め事として私の胸の内にしまって置く事にした。

 

 シャワーで身体を洗い流す内に、段々と冷静になってきた。そして、蒼蘭ちゃんに抱いた感情と、それと同じ物を『何処か似ている』という理由だけでクロニカさんにも向けた事実を再認識し、私は確かな罪悪感を覚えた。

 

◆◆◆

(大賢者ラジエル視点)

 

 アイスグレーの髪をしたその少女は、繁華街で『調べ物』をしていた。

 

(やっぱり、この場所で『運命の乱れ』が起きているな……)

 

 緑色の看板を掲げた小売店、確か『コンビニ』なる名前の店だ。この店の前と近くの路地裏で起こった出来事を、大賢者は直々に調査をしていたのだ。

 ハッキリ言ってしまえば、今回送り込んだ魔術師達は敵戦力の正確な調査を目的にした撒き餌だ。それと悪魔召喚用のオーブ、そのテスト要員のつもりだった。

 

 だが、まさか一発目で『運命因子』が、『ルリウミ・セイラ』が餌に食いつくとは思わなかった。これは余りにも嬉しい誤算だ。しかも、セイラの運命力が更に増している事が判明した。彼女を捕える事が出来れば、その身に宿す運命力を利用すれば、『勇者』を再び召喚する事も叶うに違いない。

 

(会える……ようやくボクは、勇者様との『再会』を果たせるんだ…………!)

 

 積年の願いを成就するまで、あと一歩というところまでラジエルは辿り着いていた。途方もない道のりだったが、手を伸ばせば届くところまで来ていたのだ。

 目前に迫った『勇者との再会』に、ラジエルの胸は激しく高鳴る。少女は今にも歌を口ずさみ、踊りたくなる気分だった。

 

 だが、こういう時こそ落ち着いて、冷静に行動する必要がある。彼女は糖分補給も兼ねて、屋台で購入したりんご飴を齧った。このフルーツは、ラジエルの大好物だ。味も好みだが、何よりこの世界では『知恵の実』として扱われていると、彼女はかつて勇者様から聞いた事がある。故にこのリンゴは、『大賢者のおやつ』にピッタリだと彼女は考えている。

 

 糖分を摂取したところで、ラジエルは再び思考を巡らせる。特に警戒すべきはなのは、あの忌々しい『アゲハの大魔女』だ。送り込んだ魔術師グザヴィラを翻弄した様に、必ず自分達の邪魔をするに決まっている。

 

(なら様子見も兼ねて、この世界の魔術師達と遊んであげるのも悪くないか。それに、()()()()()()()()の晴れ舞台だ。万全のお膳立てをしてあげるのが、素敵で優秀な師匠でありデキる女の子のお仕事という物さ♪)

 

 ラジエルは闇夜の中でほくそ笑む。

 

 運命因子のお友達、確か『ヒジリ』という名前だった少女だ。アイツは大いに利用できる。グザヴィラのお陰で、ラジエルは()()()()()()()()()()()()()()。そして、我が最愛の弟子は『その手の生き物』への対処に長けている。作戦の大枠は既に確定された。後は細々とした障害を排除しつつ……アゲハの大魔女を処刑するのみだ。

 

 月明かりの中、アイスグレーの少女はステップを踏み、そして夜の闇に消えていった。




これにて第2.5章、完!でございます。

さて、何ゆえ今回の章が『第2.5章』なのかと申しますと…言ってしまえば次の『第3章』への布石の章だから、です。その為に、惺ちゃんには『時の魔女』として更に成長して貰いましたし、聖ちゃんには自分の秘密を明かしてもらいました。ただ、それだけだと余りにも味気ない為、沙織お姉ちゃんの掘り下げも同時に行いつつ楽しい課外授業編として書きました!

さてさて、次は第3章!治癒魔術師の聖ちゃんメインの章となります!そして、再び第3章がある程度完成するまでは、書き溜め期間に移行させて頂きます。また更新までお時間を頂戴する事になってしまいますが、次の章もお付き合い頂けるのであれば、それに勝る幸福はありません。

最後に、当作品の第2.5章、お付き合い頂き誠にありがとうございます!また、もしよろしければ、感想やお気に入り登録、ここ好きなどを頂けますと、今後の励みにもなりますし大変嬉しいです。何卒、読者の皆様の声をお聞かせ頂けますと幸いです。
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