魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜   作:海神アリア

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前回に引き続き、『白百合家の影』についてのお話です。かなり不穏な回なので、連日投稿とさせて頂いております。


第3章14話 聖なる家に差し込む影②

 我ながら、少し大人気なかったと思う。あの生徒だって結局は、娘に取り憑いた『悪魔』の被害者なのだから。

 

 白百合家には、魔法の他にも代々受け継がれたものが幾つもある。土地をはじめとする資産、魔導書、骨董品などの財産……そして、『予言の書物』だ。私、『白百合 癒香』は現当主として、そうした物を受け継いだ。そして、先祖代々受け継がれる代物には、後ろ暗い物も往々にして存在する。それが『予言の書物』、将来的に白百合家に迫る禍音(かおん)を記した本だ。

 

 我が家のルーツは、約700年前に起きた『赫の厄災』以前に存在する。そして、当時の初代白百合家(厳密には違う家名だが、便宜上その様に呼称する)当主は、あの厄災の惨状を目にしている。地表の全てを薙ぎ払い、焼き焦がす、禍々しい赤い光を。異形の悪魔達を呼び寄せる(そら)の孔を。赤黒く巨大な魔剣を振るい、数多の人間を屠った『異邦の女神』の存在を。当然、初代当主は力ある者の責務として、人々を守る為に戦い、悪魔達を次々に葬っていった。今なお世界が存続し、私達がこうして暮らしているのは、初代当主や『アゲハの大魔女』をはじめとする魔女達の尽力あってこそなのだ。

 

 故にご先祖様は、『赫の厄災』の再来を避けられるように祈っていた。だが同時に、厄災の再来、その前兆を予見していたのだ。

 

『夜の帷が紅く染まりし時、宙に孔が開いたのなら、それは惨禍の兆しなり』

 

『その兆し現れし時は気をつけよ。我らの血を引く赤子は、悪魔の子となる。かつて、祖先により屠られし異邦の悪魔。憎悪を胸に、末裔の一生を手中に収めんと企てる』

 

 この言い伝えは、母から、祖母から、曽祖母から、その更に昔の代から繋げられて来たものだ。尤も、実際に『宙の孔』や『紅い夜空』を見たという話は聞かなかった。少なくとも、私の母は見た事がないし、祖母からそう言う話を聞いた事もないと言っていた。その為、言い伝えを廃れさせる気は更々ないが、心の奥底では無縁の事だと思っていた。私も母達がそうした様に、何代か先の子孫に向けて、この言い伝えを残すのだろうと考えていたのだ。

 

 だからこそ約16年前、私は初めて『運命』と言う物を呪った。

 

 それは、時間にすれば1分にも満たない刹那の出来事だった。だが、世界中の魔女は、あの赫に染まる空に、確かに目撃したのだ。

 

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 あの時、数えきれない程の魔女が体調に支障をきたした。歴史書や言い伝えの中の話でしかなかった『赫の厄災』、自分の目で見た者などいる筈がない。だが、魔女達の身体は覚えていた。『細胞に刻まれた忌まわしき記憶』、そう説明するしかない現象が世界中で発生したのだ。中には恐怖に耐えられずに発狂し、自ら喉をナイフで切り裂く物すら現れた程だ。これは、間違いなく、厄災の予兆だ。

 

(どうか、お願いします……。お腹の、お腹の子供だけは、助けてください……!)

 

 神か、仏か、ご先祖様か、或いは別の何かか……兎に角、懸命に祈ったのを覚えている。そうして私は、2番目の娘……(ひじり)を出産した。

 

(髪が…………黒い…………)

 

 白百合家の女は皆、白髪(はくはつ)で産まれると伝えられている。実際、私も母も、そして最初の娘の彩月(さつき)も白髪だ。だが、これだけで予言が当たったとは断定できない。髪の色がなんだ。一人ぐらい、違う色の子が生まれて来ても不思議じゃないだろう。

 

 だが聖が5歳の頃、幼稚園の遠足の時に、事件は起きた。行き先の草原で、教師達が目を離した隙に二人の女児が逸れてしまった。しかも、その内の一人がマムシに噛まれると言う事態に陥った。5歳児の小さな身体では、あっという間に毒が回ってしまう。客観的に見れば最悪のトラブルだ。しかし、噛まれた女の子は無事だった。理由はもう一人の園児、聖が()()()()()()()からだ。当然、すぐさま病院へと行かされたが、二人共身体から毒の成分は検出されなかったのだ。まさに不幸中の幸い、アニメだか動画だかで偶然知っていた雑学を駆使して毒を吸い出した園児の的確な判断により、一人の少女の命を救ったのだ。

 

 だが、私達にとっては『めでたしめでたし』で終わる話ではない。一つ、毒を吸い出し唾を吐き出す応急処置は、毒を飲み込む可能性の高い危険な手段である事。二つ、大人ですら誤飲の恐れがあると言うのに、5歳の女の子が飲み込まない訳がないと言う事。三つ、聖にはまだ解毒魔法を教えていないのに、彼女の身体からは一切の毒が検出されなかったという事。幾ら治癒魔法の家系と言えど、毒を摂取すれば体調に支障が出るし、最悪の場合死に至る。だと言うのに、娘はピンピンしているではないか。

 

(まさか…………)

 

『悪魔に毒は通用しない』、これは長年受け継がれて来た知識の一つだ。そして、考えたくは無いが、考えられる事は一つしかない。

 

 娘が、悪魔に乗っ取られたのだ。

 

 ◆

 

(嘘よ……嘘に決まっているわ……)

 

 信じたくはないが、それ以外に『聖の身体』に起こった現象を説明出来るものは無い。

 

「どうしたの、お母さん?」

 

(…………ッ!)

 

 先祖代々の伝聞によれば、奴は娘の身体で、娘の顔で、『母親を心配する健気な娘』を演じている。

 

(これは、何かの間違いに決まっているわ。そうよ、マムシ! きっと、偶々毒が回らなかっただけに違いないわ!)

 

 私は一縷の望みに縋るしかなかった。だからあの日、聖の夕食に微量の毒を混ぜた。摂取しても絶対に死なず、代わりに少し熱が出たり手足が痺れたりする代物だ。分かりやすい症状且つ、後遺症が残らない様に細心の注意を払って調合したものだ。症状が出たら、直ぐに私の治癒魔法で治せば良い。そして、娘を疑った事に対して誠心誠意謝罪しよう。それで、今度こそ丸く収まる話ではないか。

 

 …………丸く、収まる話じゃないの。なのに、どうして、聖の身体は何ともないの……? 

 

「わたし、お母さんのハンバーグも、卵焼きも大好き!」

 

 何故自分の代なのか、何故よりにもよって自分の娘なのか。

 

「……返して」

 

「お母さん……?」

 

「返してよ! 私の娘を、聖を返しなさいよッ!!」

 

「どうしたの、お母さ……」

 

「私を『お母さん』って呼ぶなッ!」

 

 私は怒りに任せて、自分の娘の身体を突き飛ばした。

 

「……何で……どうして……聖が何をしたって言うのよ……? どうして、毒を飲んでも何ともないのよ……悍ましい……」

 

 絶望と涙で視界がぼやける中で、回らない頭から纏まらない言葉がこぼれ落ちた。

 

 ◆

 

 あの日から、約10年だ。10年間、私は聖を救う方法を探していた。頼れる人は、誰もいなかった。夫は、既にこの世には居ない。三女の直が2歳の頃、愛犬の散歩中にトラックに轢かれてしまったからだ。他に頼れる者は、白百合家の中には居なかった。母も既に他界しており、相談が出来ない。そもそも白百合家中に話が広まれば、間違いなく話が大きくなり過ぎる。『分家にまで話が広がる前に、依代となった聖ごと殺せ』などと言った過激な意見が湧き出る可能性だってある。こうなって仕舞えば、自分でどつ娘に取り憑いた悪魔には、護符や聖水といった生半可な対処法では通用しない。術式魔法、スクロール、大規模儀式魔法、あらゆる方法を調べた。名のある海外の悪魔祓い(エクソシスト)にも相談した。しかし、その殆どが徒労に終わってしまった。聖の身体は間違いなく白百合家のものであり、常人の3倍程の魔力を身体に宿している。故に、普通の魔女相手に行う様な施術は通用しないからだ。

 

 こうなっては最早、彼女に縋るしか無い。悪魔祓い、『ショコラ・ヴァレンタイン』。ここ連日の悪魔騒動で、一躍話題になった謎の聖女。彼女の実力の一端を見せて貰ったが、今まで出会った魔女の中でも群を抜いた腕前を有している。正直にいうと、聖女ショコラの素性は不明な部分が多くある為、不安が無い訳ではなかった。だが、今回発生した悪魔騒動は、不吉の前兆に他ならない。そんな気がしてならないのだ。何せ、今まで『異世界の悪魔』が其処彼処で暴れ回る事など起こらなかったのだから。恐らく、聖にはそう多くの時間は残されていない。娘を取り戻すなら、今しかないのだ。

 

「……お母さん」

 

 私を呼ぶ(なお)の声で、ふと我に帰った。

 

「どうしたの、直?」

 

「あんまり強く握らないで、痛い」

 

 どうやら私は、無意識のうちに直の手を握りしめていた様だ。

 

「あっ、ごめんなさい」

 

「ううん、大丈夫」

 

 そう言うと直は、一度床に視線を落とした後、再び私の方へと視線を上げた。

 

「…………聖お姉ちゃんが元に戻ったら、私、お姉ちゃんと仲良く出来るのかな?」

 

 不安がる末っ子の頭を撫でて、こう言った。

 

「大丈夫よ。我が家の子は、みんな良い子なんだから」

 

 そうだ。聖だって、本当はきっと優しい子に決まっているのだ。だから、早く、母親である私が、彼女を助けてあげなくては。

 

 ◆

(夜の9時、瑠璃海 蒼蘭の自室にて)

 

 ……………………。

 

 やってしまった。

 

『聖のため』と(のたま)いながら、結局私は、聖の心を不用意に傷つけてしまった。

 

 私を庇った時、家庭内に於ける自分の扱いを話した時、聖はどれだけ辛い思いをしたのだろうか。

 

(何が、『誰かを幸せにできる魔法使いになる』だよ、畜生……)

 

 影子ちゃん相手に、得意げになって話していた自分が情けなくなる。

 

 もしもあの時、私が何もしなかったら、聖は傷つかなかった。『何も余計な事をしない』事が、あの場に於ける正解だったのだ。昨日、皆で誕生日会を開いて、聖は喜んでくれた。それで良かったんだ。そこで終わりにしておけば、私が余計な事をしなければ、聖が涙を流す事は無かったんだ。

 

 ある意味で、これも『運命因子』の力なのだろうか? 私が行動を起こした所為で、誰かが不利益を被る事だって、充分あり得る事じゃないか。

 

(…………こんな有様で、『運命の鍵』なんて務まるのかよ)

 

 マギナさんも、とんだ見込み違いだ。思い上がった若造に、大魔女の手助けなんて出来る筈がなかったんだ。

 

 私は目を閉じて、暗闇の世界に身を委ねる。このまま、微睡の中へ沈んでいきたかった。

 

『でも、いきなりは難しくても、"近づく事"は出来る筈だよ。それが一歩ずつなのか、三歩ずつなのかは人それぞれだと思うけど…………』

 

 思い上がった小娘の言葉が、家出少女に先輩風を吹かせて得意げに語っていた言葉が、微睡に揺蕩う無様な若輩者に突き刺さる。

 

(クソッタレが…………)

 

 過去の自分が恥ずかしく恨めしいが、このまま『何もしない』事を選んでしまうと、それこそ本当に駄目な奴になってしまいそうで恐ろしかった。そうだ、私は近づかなくてはいけない。自分の目標に、マイナス方向へ転がり落ちようと、行動を起こさなければずっとマイナスのままだ。谷底に落ちたのなら、少しでも這い上がるんだ。具体的には、明日、ちゃんと聖に謝るんだ。

 

(でも、どう謝るのがベストなんだろうか?)

 

 分からない。今の私では、100%の正解を選ぶ事が出来ない。未来予知をしたくても、親友に辛い思いをさせた今、いつも通りの方法で予知など出来るはずもない。だから、とにかく明日、聖に会って話そう。何が変わるか分からないが、謝らないと。

 

 決意を胸に、私は就寝前の支度を整える。汗くさい身体で仲直りなんて出来るわけないので、ちゃんとお風呂に入って、髪を乾かして、歯を磨いて、ベッドに潜った。

 

(そういえば……修学旅行の前に、閉じ込められた時の予知夢を見たな……)

 

 あの時は意図的な未来予知とは異なり、自分の意思とは無関係に何の前触れなく未来の夢を見た。もし、未来の夢を今夜見る事が出来るのなら、どうやって聖と接すれば良いのかが分かるのだろうか? 

 

(…………そんな都合良く事が運ぶ訳ないよな)

 

 私は瞼を閉じて、今度こそ眠りについた。

 

 ◆

(……なんだか、身体がちょっと重いな)

 

 目覚ましの音で瞼を開ける。頭がぼんやりして、朝だというのに若干の脱力感が身体に纏わり付いている。寝ぼけ眼を擦り、ふと視線を下に落とした時……私の眠気は完全に消え失せた。私の枕に、赤黒い染みが付着していたのだから。

 

「…………『血』?」

 

 すぐさま洗面所へ行き、自分の顔を確認する。鼻血ではなく、口から血を吐いたようだ。涎の様に口元から首元へと伝う血の跡で分かった。予知関係で血を吐いたのは、ショッピングモールの一件依頼か…………。

 

(何か、未来の光景を見たって事なのか…………?)

 

 私は夢の内容を思い出そうとする。だが、頭に浮かぶのは、モザイクのかかった様な、お婆ちゃんの家にあったブラウン管テレビの砂嵐みたいな、そんな朧げな光景だった。

 

(いや、待て、何か思い出せそうな…………)

 

 私は口元を押さえて、夢の回想を止めた。これ以上思い出そうとすれば、今度は新鮮な血が口から出る。そう直感したからだ。

 

 私は冷蔵庫に買い置きしていたポーションを取り出して、喉に流し込み応急処置を行った。一応、朝食は食べずに保健室に行って診てもらおう。そしてその後でちゃんと、聖と会って話さないとな…………。




魔法の世界の歴史、白百合家の闇、そして聖を取り巻く不穏な空気……。

蒼蘭は、惺は、無事に聖と話しを出来るのでしょうか?

次回は、4/24に投稿予定です。
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