魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜   作:海神アリア

95 / 100
 改めまして、本作を読んで頂いている皆様、いつもありがとうございます。
 前話、前々話とかなりヘビーな展開でしたので、正直読者の皆様が離れてしまう事を危惧しておりました……。ですが、まだこのお話を見届けて下さる方々が沢山いて、嬉しい限りです。まだまだシリアスな展開は続きますが、第3章の結末だけでも見届けて頂けますと、とっても嬉しいです。
 それと、今回も前半部分に鬱要素のあるシーンがありますので、ご注意願います。

 さて、メンタルが弱っている蒼蘭ちゃん。ですが敵は、そして運命は待ってはくれません。『運命の鍵』に、次の試練が襲い掛かります。


第3章15話 大魔女マギナの『三つの助言』

 保健室の先生には喉の様子を診てもらったが、特に深刻な症状ではなかった。その為、軽い治癒魔法をかけてもらい、先生からは遅刻証明の紙を貰い、少し遅れて1時間目の授業に出席する事にした。

 

 …………遅刻した時、教室のドアを開けるのは気が重くなる。そりゃ、遅刻の理由それ自体は『体調不良』だから気にする必要は無い。でも、朝一番に聖に謝りたかったな……。

 

(ええい、ドアの前でウジウジ悩むな! 開けるぞ、惺!)

 

 私は意を決して扉を開け、早苗先生に頭を下げる。

 

「すみません、体調不良で保健室に寄っていました。こちら、先生から頂いた証明書です」

 

「はーい、保健室の先生から、お話は聞いていますよー。季節の変わり目、夏の始まり、体調には気をつけてくださいねー」

 

 早苗先生の普段と変わらない、おっとりした口調と声色が、メンタル低下中の今ではありがたい物に感じた。踵を返して自分の席へ向かい……私は異変に気がついた。

 

 聖の席が空いていたのだ。

 

「早苗先生、聖は……? まさか、聖も体調不良ですか?」

 

「いいえ。白百合さんは、()()()()()()で、お休みです」

 

 先生の口調が、少し重い物になっていたのを感じた。私は咄嗟に、前隣の席の親友に視線を送る。私の意図を察した炎華は、苦い表情で首を横に振った。彼女も、聖が休んだ理由を知らないようだ。背筋を嫌な汗が伝う。

 

(『家庭の都合』だって? そんな訳あるか……だって、聖のお母さんは……)

 

 昨日の光景がフラッシュバックする。聖の母は、彼女を娘として見ていなかった。だから、家庭の都合というのは方便に違いない。なら、本当の理由は…………? 

 

(もしかして……私の所為?)

 

 ◆◆◆

「セーラ? もう、お昼休みだよ?」

 

 炎華の声で、私は我に返った。

 

「え? あ……もうそんな時間か……」

 

「大丈夫? ずっと、ボーッとしているっていうか……『心ココにあらず』って感じだけど?」

 

「大丈夫……とは、言えないかも」

 

 正直、授業の内容の大半が頭に入らなかった。聖の事で、頭がいっぱいだったからだ。

 

「聖は、大丈夫なのかな……?」

 

「それは……あーしにも分かんないかな……。ひじりん、チャットアプリでも既読付かないし……」

 

 炎華の声も落ち込んでいる。そりゃそうだ。私なんかより、炎華の方が付き合いが長いんだから。炎華だって、聖が心配なんだ。もしかしたら……友達(ほのか)の、大切な友達(ひじり)を、私は傷つけてしまったのだろうか? 

 

「炎華はさ……聖の実家の住所、知ってる?」

 

「埼玉の近くってのは聞いた事あるけど、具体的な住所は知らないかな。あーしが知ってたら、お見舞いに行けたのにね……」

 

「ううん、炎華は全然悪くないよ! 

 

 ……ごめん、気を使わせちゃって」

 

 ぎこちない空気が、私の炎華の間で生まれてしまった。そんな空気を察してか、炎華が私を廊下に連れ出した。

 

「取り敢えずさ、ちゃんとお昼は食べよ。セーラ、多分だけど朝ごはん食べてないっしょ? セーラが元気ないと、ひじりんが戻って来たら心配しちゃうって」

 

 聖もだが、炎華も大概優しすぎる子だ。私は、こんなにも素敵な少女達と、果たして釣り合うに足る人間なのだろうか……? 

 

「おー、丁度良いところに居た! 瑠璃海さーん!」

 

 向こうから、見慣れない生徒がやって来た。

 

「えっと……どちら様? D組の子じゃないよね?」

 

「そのとーり、私はB組で新聞部に所属している者でーす♪」

 

 軽い口調とは裏腹に、表情の節々からは何か棘のある物を感じる子だ。

 

「それで、巷で話題の転校生ちゃんにインタビューに来ちゃいましたー♪」

 

「インタビュー?」

 

「そうよ。昨日、特別講師の白百合先生と言い争っていた事。貴女……随分と調子に乗っているみたいじゃない」

 

「それは…………」

 

「私の情報網によると、先生の娘さん……白百合 聖ちゃんは、今日お休みなんでしょ? 『家庭の都合』って話らしいけど、どう考えても昨日の一件が関係しているわよね?」

 

「…………!?」

 

「『噂の転校生、遂に化けの皮が剥がれる! 彼女の問題行動が、クラスメイトにも波及か!?』

 

 次の学内新聞は、こんな見出しかしら?」

 

 新聞部員の表情から滲み出る悪意を感じ、私は思わず視線を逸らした。だが、逸らした先で別の生徒と目が合った。彼女も見た事がない生徒なので、多分B組の子だろう。『囲まれている』とまでは行かないが、周囲には疎に、D組やA組以外の1年生が集まっていた。そして……彼女達も何か、棘のある雰囲気を纏っていた。歯に衣着せぬ言い方をすれば……『敵意』や『悪意』の様な、そんなベクトルの棘だ。

 

「ちょっと、そんな言い方ないじゃん!? 大体、『化けの皮』って何? セーラが何に化けてるって言いたいの?」

 

「そんなの決まってるじゃない。偶々(たまたま)ちょっと珍しい魔法が使えて、A組との演習試合もまぐれで勝って、学内バイトや課外授業では異世界人を討伐、A組の生徒会メンバーとも交流があって、オマケに初代理事長の大魔女様に気に入られている…………。そりゃ、驕り高ぶるでしょうよ、天狗にもなるわよ。

 

 この転校生は、周囲の事を舐め腐っているって事よ! 可愛い子ぶってるその顔の裏では調子に乗っているから、先生に対してもデカい態度を取れるんでしょ!?」

 

 周りからの敵意が一層強まった。私は、自分の想像以上にB組達から不況を買っていたみたいだ。これまでの学園生活を振り返れば、大なり小なり悪目立ちしている自覚はあった。そのつもりだった。とは言え、まさかここまで嫌われているとは思っても見なかった。

 

「『セーラが調子に乗っている』なんて、全部ただの想像じゃん!? そんなデタラメ新聞、誰が見んのよ、ざっけんな!」

 

「D組のクラスメイトに被害が出ているんなら、出鱈目とは言えないでしょ? だからじっくり『取材』して、転校生の正体を突き止め……ぎゃひゃあっ!?」

 

 突如、新聞記者が奇声を上げる。凍ったコーラのペットボトルを頬に押し付けられたからだ。

 

「ウチ、バカだから良く分かんないんだけどさ……ひじりんが居ない時に、るみたんに詰め寄るのは『取材』って言えんの? 一番の当事者(とーじしゃ)はひじりんっしょ? 今の、るみたんに言い掛かり付けるのがメインになってるじゃん」

 

美雪(みゆき)……それに、明星(あかり)も!?」

 

 購買から戻ったカラ友が、B組達に割って入ったのだ。

 

「うん、美雪と炎華の言う通りだよね。そもそも、貴女達は蒼蘭に何を求めているの? 取材と称して、蒼蘭の事を苛めている様に見えるけど?」

 

 明星の言葉に追随する様に、もう一人の生徒が二人の後ろからおずおずと顔を出す。彼女の事は知っている。クラスメイトで、彼女も新聞部員だった。

 

「こんなゴシップ、新聞部の活動方針とは真逆だよ……。この前も、部長に注意されたばっかりじゃない……」

 

「そんなの、所詮綺麗事じゃない。皆、表向きには眉をひそめて置きながら、結局は下世話な噂や炎上話が大好物なのよ! そもそも、貴女達だって口ではその転校生を庇っているけど、本当はコイツが原因だって思ってるんでしょ?」

 

 B組とD組の間で、険悪な雰囲気が益々強くなっている。このままじゃ、マズい! 

 

「…………待ってよ! だったら、白黒ハッキリ付けましょう!」

 

 私の口は、漸く開く事が出来た。友達に庇われてばかりで良いのか? いや、良くない! 良いわけがあるか! 

 

「私が……私が聖に話を聞いてくる。出来る限り、学園にも連れてくる。それで、昨日の騒動の真相をハッキリさせたら……私の事は、好きに記事にして良いから。私が100%悪いって判明したのなら、堂々と書けるでしょ?」

 

 これが、正解なのかは分からない。もしかしたら、(ほとぼ)りが冷めるまで、大人しくしておくのが最善なのかもしれない。ここまで話が大きくなった原因には、私の不用意な行動が絡んでいるのも事実だ。或いは、私が最初にやった通り、『全部私が悪い』と言う事にして泥を被れば、聖がこれ以上傷つくことは無いのかもしれない。

 

 だが、一方で美雪の言う通り、一番の当事者は他でもない聖だ。そもそも、『私の所為で聖が休んだ』と言うのも、結局は私の憶測でしかない。()()()()()()()勝手な事をするのは、それこそこのB組の記者と同じじゃないか。だったら、いっそ全部ハッキリさせてしまえば良い。その結果、聖が学園に戻る事が難しい状態なら……その時は、何か別の案を考えよう。

 

 何より……上手く言えないが、()()()()()()()がするのだ。もしかしたら、この『予感』は、この場に居る全員が感じているのかもしれない。タダでさえ、悪魔騒動なんてイレギュラーな事が起こっているのだ。B組、C組の子達がピリピリしているのも、彼女らが心の中で漠然とした不安を抱えているのかもしれない。

 

「放課後……聖の家、行ってくる。住所なら先生が……早苗先生か胡桃沢先生が知っている筈だから、聞いてみる」

 

「…………ふん」

 

 B組の生徒達は、ひとまずこの場は立ち去ってくれた。足元から力が抜け、膝を地に突きそうになった。

 

「セーラ、大丈夫!?」

 

「大丈夫……ちょっと、メンタルに来ただけ。それより……さっきは庇ってくれて、本当にありがとう」

 

 私は炎華達に頭を下げた。

 

「良いって。それよりセーラ、早くランチにしないと昼休み終わっちゃう!」

 

 炎華が私の手を引いて学食へと進み出す。

 

「そうだ。コレ、るみたんにあげる」

 

 凍らせたコーラを、美雪が投げ渡してくれた。

 

「炭酸、好きっしょ? いつも飲んでたし、今日は暑いから凍らせといたヤツ、あげる。それ飲んで、頑張ろ」

 

「ありがとう、美雪!」

 

 私は、本当に良い友人に巡り会えた。当然、この場に居ない聖も含めて、だ。

 

 ◆◆◆

 放課後、私は自室へ足を運びながら、思考を巡らせる。取り敢えず、カバンを置いたら速攻でお姉ちゃんに連絡しよう。非常勤講師とは言え、生徒の連絡先を知っている可能性も十分存在する。それと、『蒼蘭』は聖のお母さんに悪印象を抱かれている。だから、茜かリリアの魔女っ子スーツを着て、聖に会いに行く必要がある。学園の生徒でない身体で外を出歩く為には……結局、『胡桃沢先生』に頼る事になっちゃうな。

 

 そんな事を考えながら部屋のドアを開ける。

 

「お帰りなさい、蒼蘭お姉様。貴女の帰りを待っていたわ」

 

 何度目か分からない、大魔女の自室訪問。しかし、今回は何かが違う。今まではベッドに潜り込んだり、クローゼットの中に隠れたりといったイタズラも同時に仕掛けていたマギナさんが、ベッドに堂々と腰掛けて待っていたのだから。

 

「私に、何か御用でしょうか? 急ぎの用でなければ、私はこの後やらなきゃいけない事があるので、出来ればまたの機会にお願いします」

 

 態々私を待っていた妖精淑女に、失礼な態度を取っているのは自覚している。しかし、私にだって都合があるのだ。外せない、大切な用事が。

 

「お急ぎのところ、ごめんなさいね。でも、『聖お姉様』の事で、どうしても話しておきたい事があるの」

 

 マギナさんの言葉に一瞬驚いたが、よく考えれば当然の事だ。彼女は私の心が読めるし、何より彼女が態々出向くと言うことは、伝えなきゃいけない大事な用事があるという事だ。……それがよりにもよって、聖に関する事柄なのが不安なのだが。

 

「聖が、どうかしたのですか……?」

 

「彼女は……白百合家の人達は今、『聖女ショコラ』と一緒に居るわ」

 

『魔女の家』へ子供達と共に来店した、一風変わったシスターのお客様だ。何故、彼女が聖と……? 

 

「なんで……ショコラの名前が出て来るんですか?」

 

「端的に言えば、聖お姉様は今晩、シスターの()()()()()()と言う事よ」

 

「…………!?」

 

 マギナさんの声色は真剣そのもの、故に彼女が語った事が真実であると思い知らされる。だが、未だに理解が追いつかない。

 

「どういう事なんですか? 聖女ショコラの手中に落ちるって……まさか!?」

 

「そう、彼女は異世界からの刺客、『悪魔騒動』を引き起こした張本人だったのよ。それも、私と貴女の予想通り、聖女ショコラは『大賢者ラジエル』と深い関わりを持っているわ。並行世界で見た『運命の乱れ』は、そうでないと説明がつかない。ショコラと相対しているにも関わらず、姿形がモザイクをかけられた様に朧げで(いびつ)だったのだから。大賢者ラジエルが、一枚噛んでいると見て間違いないわ」

 

(聖が、異世界人に捕まった……? しかも、聖女ショコラが『悪魔騒動』の黒幕で、聖を捕まえに来たって!?)

 

 心臓が早鐘を打ち、青ざめた血が全身を巡るのを実感した。友人に迫る危険に対しての緊張と恐怖心、子供達と穏やかに笑うシスターが事件の首謀者だという事実への驚愕と悲しみ、様々思考と感情が目まぐるしく渦を巻いた。

 

(いや、待てよ……? 『今晩』、『手中に落ちる』……?)

 

「マギナさん! 聖はまだ、捕まってないって事ですよね!?」

 

「ええ。彼女が異世界の聖女に囚われるのは、もっと夜遅くよ」

 

 マギナさんの言葉に、私は希望を見出した。そうだ、まだ起こっていない出来事なんだ! いつもみたいに、マギナさんは並行世界で予知した事を、私に知らせるために来てくれたんだ! 

 

「だったら、今すぐ聖を助けに行きましょう!」

 

「それはダメよ」

 

 マギナさんの口から紡がれた言葉は、とても冷たい空気を纏っていた。

 

「な、何故……ですか……?」

 

 唇に力を入れて、声が震えるのを何とか抑えようとするが、今の私には出来なかった。

 

「彼女を助けに行った場合……私と貴女の、どちらかが命を落とすわ」

 

「…………!?」

 

 口の中が干上がる。言葉が、声が、出ない。

 

(死ぬ? 私か、マギナさんが? 一体、何を言っているんだ? どういう事なんだ?)

 

「言ったでしょう? 聖女ショコラは、大賢者ラジエルと深い関わりを持つ、と」

 

「まさか……ラジエルもこの世界に……?」

 

「ええ、来ているわ。だから、私達が救出に向かえば、必然的にラジエルとの戦闘は避けられない。故に、確実に命を落とすわ」

 

「……………………」

 

『自分の死』を予見された事なんて、生まれて初めてだ。それに、今までは私とマギナさんの未来予知で、何とか未来を変える事が出来ていた。だから、これからも何が起きようとしていても、『何とかなる』と心の何処かで考えていた。だから、正直言うと、非常にショックである。そう、ショックではあるのだ。

 

「…………だとしても、私は! 聖を、助けに行きたいです!」

 

 そうだ、親友を見捨てられる訳ないだろう! これから何が起きようと、私は聖の所へ行かなきゃいけないんだ! 

 

 そんな私の考えは、

 

「……少し、冷静になって頂戴な」

 

 マギナさんの冷たい声色を前に、急激に熱を失った。

 

「『冷静』って、一体どういう事ですか?」

 

「落ち着いて、私の話を聞いて欲しいの。

 

 彼女の事は……『白百合 聖』の事は、諦めて頂戴」

 

「は…………?」

 

 え………………? 

 マギナさんは、一体、何を言っているんだ? 

 

「そんな事、できる訳ないでしょう!?」

 

「落ち着いて、冷静に聞いて欲しいの。大前提として、これは明らかに罠よ。『運命の鍵』である貴女を誘き出す為に、異世界人が仕掛けた罠。加えて、相手は悪魔を使役する魔術師と、女神に仕える大賢者。今までの異世界人達とは比べ物にならない程の強敵に違いないわ。何より貴女の命は、貴女だけの物じゃない。()()()()()()()()()()()のよ」

 

「『未来』って……」

 

「忘れたの? 私の魔法は、並行世界世界を通じた事象の上書きが出来るのよ。そして、それには『運命の楔』と、それを生み出せる貴女が不可欠なの。『貴女が居れば救えた筈の命』は近い将来、更に数を増していくわ。貴女は、救える筈だった多くの命を、ここで見捨てると言っているのよ。

 

 …………私が、『聖お姉様を見捨てる』、そう言っているのと同じ様に」

 

 マギナさんの声色に、真摯で厳粛な雰囲気が混ざる。思えば、今日のマギナさんはずっと真剣な態度を貫いていた。ならば……無理なのか? 本当に、聖を助ける事は、出来ないのか? 

 

 ……いや、無理か、きっと不可能なんだろう。マギナさんの語る『モザイクのかかった光景』には、覚えがある。昨晩見た夢が、まさにソレだ。あれは、『ラジエルが関わっている未来のビジョン』に違いない。だからこそ、マギナさんの言葉には大きな信憑性がある。何より、マギナさんが私の部屋まで来て、『聖の事を見捨てろ』なんて言ったのだから。きっと、この後起こる未来は変えようがないのだろう……。

 

 …………いや、待てよ? 

 だったら…………。

 

「だったら……どうしてマギナさんは、私に未来の事を、聖の事を教えたんですか?」

 

 そうだ、おかしいじゃないか。マギナさんの立場なら、『大勢の人の為に聖を見捨てろ』なんて態々(わざわざ)言う必要はない。本気で大のために小を切り捨てるのが目的なら、それこそ適当な嘘をついて私から聖を遠ざければ済む話だ。

 

「今回は、余りにも重大過ぎる分水嶺よ。()()()()()()()()()()()が、悪魔騒動の首謀者達の手で引き起こされているの。だからこそ貴女の……『運命の鍵』が選択する事に意味があるのよ」

 

 マギナさんは私の手を取り、極彩色の瞳で私の瞳を見つめた。

 

「さぁ、決断をして。私の見込んだ魔法使いなら、きっと正しい未来を選ぶ事が出来るわ!」

 

 ……………………………………………………。

 …………………………。

 

 私は小さな空気の塊を口から溢し、妖精の瞳に映る愚昧(ぐまい)な自分を嘲りながら言葉を紡いだ。

 

「私は昨日に続いて、今日も『アゲハの大魔女』の顔に泥を塗りたくる羽目になりますね」

 

「蒼蘭お姉様…………?」

 

「ごめんなさい。折角、私の様な新米に目をかけてくださったのに。でも、今回ばかりは従えません! 仮に、今日何も行動を起こさなかったら、聖を犠牲にする未来を選んだのなら、私はきっと後悔します。仮にこれからの未来で、私の時魔法で大勢の命を救えたとしても、『魔法の世界で初めて出来た友達を救えなかった』という事実は変えられません。

 

 それに、私がこの学園で過ごした時間は短いですが、余りにも濃密でした。魔法の世界、魔法のお勉強、魔法の学園での生活……そして、その生活を送る上で、私は魔女の友達に助けられました。いや、『助けられた』だけではありません。側に居て話したり、一緒にご飯を食べたり、雑誌の占いコーナーに一喜一憂したり、一緒にアルバイトをしたり…………学園で出来た友達は、色々な物を私にプレゼントしてくれました。

 

 私は、彼女達からの贈り物に、誇れる魔女になりたいです。だから、仮に『未来で救われる人々を選ばない』という選択を取ったとしても、贈り物をくれた聖の事を、助けに行きたいんです!」

 

 堰を切ったように、言葉が、想いが溢れ出す。私は、大勢の見知らぬ人ではなく、少数の身近で大切な人を選ぶ人間だったみたいだ。こんなのが『運命の鍵』だなんて、マギナさんもきっと失望しただろうな……。

 

 妖精淑女の瞼が閉じられた。そして再び極彩色の瞳が現れた時、彼女は信じられない事を口にした。

 

「分かったわ。なら、蒼蘭お姉様の意見を尊重しますわ。一緒に、聖お姉様を助けに行きましょう!」

 

「……………………………………。

 

 ええ!? い、良いんですか!? しかも、私一人じゃなくて、マギナさんにも手を貸して頂けるんですか!?」

 

「ただし、条件があるわ」

 

 意外過ぎるマギナさんの提案に驚愕し、歓喜したが、大魔女からピシャリと発せられた冷静な言葉に、私は瞬時に口を噤んだ。

 

「これから私が伝える、『三つの助言』を守ること。それが、私が蒼蘭お姉様を聖お姉様の元へ行かせ、更に私が聖お姉様の救出に協力する事の条件よ」

 

「…………分かりました。勿論、守ります。それで、その『三つの助言』とは?」

 

「まず一つ目、『夕方の6時までに、仲間を集める事』よ。ここで重要なのが人数の大小よりも、蒼蘭お姉様が"これぞ"と思った人を呼ぶ事。ここでは『運命の鍵』の人選能力が問われるわ」

 

「分かりました」

 

『"これぞ"と思う助っ人』か……何となく、声をかけるべき人物は絞り込めた。

 

「次に二つ目、『異世界人が聖お姉様を求める理由を知る事』よ」

 

「『理由』って……さっきマギナさんが言ってたじゃないですか。私を誘き出す為の罠だって」

 

「それだけじゃないわ。そうね……流石にノーヒントでは伝わり難いわよね、ごめんなさい。なら、こう言い換えるわ。『白百合家が持つ本を使って"リリス"と言う人物について調べる事』、これが二つ目の条件よ」

 

「『リリス』……? その人と、聖にどんな関係が?」

 

「その答えは、貴女達自身で辿り着いて欲しいの。少し大変だけど、頑張って頂戴な」

 

 今ひとつ状況が掴めないが……私は、彼女の助言を信じる事にした。

 

「それで、三つ目の助言は何でしょうか?」

 

「そうね……最後の助言が一番大切な事よ。蒼蘭お姉様達は今夜、白百合家の秘密を知る事になるわ。だけど、その秘密……新しい()()を得たとしても、『自分の信じる物を心に据える事』よ」

 

「信じる物……要は『初志貫徹』って事ですか?」

 

「うーん……それは、少し違うわ。今まで知らなかった事を知る事で、人は視野を広げられるし、物事を違う側面から見る事が出来るの。だから当然、知識を得る事で人が持つ意見や考えが変化する事もあるわ。ただ、その上で自分に問いかけて欲しいの。

 

『自分は何を信じて、何を選ぶべきか』、と心に聞いて頂戴。この問いは自らの視野を広げた時にこそ、大きな意味を持つわ。そして、お姉様の心が導いた選択肢に従って欲しいの」

 

 成程……何となくだが、マギナさんの言わんとしている事は予想できる。彼女はどうやら、私に白百合家の秘密を知って欲しいようだ。その秘密とやらは多分、私にとって衝撃の事実なのだろう。それを踏まえた上で私がどう考えるのか、それが肝心という事だろうか? 

 

 ちょっと、いや、かなり難しい助言な気もするが……

 

「分かりました。やってみます、やり遂げます! マギナさんから頂いた三つの助言を全てクリアして、聖を絶対に助けます!」

 

 そうだ、私のやるべき事は変わらない。大切な友達を、助けに行くんだ! 

 

「ええ、その意気、その心構えよ」

 

「はい! では早速、『聖奪還作戦』に協力してくれそうな人に会って、頼んでみます!」

 

「お願いね。私は私で準備する事があるから、失礼するわ」

 

 マギナさんはワームホールで姿を消した。時計は既に、午後の4時を指していた。猶予は少ない、すぐに行動に移さなければ。私は部屋を飛び出し、1人目の協力者候補の元へ向かった。

 

 ◆◆◆

 亜空間を繋ぐワームホールの中で、妖精淑女は自身に問いかける。

 

『自分の選択は、本当に正しかったのだろうか?』

 

 …………………………

 …………

 

 後悔と自責の念で脳と心が押し潰されそうになり、大魔女マギナは無言のまま、文字通り頭を抱えた。彼女が見た予知の光景を思えば、客観的に考えれば、マギナの選択は不正解も良いところだ。仮にマギナが命を落とせば、現役の『大魔女』は地球上から消滅する。そうなれば異世界人への対抗戦力も低下し、今尚研鑽を積む魔女達の士気も大きく下がるだろう。

 

 だが、それはまだ『マシな方』だ。少なくとも、アゲハの大魔女本人はそう考えている。何故なら、『運命の鍵』が失われれば、未来を変える事が完全に叶わなくなるからだ。何より、『絵本の世界に訪れた子供』を死なせる事があれば、それこそ妖精としての名折れ極まれりではないか。

 

 だから、惺本人が口にしたように、黙っているのが正解だった。本気で世界を救う道を選ぶなら、たとえ優秀な学生であれ、知人(リリス)の子孫であれ、ここで切り捨てるのが最適解であった。

 

 …………だが、この妖精には、それが出来なかった。彼女は既に、聖とは希薄とは言えない関係性を築いてしまっていた。二度に渡るアルバイトの依頼、そして先日の誕生日会では会場と紅茶を用意する程度には、聖に対して情を抱いていた。

 

 その上、何よりも大きな理由として、惺が見せた『眼差し』があった。渋谷で初めて彼……否、彼女と出会った時も、惺は予知した事に対して立ち向かおうとしていた。マギナは、あの眼差しをよく知っている。それは、700年以上前に出会った『勇者』と同じものだからだ。勇者を大切に想っている大魔女は、彼と同じ眼差しを持つ惺に対して、不誠実な事はしたくなかったのだ。

 

(でも……この選択は、果たして正解だったのかしら?)

 

 今は答えの出ない問いである事は理解した上で、マギナは何度も自分に問いかける。『大魔女』という肩書きは、本来は自由気ままに生きる妖精には余りにも重すぎる代物だった。その度に、彼女は勇者の事を思い出した。自分に色々なものを授けて、託してくれた存在を。

 

 もしかしたら、彼女は縋っているだけなのかもしれない。未来に立ち向かう意思、運命を捻じ曲げる力、あらゆる物が勇者と同じである『運命の鍵』に。だが、それこそ今の彼女には、解の導き出せない問いだった。




 惺の、そしてマギナさんの選択は、果たして吉と出るか、凶と出るのでしょうか……?

 次回は一週間後の5/1に投稿予定です。
(もし余力があれば、予定を早めてゴールデンウィーク前日の4/28に投稿する…かもしれません)

 また、もし宜しければ、感想、ここすき、評価など頂けますと、今後の励みになります。特に、最新の第3章を見届けて頂いている読者から見て、この作品が皆様の目にどう映っているのか、個人的に非常に気になる所でございます。色々と試行錯誤をしながらの執筆ですので、ご意見・ご感想を頂けますと、とても助かります。是非、よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。