「我が主の子供達だ、貴様らを悪いようはせぬ。まぁ、せいぜい役に立てるよう精進する事だな」
カカカ、と笑いながらレヴィは母様の後を追って行った。
その後ろ姿を見送って、僕は目の前のマモンに振り返る。
「じゃあ、主従契約を…」
〔格好いい名でなければ、認めぬ〕
フイッと首を横に向けられてしまった。
シャナの方を見れば、ルシファーだからルシィだと安直な名前を付けている。
それで良いのか、とも思ったが、レヴィやルティの名前の理由を母様に聞いた事があり、あぁ血筋か、なんて納得した。
あんなので良いなら、僕も悩まなくて済むんだけど。
実は、僕のネーミングセンスは壊滅的なのだ。
子供の頃の黒歴史は思い出したくもない。
マモンの前に座り、僕は頭を捻る。
流石に思いついた名前は何個かあるけれど、判定役のシャナがあの調子なので、呼ぶのも憚れた。
ツェリに話すのは…少し恥ずかしい。
僕の黒歴史を知るのは、兄弟姉妹だけで良い。
あぁ、あとユエとユタカも知ってたっけ…。
〔早く決めてくれぬか。退屈で仕方ない〕
耳の裏を後ろ足で搔き、マモンは欠伸をする。
七罪の悪魔、マモンは確か強欲の悪魔だった気がして僕は彼に尋ねた。
「君、強欲の悪魔だよね? 確か」
〔だからなんだ。我は貴様みたいな下等な生物に使役される存在ではないというに〕
何を当たり前な、みたいなニュアンスで尻尾を地面に叩きつけ、マモンは怒りを露わにしている。
それが確認出来ただけでも良しとしよう。
僕は立ち上がり、カヅキおばさんと話している母様の所へ行く。
「母様、何か良い案ない?」
〔困った時は母親頼りか…マザコンか貴様〕
とりあえず無視。
あと、僕はマザコンではない。
母様にべったりなんて、気持ち悪いだけでしょ。
信頼しているし、尊敬出来る存在なだけだ。
母親として愛情を注いでもらっているのが、僕もシャナもわかっているからこそ、同じだけ返せているかはわからないけれど…母様の事が大好きなだけだ。
それをマザコンと言われたら…まぁ、それまでなんだけど。
「自分で考えなさい、って言いたい所なんだけれど…」
母様が苦笑する。
僕のネーミングセンスが壊滅的なのは、母様も知る所だ。
だからこそ、母様に頼る。
「グンジョウ、変な名前ばっかつけるもんね」
使い魔との戯れが終わったのか、ルシィを還したシャナが母様に抱きついた。
そんな姉の頭を、母様は仕方ないと笑いながら撫でている。
〔そんなに酷いのか…?〕
マモンが、恐る恐るといった風に聞いてきた。
姉は大きく頷く。
「君、母様に名前つけてもらった方がいいよ。グンジョウは昔から、変な名前しか思いつかないんだから」
〔た、例えば?〕
母様は空中を見上げ、知識を総動員しているようで少し上の空だ。
そんな母様を手伝ってくれても良いだろうに、カヅキおばさんは無視を決め込んでいる。
「えーと…確か、食器棚にシャンティーニャ、城の名前をギルガメッツファンタスティックに変えた方がいい、って言ってたっけ? リヒト城って名前がちゃんとついてるのに」
「うわぁぁぁぁぁぁあっ!!!?」
思わずシャナを母様から引き剥がし、その口を塞ぐ。
モゴモゴと、僕の腕の中で暴れる姉に苦情を言った。
「そんな大声で言わないでくれない?! それにそれ、何歳の時の話だよ!! かなり小さい時だろう?!」
「ぷはっ! それでも六年前でしょう?」
非難めいた目を向けられるが、僕の黒歴史を暴露したんだから、これぐらいどうという事はないだろう。
〔まぁ…将来子供が生まれた時は、妻に付けてもらうと良いのではないか?〕
マモンが憐れみの目で僕を見る。
使い魔にまで憐れまれる僕って…。
シャナを後ろから軽く抱きしめ、ため息をつきつつ姉の肩に頭を乗せる。
そんな僕の頭を、シャナは慰めるように撫でてくれた。
原因、シャナなんだけど。
「強欲なら、グリードってどうかしら。レヴィもレヴィアタンから取ったし」
「良いではないか、強欲の。グンジョウに付けてもらうよりは、遥かにマシであろう?」
有無を言わせぬ、と言った感じで、レヴィはマモンを見ている。
彼は仕方ない、といった感じで尻尾を振った。
その後は何事もなく、魔武器と使い魔の召喚の授業は終わったのだった。
◆◆◆
さらに数日後、僕とシャナは城に呼び出されていた。
どうやら、ユエとユタカの再教育が終わったらしい、との事で僕に判断してほしいそうだ。
謁見室に入ると玉座に父様、その隣に母様が立っていた。
僕とシャナは玉座へ登るための階段に数段登り、入口の方を向く。
暫くして、カヅキおばさんとその後ろ、ユエとユタカが大人しく入ってきた。
いつもなら、僕の姿を認めた瞬間目を輝かせていた二人が、大人しい事に違和感を覚える。
いや、これが普通なんだ僕。
異常に慣れすぎていただけだって。
軽く頭を振って、雑念を追い出した。
玉座の下方、階段の数歩手前でカヅキおばさんは止まり、僕らに跪いて臣下の礼を取る。