微笑み返そうとしたところに、シャナがパンパンと手を打ち鳴らした。
「はいはい、もう時間も遅いし、片付け終わったらみんなお部屋に帰ってねー。グンジョウ、一番遅かったんだから片付けして」
「わかってるよ、シャナ」
唐揚げもしてたし、洗い物凄いんだろうなぁ、と立ち上がる。
各々立ち上がり、そのまま扉へ向かっていくが、ユエは僕の隣から動こうとしなかった。
「ユエ? ユタカと一緒に帰らないの?」
「洗い物の片付け手伝うよ。大体、遅くなったのは私のせいでもあるし。シャナちゃん、良いよね?」
他のメンバーを見送っていたシャナは、その言葉に振り向き、困ったように笑う。
「別に、あたしに許可取らなくてもいいよユエちゃん。グンジョウが責任持って送り届けるだろうし。あとよろしくー」
僕とユエに手を振って、シャナはメンバーを見送った後、風呂場に続く脱衣所に入っていく。
それを見た僕は、脱衣所に向かって声をかけた。
「シャナ、一式持ったの?」
「持ってきてー」
くぐもった声ながらそんな返答をされて、僕は項垂れる。
だから、年頃の女の子が、弟だからとそう簡単に異性に下着類を持って来させる、ってどういう神経してんだ。
確かこの間もバスタオル一枚で出てきて、飲んでたお茶吹き出した事あったな。
母様に言いつけて怒ってもらったけど、ツルギがいなくなったからって腑抜けてんじゃねぇよ。
なんだったら、ツルギと部屋交換してやろうか?!
ワナワナと、怒りで肩を震わせている僕の腕にユエが触れる。
そちらを見ると、彼女は苦笑しているようだった。
「私が持っていくよ。アオは洗い物してて? 後で拭くから」
「あぁ…うん。よろしく」
多分シャナの態度から、そして僕の様子から、度々起こっているんだろうな、とユエは察したはずだ。
苦労してるんだなぁ、と思ってくれている事だろう。
将来、ツルギにも同じ事しそう…呆れられないと良いんだけど、シャナ。
僕は洗い物をしながら、そう思う。
ユエはシャナの部屋に入り、姉のを脱衣所に持っていくと、暫く出て来なかった。
何か話す事でもあったんだろうなぁ、なんて思いつつ水切りラックに洗った食器を置いていく。
六人分だから結構な量だったけど、洗い終わるくらいにユエが出てきた。
凄くニコニコしてるけど、一体何があったのか。
「おかえり。何かあったの?」
「うん、シャナちゃんには特大の釘刺しておいたから、安心してねアオ」
一体何言ったんだ、ユエ。
少し気になるんだけど。
水切りラックに立てかけておいた食器類を布巾で水気を拭いて、食器棚に戻していく。
「ちょっとシャナ、髪乾かした?」
途中でシャナが出てきたけど、僕らを見ずそのまま部屋に入って行こうとする。
しかし、僕の問いかけも無視して、姉は扉を閉めて鍵をかけた。
「…ごめん、ユエ。本当に何言ったの?」
「アオに今後こういう事させるなら、ママに言って部屋替えしてもらうよって。寮の管理もママの仕事だからね。シンクとアオを同室にして、シャナちゃんはツルギとがいいよねって。滅茶苦茶慌ててた」
僕は彼女に苦笑いをする。
ついさっき、僕も同じ事を考えてたから。
姉弟だからって、甘えすぎなんだよシャナは。
「何なら、恋人同士でも良いんじゃないかな、って私思うんだけど」
「僕の理性が持たないので、勘弁してください」
そんなの、不眠で倒れる自信しかない。
えー、とユエは不満そうにしていたけど、婚姻を結んだら嫌でも一緒にいるのだから、今は我慢していただきたいと思った。
◆◆◆
あの後ユエを送り届けて、部屋に帰り睡眠を取る。
その翌日。
昼休みに僕らは、桃華とツェリのクラスに来ていた。
「本当にいるの?」
「ほら、あそこのプラチナブロンドの子」
窓際でツェリと談笑している女の子は、確かに雪那そっくりで。
僕はユエの手を握りしめる。
「アオ…」
「大丈夫。多分…」
雪那は亡くなっているし、その生まれ変わりはユエだ。
それはわかっているのに、心が落ち着かない。
「おいおい、しっかりしろよグンジョウ? お前、耐魔力も低かったっけ?」
「いや、そこは高かった、はず…」
なんだけどな。
頭ではわかっているのに、夕陽だった時の気持ちが、納得しない。
そうこうしている内、雪那そっくりに化けた桃華が僕を見て微笑みかけてくる。
僕はギョッとし、後退った。
情けない事に、胸が高鳴ってしまったのだ。
雪那はもういないのに、目の前で生きて笑っている事が。
とても、嬉しく感じてしまっていた。
ユエも僕の様子に気付いたようで、シンクへ後を頼むと言い、僕の手を引っ張って走り出す。
その場から引き離すように。
正直そうしてくれて助かった。
あのままあの場にいたら、何もかも忘れて彼女を抱きしめに行っていたかもしれなかったから。
広い校内を人を避けながら走り、校舎裏に辿り着く。
ユエは僕から手を離し、振り向くと平手打ちをしてきた。
衝撃で眼鏡が吹っ飛ぶ。
ユエに叩かれたのは、これで二度目だ。
100話いきましたー