僕は携帯を開き、目を近づけて通話履歴からユエの名前を見つけたが、同時に今の時刻を知る。
「午前1時…やっぱり半日経ってるじゃん」
この時間にユエへ電話をかけるなど、彼女に迷惑でしかない。
僕は諦めて自室に逆戻りする。
が。
ベッドの上の気配に、僕は驚いて固まってしまった。
「…ユエ? なんでいるの?」
暗くてよく見えないが、僕のベッドに腰掛けたユエがいる。
彼女はこちらを見て、少し拗ねているような気配がした。
「王妃様の魔力を感知したから。アオ、そのままの状態で登校できるの?」
遅くても良いから、連絡して欲しいと思っているようだった。
いやそれ、君だから良いって話でもないんだけど。
こんな夜中に電話かけるなんて、迷惑以外なんでもないと思うんだよなぁ。
「シャナにお願いすれば、君に会うまでは誘導してもらえると思ってたんだけど。ユエ? 今午前1時なんだけど、男の部屋に来るのどういう意味か分かっててやってる? ユーリおじさんに怒られるよ?」
怒られるならマシな方で、ユエをここに留まらせたと、彼女の両親から説教受けるのは僕だと思うのだが。
それはユエもわかっているようで、彼女は肩を竦めた後、何かを投げて寄越してくる。
それを気配で受け止めると、眼鏡ケースだった。
開けてみると僕の眼鏡が入っていて、それをかける。
暗闇だけどユエの顔はちゃんとわかって、彼女はやはり少しムッとしていた。
「ユエ…」
「わかってますー。もう帰るよ」
プイッ、と顔を横に背けてしまった彼女に、僕は苦笑する。
そして彼女に近付き、肩に手をかけて押し倒した。
僕にそうされると思ってなかったユエは、驚いた顔で僕を見上げている。
「アオ…?」
「心配かけさせてごめん。あの後何があったか、僕には分からないけど。君と雪那は、別の人間だってもう納得してるから。ユエ、こんな情けない僕を、まだ愛してくれる?」
問いかけると、目を丸くして驚いていたユエが、ふっと笑った。
「当たり前だよ、アオ。逆に聞くけど、こんな気の強い私を、貴方はこれからも愛してくれる?」
「それこそ、当たり前だよね」
顔を近付け、彼女にキスを落とす。
唇を離した後、僕らは笑い合った。
「また明日、アオ」
「うん、また明日。おやすみ、ユエ。愛してるよ」
彼女はニコリと笑った後、転移していく。
ユエがいなくなったベッドに寝転がり、彼女の温もりを感じながら、僕は眠りに落ちた。
◆◆◆
朝起きて、シャナに朝の挨拶をした後、姉から僕があの後どうなったのか聞かされた。
ユエから離れられなかった僕を引き離し、おばさんは僕に催眠をかけたらしい。
ユエと雪那を混同している事、雪那が死んだ時のトラウマ、全てに心を動かされないようにと。
僕をここに運んだのもシャナで、後日何か奢るように言われた。
それは勿論させていただく所存なので、僕は姉に頭を下げる。
ちゃんと僕が眠っている間のノートも取ってくれていたようで、あとで書き写させてもらおうと思った。
「グンジョウがどれだけ辛い事を思い出したのか、あたしには分からないけどさ。たまにはお姉ちゃんに寄りかかってもいいからね。姉弟なんだから、彼女に言いづらい事も、お姉ちゃんになら言えるでしょ?」
「…シャナには、凄い頼らせてもらってるよ。僕の姉君がシャナで良かったと、本気で思ってる。ありがとう」
シャナ手製の朝ご飯を食べつつ、感謝を述べる。
僕の言葉を聞いてシャナが、ニコッと笑った。
いつも通りの朝。
違ったのは登校した時。
他のパーティメンバーと合流して、シンクに昨日の事について茶々を入れられ、歩いている最中。
目の前、ツェリと雪那に化けた桃華が歩いていて、僕は目を細めた。
「アオ…」
「大丈夫」
僕を心配そうに見てくるユエに微笑む。
桃華が僕に気付いたようで、振り向き様に微笑んできたので、僕も侮蔑を込めた笑みを返した。
僕の動揺をまた引き出せなかった事に驚いたのか、桃華は目を見開き、そして悔しそうに顔を歪めた。
それに対して、僕はユエの目の前にも関わらず舌打ちをする。
桃華を見てもう動揺はしないが、雪那の顔でそんな顔をするなんて。
「ここが学園内じゃなきゃ、すぐに殺してるのに…次会ったら絶対殺す…!」
「グンジョウ。ユエの方が動揺してるから、ちょっと落ち着け」
僕の背を軽く叩き、シンクが困ったように笑っていた。
言われてユエの方を見ると、僕を見上げながら不安そうな顔をしている。
「…えーと…なんかごめん。思い出の中の雪那は、あんな顔してなかったから…こう、汚されたような気になって…」
「夕陽君の前ではしてなかっただけで、模試とか順位落としたとかで、あんな顔してたと思うよ私。良かった、ママの催眠外れたのかと思った…」
そう簡単に外れないと思うんだけど。
ホッとしているユエの頭を撫でながら、春の陽気の中僕らは歩く。
僕だけ、目の前の桃華に殺気を飛ばしてはいたが。