ノーム2の月。
母様達の時代にはなかったゴールデンウィークというものを使って、僕らはテスタロッサ領へ向かっていた。
ルカさんが作った魔王の遺物の反応が、テスタロッサ領から出たらしい。
それを確かめる為に、僕らが調査に向かう事になったのだ。
リムジンにいつものパーティが乗り込んで暫く経った頃。
シンクがユタカの肩に頭を乗せ、ぐったりし始めた。
「シンク? 車酔いした?」
「あんま揺れてねーのに…車酔いなんか…するかよ…戦術書…遅くまで読んでて…眠…」
シンクの向かいに座ってたシャナの問いかけに、そう言いつつ弟は寝落ちする。
ユタカは仕方ないなと笑いながら、彼に膝枕をしてあげていた。
少し幅をとる事になったので、ユタカの隣に座っていたユエが、僕の隣に移動してくる。
「羨ましいならしようか?」
小声で僕に耳打ちしてくるユエに、僕は苦笑いを返す。
流石に背が180を越している僕まで横になってしまったら、シャナ達の迷惑になるだろう。
「というか、お祖父様には許可取ってるんだよね?」
「一応、事情は母様の方からしてある、って聞いてはいるけど」
でなければ、お祖母様の叱責が飛んでくるだろう。
マナーや礼儀に厳しいお祖母様を怒らせるような事、母様がするはずないし。
事前にアポは取ってくれているはずだ。
「シンクが増えたって事は?」
「知ってるって。あの時の子ですか、ってお祖母様から言われて、覚えてたんだって母様笑いながら話してたけど…何の事だろうね?」
僕らが生まれる前に何かあったのだろうが、シンクに会う事態ってどういう事?
少し首を捻るが、考えた所で答えなんて出るわけもなく。
そのうち、シャナが持ってきていたお菓子やらなんやらを取り出し、リムジンに設置されている机の上に広げ始めた。
若干甘ったるい匂いがして、少し気分が悪くなる。
「アオ、大丈夫?」
「吐くほどじゃないから大丈夫…。僕の事は気にせず、食べなよユエ」
彼女の頭を撫でると、フルフルと首を横に振られた。
シャナに許可を取り、ユエは少し窓を開ける。
甘ったるい匂いが軽減されて、僕は少しホッと胸を撫でおろした。
「ごめん、グンジョウ。甘いの少ししかなかったから平気だと思ってた…」
「いや、こっちこそごめん。密閉空間なの、忘れてた。事前に窓開けとけば良かったね。気を遣わせてごめん、シャナ」
姉に謝ると、苦笑いが返ってくる。
ツルギが不思議そうに、僕を見ながら尋ねてきた。
「あの、殿下は…なんでそんなに…甘いものが、苦手なんですか?」
「あー…」
僕は目を逸らし、ユエとユタカが苦笑する。
僕らの様子に首を傾げるツルギだったが、シャナが放った言葉に固まった。
「あたしが小さい頃…グンジョウに、試食と称してチョコとか甘いものを大量に食べさせて…吐かれたものだから頭に来て…火傷しない程度のチョコを頭から被せたから…かな…」
香辛料事件から少ししてからだっけ、それ。
あれ以来、本当に甘いものダメになって、ユエとユタカからのチョコも受け付けなくなったんだよなぁ。
流石に苦手なものがあるの、自分で自分を許せなくて、何とかした結果がビターなチョコなら食べられる、だった。
「姫…」
ツルギが少し、呆れた目をシャナに向ける。
姉は頭を抱えて蹲った。
「わかってるよぉ…! あたしが悪いのはわかってるよぉ…っ!!」
「シャナちゃん、ほんっ…とうに、余計な事しかしないよね」
ユエの笑顔が若干怒りを帯びている気がして、僕はまぁまぁ、と彼女を宥める。
「……うるせぇ」
寝ていたはずのシンクがそう呟き、ユタカの腰に腕を回して抱きついた。
その行動にユタカ自身が慌て始め、声には出さなかったが、表情が恥ずかしいと物語っている。
そんな事は気にも止めず、シンクはまた寝始めた。
「……なんか既視感…」
「ユエちゃん、グンジョウの事言ってるなら…うん。血筋だと思ってね。父様もこんな感じだし」
家族のそんな話しないほうがいいと思うけど。
後で母様に叱られるの、僕じゃなくてシャナだから別に良いけどさ。
あと察しいいな、ちくしょう。
僕は窓の外を見る。
景色が流れていく中、見覚えのある街が見えてきた。
テスタロッサ領の中心、僕らの祖父であるベルファ・ジェイド・テスタロッサが治めている街だ。
あと10分くらいかな。
シャナ達に片付けるよう言わないと。
あとシンク起こさなきゃな。
そう思った僕は姉に声をかけ、ユタカにもシンクを起こすよう伝える。
ギリギリまで寝かせてあげたいと返答されたので、弟の事はユタカに任せる事にした。
◆◆◆
街をぐるりと囲むような高い塀と、その入り口である門がある。
そこを通り、リムジンでテスタロッサ邸に向かった。
「街の方は見てなかったけど、結構活気があるんだね」
ユエが街並みを見ながら、目を輝かせている。
彼女がテスタロッサに来たのは、おばさんに連れて来られ、淑女教育を施された時だ。