大体移動といえば転移かおばさんの影渡りくらいで、こうやって車とかに乗って移動するのは稀なんだろうなと思う。
それに僕が知る限りで言えば、彼女が行った所はオーシアの要家か、おばさんの領地であるトリスタン領、王城と学園くらいではないだろうか。
もしかしたら、僕が知らないだけで他にも行ってるかもしれなかったが。
「あ、着いたみたいだよ」
シャナの言葉と同時に、リムジンが止まった。
シンクも起きたようで、身を起こして軽く伸びをしている。
テスタロッサ邸に着き、僕らはリムジンから降りた。
屋敷の門の前に見知った姿を見つけ、僕ら一同は頭を下げる。
「お久し振りです、お祖母様。この度は、調査にご協力いただき、誠にありがとうございます」
銀の髪にレモンイエローの瞳、褐色の肌を持つ僕らの祖母。
ターニャ・テスタロッサが僕らを出迎えてくれていた。
「お嬢様からお話は聞いております。ゴールデンウィークの間、隅々までお調べ下さい。旦那様からも、研究棟まで調べて良いとのお言葉を頂いております。お部屋の方も準備出来ておりますので、ご心配なく」
「何から何までありがとうございます、お祖母様」
使用人時代から、母様の事をお嬢様と呼ぶ人ではあるけど、母様が義娘になってもそれは変わらないらしい。
これ直した方が良いんじゃないのかと、母様に尋ねた事はあるが、
「ターニャも、あたしの事を娘と思ってくれているから、好きにさせているのよ。これでも、一回注意はしたのよ? でもねぇ…泣かれちゃったのよねぇ。あれ以来、言わないようにしてるの」
とケラケラ笑っていた。
チラリ、とお祖母様はシンクを見る。
各々姿勢を直している中、見られた弟は首を傾げた。
「あの、何か?」
「いえ…あの時より幼いのだなぁ、と」
そう言われたシンクは更に首を傾げ、何か合点がいったかのように手を打った。
「あー、成程。お祖母様には過去の話だけど、俺にとっては未来の話ってわけですか。うわ、何ですか? 俺、未来でお祖母様達の所に行くんですか?」
「さて? 不確定要素ではあります。お話しする気はございません。殿下方、時間は有限だと思いますが?」
それはその通りなので、挨拶もそこそこにして、僕らはテスタロッサの使用人にそれぞれの部屋に案内される。
その時荷物も使用人達に運んでもらっていたのだが、ツルギは少し居心地が悪そうにしていた。
「どうかした?」
僕がこっそり彼に尋ねると、僕らとは感覚が違うのだなぁ、と思う返答が返ってくる。
「いえ…日本では、自分の荷物は…自分で運ぶものですから…人に運ばれるとどうも、申し訳なくなると言いますか…」
そうなのか。
運んでもらうのが当たり前になっていたのだけど、日本では違うのか。
あれ?
でも、あの時泊まったホテルは普通に運んでもらってたような…?
まぁ、そういうところもあるのだろうと一人で納得して、部屋に荷物を置いた後、ツルギ達に探索をお願いし、僕やシャナ、シンクはお祖父様に挨拶をする為、執務室前に集まった。
「何年振りだろ、お祖父様に会うの…」
扉をノックする前、シャナがポツリと呟く。
その顔は緊張に染まっていて、多分僕も同じような表情をしている事だろう。
「僕らが初等部に入る前だから…もう10年くらい会ってないね」
ユエとユタカの淑女教育の際も、お祖父様には結局挨拶せずに帰ったわけだし。
僕らの誕生日にも、研究が忙しくて来れないと謝罪の手紙とプレゼントが毎年来ていたっけ。
名代として、お祖母様は毎年来てくれてはいたけれど。
今年もそうだったので、僕もシャナもお祖父様に会うのは少し諦めてはいた。
「嫌われてはいないのは、わかっているんだけど…こう、10年ぶりに会う人って緊張するよね?」
「わかる」
うんうん、とシンクやシャナが頷いたのを見て、僕は深呼吸をしてから扉をノックする。
軽い感じの入室を許可する声が聞こえたので、扉を開けながら一礼した。
「失礼します、お祖父様。お久し振り……え?」
顔を上げた僕は、あまりにも驚いてしまって固まる。
僕の言葉が止まったのを聞いて、シャナやシンクも顔を上げ、僕同様に固まったのが気配で分かった。
穏やかに笑っている初老の男性が、頭に猫耳、腰辺りに猫尻尾、更には手に猫の手をつけて出迎えてくれていたのだから。
「え、あの、お祖父様…それ…」
戸惑いつつ尋ねると、お祖父様はにこやかに挨拶と説明してくれる。
「久し振りですね、シャナ、グンジョウ。大きく成長したようで、私は嬉しく思います。これは次の子供向けの新商品ですよ。可愛いでしょう?」
確かに可愛い。
小さい子達がこれを付けて、遊んでいるのを見るのは、確かに可愛いと思う。
だが、お祖父様が付けているのは、多少違和感というかなんというか。
僕達の微妙な顔を見て苦笑したお祖父様がそれらを外し、シンクの方を見た。
「君は…そうですか。グンジョウの異次元同位体でしたか…。いやはや、気付きませんでしたねぇ」