お祖父様が頭を掻きつつ、さらに笑みを深めた。
こういう状況に、好奇心を掻き立てられているのだろう。
昔からこういう人なのは僕もシャナも知っているところなので、興味対象になったシンクには少し同情する。
「ふむ、呼んだのはユタカさんですね? ユタカさんとの間に同調現象を起こしたとみえる。彼女の魔力が君の中に入り込んでいるのが分かります。多分、彼女の方にも君の魔力が入り込んで混ざり合っている事でしょう。全く…危ない事をしたものですね? 一歩間違えれば、グンジョウの存在が消えていたかもしれないのに。立花卿もその場にはいたのでしょうけど…」
え、そうなの?
シンクをこちらに呼ぶというのは、それほどの危険性を伴っていたと?
それは知らなかった。
僕もシャナも言葉には出さなかったが、驚いてしまう。
「彼女の行いは、自分にとっては救いになるものでした。俺は、それを責めるつもりはありません。グンジョウには悪いと思ってはいますが。それと、ご慧眼敬服致します、お祖父様。あの、一つ、聞いても宜しいでしょうか」
お祖父様に一礼したシンクが、真剣な表情で聞く。
「なんでしょう?」
「魔力が混ざり合うと、何か不都合が起こりますか? ユタカに…彼女に、何か良くない事が起こりますか?」
自分の事は置いて、シンクはユタカの心配をしていた。
それは彼にとっては当たり前の事なので、僕やシャナも口を挟む気はなく、成り行きを静観する。
「そうですねぇ…そこに詳しいのは立花卿の方だとは思いますが。同調現象を起こした者の例は少ないとはいえ、立花卿自身も自分の異次元同位体が、自身を含め三名もいるという話ですし。彼女が何も言っていないのなら、害はないのでしょう。むしろ、相手が何を思っているのか何処にいるのか、分かりやすくなっている程度だとは推測しますがね、私は」
それに、と言いながらお祖父様は笑いつつ目を細めた。
「統合騒乱は、こういう事態が折り重なって引き起こされたものだと、私は考えます。シャルや立花卿が時空間を行き来した時とかね。彼女らを責めるつもりはありませんが、これはとても危ない事象です。統合騒乱が起こった時、私達は滅亡していてもおかしくなかった。立花卿にも釘は刺しておきますが、君達も肝に銘じておいてください。異次元同位体を連れてきたり、時空間の行き来を続けるつもりなら、近い将来第二次統合騒乱が起こると」
最後の方は真剣な顔でそう言うお祖父様に、僕らは頷く事しか出来なかった。
僕らに何をどうこう出来るのかは分からないが、覚えていた方がいい事なのはわかる。
「さて、魔王の遺物でしたか。幸い、我がテスタロッサ家は王立図書館に匹敵するくらいの蔵書量を誇っています。文献や古書の類は地下図書館の方に保管してありましてね。魔王の遺物に関しての書物もあったはずなので、持ってきましょう。そこにかけて待っててください」
お祖父様は、僕らに応接用のソファーに座るよう言い、執務机の後ろ側の本の一箇所を押す。
ガコッと音がし、それらがスライドしていった。
それは隠し扉だったようで、地下に続く階段が現れたのを見た僕やシンクは、少しワクワクしてしまった。
シャナは、何をそんなに喜んでいるのかわからないといった顔をしていたが、ロマンというものではないだろうか隠し扉。
「城に帰ったら、あるのか父様に聞いてみようかな…」
「ありそうではあるよな」
「これだから男子は…」
お祖父様が地下に降りていった後、僕らはそんな会話をする。
そんな時、扉がノックされて僕らは顔を見合わせた。
一体誰が来たのかと思っていたのだが、声を聞いて僕は立ち上がる。
「お話の最中、申し訳ありません。立花夏月の娘、立花月です。入室しても宜しいでしょうか?」
「ユエ?」
僕はノブを回し、扉を開けた。
屋敷を捜索しているはずのユエが、僕の姿を見てホッとした表情をする。
「どうしたの?」
「ごめんなさい、お話中に。ママから、テスタロッサ卿に渡すようにって言われてたもの、預かってたの忘れてて。これ渡してもらえないかな」
収納魔法から、ケースに入ったディスクを取り出し、彼女は僕に渡してきた。
受け取りはしたが、一体中身はなんなのか。
「これの内容聞いてる?」
「いや、全く。渡せとしか言われてないよ。ママが何も言わなかったという事は、テスタロッサ卿も中身はわかってるって事じゃないかな」
それもそうかと納得する。
でなければ、ユエ自身に中身の説明がされているはずだ。
「ユエ、進捗はどう?」
「今、ツルギが研究棟、ユタカが屋敷内の捜索してるけど、見つけたって報告は上がってないよ。私もこれ渡したら捜索に戻るつもり」
ここにあるという反応はあったが、それが何かまではわかっていない。
砂の中から針を探すようなものだ。
せめて、持ち運び出来るサイズの捜索機があれば良かったのだが、そこまでの開発には至っていないらしい。