「魔王との経緯、異物関連、発生条件。今まで魔王となった人物の経歴。読む限り、どれもこれも関わりがなさすぎる…!」
書物を読んで、僕は頭を抱える。
ある人物が魔王となった。
だがその血縁者には誰一人として魔王としての力は発現せず、また別の場所で魔王が発生する。
発生条件も異なっていた。
ある人物には、確かに初代の魔王と同じく王族に懸想する者がなっている。
だが、別の記述を見ると、王族とは全く関係のない地で魔王になった者もいた。
共通点と言えば、それの誰もが、ブリリアント王家への怨嗟を呟いていたらしい事と、屠られた後遺物を残していた事。
超常現象的扱いなのか、魔王は。
夕陽の知識からすれば、魔法を使える時点でこの世界は超常現象の塊なのだが。
母様の時の書類もあったので借りてきて読んではいるが、これも共通項はない。
宮塚麻人は王家ではなく母様自身に執着していたし、その時母様はまだ王太子妃でも、王妃でもなく、ただの父様の専属護衛であった。
だから当てはまらない。
「…あー、わかんねー…」
書物が乗っている横に突っ伏して、呟く。
桃華がこの場にいたらとっ捕まえて、洗いざらい吐かせるのに。
その方が手っ取り早くないか?
魔王の手先だと名乗っていたし、今彼女はツェリと同室らしいと、エミル君から聞いている。
拷問の知識はあれど、技術はないので、そこはお祖母様にお願いする他ない…いやいや、初老のお祖母様に何重労働させようとしてんだ、僕。
「疲れてるなぁ…。誰か知識貸して…本当に、マジで…」
「じゃあ、神託を伝えようか兄様」
僕以外の声が聞こえ、僕は反射的にその声から遠ざかるように飛び退く。
座っていた椅子が壁にぶつかったが、構っている暇はなかった。
声がした方には、一人の女の子がいた。
無表情かつ、アイスグリーンの髪とシースルーの上着、白いワンピースを着た女の子だ。
「君は…」
「やぁ、初めまして未来の兄様。ぼくはベルゼビュート。レヴィやグリードと同類だよ、って言えばわかる?」
母様の使い魔である、レヴィ。
確か、七罪の悪魔の一角だとか何とか。
グリードもだって言ってたっけ。
「とりあえず、敵ではない? 後、なんで僕の事兄様って呼ぶの?」
「敵じゃないし、ぼくは母様の所に産まれるのが確定しているから、だから君の事も兄様って呼ぶだけ。名前で呼んでもいいけど、産まれた後もそう呼ぶよ? 良い?」
妹か弟になるかもしれない、と言われて、はいそうですかって納得は出来ないんだけど…。
流石に下に呼び捨てにされるのは、ちょっと抵抗がある。
「良くはない」
「そう。なら、兄様で良いよね? でね、兄様。最高神が煩いから、伝えるね。あ、勘違いしないで欲しいんだけど、別にぼくあいつらの従僕とかじゃないから。勘違いしないでね……うん、分かってるよ。煩いなぁ…」
ベルゼビュートは天を仰ぎながら、文句を言う。
僕も上を仰ぎ見てみた。
上には何もないんだけど…あるとしたら間接照明くらいか。
「21貴族を調べるのは良いけど、この後襲撃イベントが起こって、大体奪われちゃうからね。だって。詳しい話は、カヅっちゃんにお聞き…カヅっちゃんって誰?」
「知らない…」
僕は首を横に振る。
カヅ、で思いつくのはカヅキおばさんだけど。
「というか、襲撃?! 何処が?!」
「知らない。じゃあ、ぼくはこれで。次に会うのは、母様の所に産まれてからがいいなぁ…」
そう言いつつ、ベルゼビュートは姿を消した。
せめて、もう少し情報をくれないだろうか。
僕は慌てて、カヅキおばさんにコールする。
『どうした、グンジョウ。何か進捗はあったか?』
「おばさん! あの、あの…!!」
僕があまりにも慌てているので、ため息をついたおばさんは近くにいたであろう母様に代わったようだった。
『どうしたの、グンジョウ。カヅキが呆れて寄越してくるなんて、よっぽどよ? というか、これ危険性あったらどうするつもりなのよカヅキ』
『その場合は、私がテスタロッサに飛ぶさ』
母様の声で少し落ち着きを取り戻した僕は、先程あった事を母様に伝える。
「さっき、ベルゼビュートって名乗る女の子が現れて、神託を…この後21貴族が襲撃されるから、詳しい話はカヅキおばさんに聞けって、最高神が言ってたって…」
途端舌打ちが聞こえた。
母様、最高神の事嫌いだもんなぁ…僕会った事ないんだけど。
あと、普段穏やかな母様がここまでになるのは珍しいので、本当に嫌いなんだなとわかる。
『というかベルゼビュート来てたの? また使いっ走りさせられたのか…可哀想に…』
『ナツキ、それより早くも神託が当たったようだぞ。21貴族のうち、10家が襲撃に遭ったと報告が来た。家宝なり何なり奪われて、負傷者も多数だそうだ』
おばさんの硬い声が聞こえた。
母様が息を呑む音も聞こえる。
僕も驚いて、固まってしまっていた。
「おばさん…その家宝が何なのか、詳しく分かりますか?」