シンクの問いにユエが答えるが、彼女の疑問に誰も答えられなかった。
それさえ分かれば、捜索範囲も狭められるというのに。
「ベルゼビュートに、もっと聞いておくべきだったかな…。いや、あれ以上に彼女は情報を持ってなかったっぽいしな…」
「何ぶつぶつ言ってるの、グンジョウ?」
僕の左隣にいたシャナが怪訝そうな顔で僕を見る。
そういえばシャナだったらルシィを呼んで、ベルゼビュートから話を聞く事も可能ではないだろうか、との考えに至った。
口を開こうとして、右隣にいたシンクに止められる。
「やめとけ、グンジョウ。お前、その情報に対する対価持ってるのか? 下手したら命取られるぞ。相手は悪魔だってわかってるよな?」
「僕の使い魔だったら大丈夫だと思う?」
それに対して、シンクは首を横に振った。
というか、よく僕の考えが分かったな。
自分だからか?
「神が気まぐれ起こしたら、その限りではないんだよ…なんで何回も来なくちゃいけないのか、甚だ疑問ではあるよ、ぼくは」
僕の背後から声がかかり、後ろを振り向く。
少し疲れた様子のベルゼビュートが、僕を見つつウンザリしていた。
「っ!!」
「ユエ、落ち着いて。敵じゃない。ベルゼビュート、また神託かい?」
ユエが魔武器を取り出し立ち上がって、ベルゼビュートへ向ける。
それを手で制して、僕は彼女に尋ねた。
ベルゼビュートはウンザリしながらも頷く。
「あんまり時間かけさせるのも可哀想だから、ヒントをあげよう。だって。ここにあるのは魔本だよ。ただ、ここの蔵書量は知っての通り王立図書館並みに多い。1週間かかるかどうかは君達次第だね、頑張れー。だってさ。はぁ…行くなら母様の所に行きたかった…」
ほとほと疲れた様子のベルゼビュートに、僕は砂糖がかかったパンを手に取り、彼女に差し出す。
駄賃ではないが、疲れた時には甘いものなのだそうだ。
僕は取るつもりないけど。
「貰っていいの?」
「うん。神のお使いご苦労様、ベルゼビュート。おかげで範囲が狭まったよ、ありがとう」
差し出したパンを受け取ったベルゼビュートは、薄く微笑んだ。
そして彼女は僕を見上げる。
「どうかした?」
「頭撫でてくれないかな、兄様」
パンを掴んだ手とは反対側の手で、言われた通りに頭を撫でてあげると、彼女は嬉しそうに目を細めた。
ユエの方からは尋常じゃない位の怒気が発せられていたが。
「うん、ありがとう兄様。産まれてくる時が楽しみになったよ。あと、赤い兄様。ぼくへの対価は、食べ物をくれれば良いよ。人間の命なんて、食べた所で美味しくないし。そんなの下等な悪魔にあげるよ」
「そーかよ…うん? 兄様?」
僕が彼女に初めて会った時と同じ反応を、シンクはする。
「説明は青い兄様にしてもらって」
「グンジョウだよ、ベルゼビュート。一体いつになるのかわからないけど、人間の君と会えるのを楽しみにしておくよ」
ニコリと微笑むと、ベルゼビュートは少し驚いた様子で僕を見た後、照れたように目を伏せた。
「じゃあ、またね。グンジョウ兄様」
そう言って彼女が消えた後、僕は仲間達から質問責めに遭い、彼女と会った経緯を説明する。
それを聞いたシャナとユタカは驚き、シンクは驚きすぎて言葉を無くしていたし、ユエに至っては、僕の弟か妹になるかもしれない相手に魔武器を向けてしまった、と落ち込んでいた。
ツルギだけ平常心で、ご飯を食べていたが。
「マジ? 母様の血統って、悪魔呼び寄せる確率高いわけ?」
「ベルゼビュートが、一番下になるのかぁ…食費大丈夫かな?」
ベルゼビュートは暴食の悪魔だ。
確かに食費は嵩むだろう。
まぁ、そこを考えるのは父様と母様だろうし。
僕らが頭を悩ませる必要は無いんじゃないだろうか。
と、食堂の扉がノックされ、扉が開けられる。
ここには誰も通さないようにと、推測ではあるがお祖父様からお達しがあったはずなのに一体誰だろう、とそちらを見て、見知った銀髪の男の子が顔を出し、僕は苦笑した。
「ルージェ、久し振り。元気そうで何よりだけど…ここに来た事、お祖母様には言ったのかい?」
「久し振り、グンジョウ兄さん! 母様には言ってない!!」
それ、後でお祖母様に怒られるやつだよルージェ…。
ルージェ・アクロアイト・テスタロッサ。
お祖父様の息子で、母様の義理の弟、そして僕の叔父様にあたる。
歳の頃は10歳で、僕の妹のリーゼと同い年。
なかなか子供が出来なかったお祖母様の待望の息子ではあるが、礼儀はやはり僕達同様躾けてあるはずなんだけど、生来のヤンチャぶりでお祖母様の手を焼かせているらしい。
「ルージェ様…! 奥様方に叱られますよ…っ!」
「うっさいなぁ、じゃあ黙っとけば良いじゃん。母様に告げ口すんなよ、リンウェル」
扉の陰でルージェに苦言を呈するメイドがいたが、多分ルージェ付きの子なんだろう。
ヤンチャな彼に付き合うのはさぞかし大変だろうな、と苦笑してしまう。