マズい…頭に血が昇った状態じゃなく、冷静にシャナは怒っている。
僕死ぬかも。
そう思った時だった。
シャナが息を呑んだのに気付き、僕は顔を上げる。
「姫、それくらいにしろ」
ツルギが後ろからシャナを抱きしめていた。
姉は驚き、彼の方を見る。
「ツ、ツ、ツルギ君?! 何、な…?!」
「何故そんなに怒っているのか、俺には分からないが…少し落ち着いて欲しい。いつもの姫の方が、俺は好きだ」
好きとの単語に、姉の顔が真っ赤になった。
多分、彼は深い意味で言ったわけでは無いのだろうが、シャナにはクリーンヒットしたのだろう。
僕に踵落としをするだけで姉は許してくれた。
◆◆◆
「ツルギ、助かった…いや、本当に、マジで」
あの後大人しくなった姉は、何も言葉を発さず食事を終え食堂から出ていった。
シンクは青ざめてユタカに縋り付いていたし、ユエに至っては驚きすぎて固まっていたらしい。
ユエにごめんと謝られて、こちらこそと返した。
「いや、別に…王妃様そっくりだったから、少し驚いただけで…多分、俺が原因かな…って、思っただけなんで」
確かにツルギの事を引き合いには出したが、全面的に僕が悪いので、あの場でシャナに殺されていてもおかしくなかった。
それくらい、姉の傷を抉ったのだろうから。
「てか、ツルギ。お前シャナの事どう思ってんの? 惚れたんなら早く告れよな」
食事を終えた僕らは各部屋に帰ったのだが、僕とシンクはツルギの部屋に押しかけた。
僕は彼に謝るためだったが、シンクは別の目的だったようで、そんな事をツルギに言う。
彼は少し気まずそうに目を逸らした。
「…確かに、姫の事は好きですけど…身分が違いすぎますし…」
「今は平民でも王族と結婚出来る時代だぞ? お前、自分に言い訳しまくってシャナが他の男に嫁いだら、後悔すんの自分じゃね? シャナには今、婚約者がいない。それはつまり、高等部卒業後、誰かと婚姻を結ばなきゃいけないってわけだ。シャナお前に振られてんだろ? もうお前に対して、好きだの何だの言えないってこった」
めっちゃ語るじゃん。
あの様子の姉に恐怖を抱いているかと思っていたんだけど。
僕はメイドが持ってきてくれたティーセットから、ティーカップへお茶を注ぐ。
二人に差し出すと、彼らは受け取って飲んでくれた。
「でも、陛下や王妃様が許してくださるかどうか…俺、犯罪者ですし…」
「あの二人、恋愛上等で結婚したんだろ? お前がシャナへの気持ちを二人に言えば、納得してくれるだろうよ」
それは楽観的すぎるんじゃないだろうか。
ツルギの懸念もわかる。
親としては頷いてあげたいが、国を背負って立つ二人の立場からしたら、頷けないものもあるだろうと思う。
「…姫には…シャナには、好きになってくれたら嬉しいと…告白されて振った時に、言われたんです…俺はいずれ、日本に帰るから…彼女の気持ちに応える事は、出来ないと…思って。でも…陛下達が許してくれるなら…俺は、彼女の伴侶になりたい」
あぁ、やっぱりツルギはシャナの事を想っててくれたんだな、と弟ながらに嬉しくなる。
という事は、ツルギが僕の義兄になるのか。
うーん…まぁ、構わないかと思った矢先、シンクがポケットから携帯を取り出した。
「てなわけだけど、母様。どう?」
『貴方ね…これじゃあ、ツルギ君に対しての騙し討ちでしょう? 誘導尋問みたいな真似して…ツルギ君、うちの息子がごめんなさいね。黙ってたあたしも同罪ではあるけど』
携帯から母様の声が聞こえ、僕とツルギはギョッとする。
まさか、今までの会話全部母様に筒抜け?
いつから?
「で、殿下…? あの…」
「いつからって話なら、俺がここに来る少し前から。俺、母様よりちょっと劣るくらいの星読みがあるからよ、こんな事態になるんじゃないかって、母様と通話繋いだ状態で持ってたわけ」
なんて奴だ…。
ツルギがあたふたし始めたじゃないか。
本当、うちのパーティの司令塔は策士も真っ青な事をする。
『ツルギ君、貴方が来てもうそろそろ一年になるけど…まだ、日本に帰りたいと願うかしら?』
母様がツルギに問う。
彼はすぐさま首を横に振った。
「…いいえ。俺は、シャナの伴侶になりたいです…彼女の笑顔も、困り顔も…全てが愛しく思えて、仕方なくなっているんです。王妃様…シャナとの交際を、認めていただけないでしょうか…? まだ、彼女に告白も何も、していませんが…」
母様には見えていないだろうが、ツルギは頭を下げた。
それを感じたのか、母様はふふっと笑う。
『若いわねぇ…貴方達の好きにすると良いと思うわ。ナズナの方には、あたしから言っておきましょう。もうそろそろ、独り立ちしないとね? あ、でも子供作る真似は許しませんからね』
「しねーよ。なぁ、グンジョウ?」
僕は頷き、ポケットから携帯を取り出す。
まだ画面は通話状態で、僕は話し出した。
「シャナ、良かったね。ツルギ、君の事が好きだって。姉の初恋が実りそうで、弟としては嬉しい限りだよ。おめでとう、姉君」