「これの力を少し使ったまでですよ。魔術教本だと思っていたのですが、いやはや…カモフラージュが驚くほど上手かったようで。今まで気付きませんでした」
お祖父様は軽く本を叩き、僕に投げ渡して来た。
中身を見てみるが、確かにお祖父様の言う通りただの魔術教本だ。
パーティメンバーが僕の周りに集まり、本を見ているが、みんな首を傾げている。
一体この本に、何があるというのか。
「…シャナ?」
ツルギが心配そうにシャナを呼ぶが、姉はボーッとして反応しない。
その目はずっと、僕が持っている本を見ている。
姉はスッと軽く手を挙げ、本に手を置いた。
途端、強力な魔力風が吹き荒れ、僕らは予想だにしていなかった為、吹っ飛ばされる。
「シャナ?!」
「我、この本に自らの意思を宿す。我は魔王、カルロタ・ダヴィド・エドゥアルド。我の意思を継ぐ者よ、我に応えよ」
シャナの声に重なるように、男性の声が聞こえた。
マズいと感じた僕は、瞬時に脚力強化をしてシャナから本を奪おうとする。
だが、それより早く、シャナから攻撃された。
「
四大元素と無属性の攻撃魔法が僕を襲う。
シンクが
「ぐぅっ?!」
僕は勢いそのままに、テスタロッサの屋敷の壁に叩きつけられた。
シャナが本を掴み、僕へ向けて更に魔法を放とうとして、ツルギに腕を掴まれ止められる。
彼は姉の手から本を奪い、問いかけた。
「シャナ?! 一体どうしたんだ!!」
「………」
シャナはそれにすら反応せず、ツルギの手にある本を見つめている。
そして、ポツリと呟くように言った。
「煩い…あたしを支配しようとするな、魔王。あたしは、あたしの道を行く。お前の道はもう途絶えてるのよ!!」
姉の目に生気が戻る。
シャナはツルギが持っている本に手を翳した。
「我に所有者を変更せよ!! 我はシャナ・アジアンタム・ブリリアント!! リューネ国第一王女にして魔王、ミヤヅカアサトの魂を持つ者也!!」
魔本がバラバラと音を立てて捲られていく。
最後のページまで行き着くと、魔本から声がした。
【所有者変更確認。名称を】
「ファルスーナフト・リブロ。愛称はリブロ」
承知しました、と魔本は言い、消える。
魔本の気配もなくなり、吹き荒れていた魔力風もなくなって、僕らはシャナを見た。
「あー…みんなごめんね。一瞬意識乗っ取られちゃって。って、グンジョウ大丈夫?! ちょ、ツルギ君離して! あたしもう平気だから!!」
いつもの騒がしいシャナに戻ったようで、ツルギからの抱擁から抜け出そうと踠いていて、僕は安心して体の力を抜く。
「アオ、大丈夫?」
心配したユエが走り寄ってきて、僕の傍に座る。
「まぁ…何とか。シャナ、自分で治すから魔力頂戴」
僕が言うと、ツルギに抱きしめられて身動きが取れないシャナは、僕の方へ手を差し出した。
リンクが繋がれ、姉の魔力が僕に入ってくる。
馴染むまで時間がかかるが、魔力を自分で行使するためには仕方ない。
「アオ、私治すよ?」
「大丈夫だよ。これくらいで君の手を煩わせる必要はない……あぁ、泣きそうにならないでユエ。鍛えてるから平気だって、言いたかっただけだから」
実際、吹っ飛ばされて壁に叩きつけられた所で、打撲程度のダメージしかなかった。
毎日母様達の訓練を受けているからこそ、最早これくらいでは傷つかなくなってきているようだ。
「お祖父様、お祖母様、大丈夫ですか?」
シャナから渡された魔力で自分自身を治療していると、シンクが二人にそう聞いている。
そういえば、あの場には二人もいたのだとすっかり忘れていた僕は、そちらの方を見た。
「えぇ、大丈夫ですよ。ターニャが咄嗟に、私の前に立ってシールドを張ってくれたのでね。私の妻は生涯現役のようだ」
「何を当たり前な。ルージェが育つ前に、旦那様に逝かれては困るのです。育った後は、どうでも宜しいのですが」
お祖母様…効率重視だからってそんな言い方…。
だからカヅキおばさんから、人の心がないんですかってたまに言われるんですよ…。
しかしそう言われたお祖父様はニコニコと笑って、
「そうですね。貴女は少し、言葉が足りない人ですから。今のに少し言葉を足すなら、『私が生涯現役なのは当たり前です。ルージェが後継者として育つ前に、貴方に死なれたら困ります。育った後は、ルージェに後を任せて二人でのんびりしましょう』ですかね?」
そう言った。
お祖母様の方を見ると、少し頬を染め困ったように眉を下げて、目をお祖父様から逸らしている。
そんなお祖母様を見た事がなかった僕は、驚いて目を丸くした。
「え、本当に?」
「ターニャが愛情深い人なのは、貴方も知っているでしょう? グンジョウ。誤解されやすいだけで、ターニャはお義父様を愛しているのよ?」