シンクの言葉に、う、と僕とユエは目を逸らす。
痴話喧嘩をしているつもりは全くないのだが、確かに周りを巻き込んでいる気がする。
「「すみません…」」
「話すなら、お互いが納得するまで話せよ。で、話変わるけど。シャナ、魔本どうした?」
シンクに対して二人同時に謝ると、弟は僕らの様子に少し苦笑してからシャナに話を振った。
「リブロ?」
【はい、マスター】
シャナが魔本を呼ぶと、直ぐに現れる。
それを見たシンクが目を細めた。
「お前、それ使ってて何か違和感は?」
「使ってはないけど、使役はしてるって意味なら全くないよ。むしろ、魔力の循環効率が良くなった気がする。あ、リブロは完璧にあたしの支配下にあるから、暴走する心配もないよ」
そこは心配してねーよ、とシンクは言う。
心配なのは、シャナが魔王にならないかという事だろう。
ただでさえ、初代の魔王が復活したっていうのに、更にシャナまで敵に回ってしまったら目も当てられない。
「なんだっけ、この子の前の主。ディアブロ? だっけ?」
「カルロタ・ダヴィド・エドゥアルド、って名乗ってたけど?」
そうそうと、シャナは頷く。
「あいつの記憶とか知識とか流れ込んできたけど、そんなの知ったこっちゃないって跳ね返したんだよね。あ、でも魔術の知識だけは役立ちそうだったから、それは頭に残してあるよ。これで魔王戦でも役に立ちそうだよね」
「お前…危ない事すんなよな」
シンクはため息をつきながら立ち上がり、シャナの隣に立つと姉を抱きしめた。
それにシャナとシンク以外、ギョッとする。
言っちゃ悪いけど、一匹狼というか、孤高を貫いているようなシンクが、別次元の姉を抱きしめるとか、あり得ないと思っていた。
僕は生まれた時からシャナと一緒だったから、そういう風に抱きついたりはしていたし、シャナもシンクや僕に対して、弟だからと抱きしめたりはしていたけど。
シャナも最初は驚いていたけど、嬉しそうに笑った。
「ふふふ。ありがとうシンク、心配してくれて。でも、お姉ちゃんは大丈夫だよ。魔王になったりなんかしないし、何なら弟二人ぐらい守ってみせるよ。あ、ユエちゃん達や、ツルギ君は自分でなんとかしてね。あたし、そこまで器用じゃないから」
ははは、と笑うシャナに場の空気が緩む。
ぽんぽん、とシンクの腕を軽く叩いて、シャナは離れるように促した。
「…何かあったらすぐ言えよ」
シンクは少し不満そうに、シャナに言いながら離れる。
「グンジョウ以上に心配性だなぁ、シンクは。大丈夫だってば。あたし、これでも丈夫なんだから。ね、グンジョウ?」
「そうだね…三歳くらいの時、城の最上階から飛び降りて無傷だった時は、流石に心臓が止まるくらい驚いたけど。ツルギ、こんな姉だけど宜しくね。返品は受け付けるから」
どういう意味だ、と怒っている姉に僕は笑う。
ツルギも、そんな事はしないと彼にしては珍しく笑っていた。
◆◆◆
ゴールデンウイーク最終日までテスタロッサの家にお世話になり、僕らは見送りに来てくれたお祖父様とお祖母様に挨拶する。
「お世話になりました、お祖父様、お祖母様。この騒動が終わったら、また会いに来ます。それまでどうか、お元気で」
「えぇ、貴方も。グンジョウ、久々に会えて嬉しかったですよ」
ニコニコと笑いながら、お祖父様は手を差し出してきた。
それに対して僕も手を差し出し、握る。
「たまには、城に遊びに来てくださいよお祖父様。俺ら以外にも孫は沢山いるんですから」
「そうですね。新しい孫も出来ましたし、ターニャと共に近々行きましょうかね」
シンクの頭を撫で、お祖父様は笑みを深くする。
頭を撫でられた弟は、少し照れくさそうに笑った。
「グンジョウ兄さん、シンク兄さん、暇になったら会いにきてくれよな! 何か、母様達から兄さん達忙しい事に巻き込まれてるから、我慢しろって言われてよぉ…って、痛いって母様!!」
「余計な事は言わなくて宜しい。グンジョウ、この本を貴方に」
ルージェの耳を引っ張り、お祖母様は僕に一冊の本を渡してくる。
受け取り、僕は首を傾げた。
「あの、これは…?」
「剣術に戦術を合わせた本です。これからの戦いに役立つ事でしょう。グンジョウ、辛い事もあるでしょうが…無理をせず。自分の手に負えないと判断したのなら、すぐに撤退をなさい。自分達で何とかしようとせず、大人に頼る事も考えなさい。良いですね?」
お祖母様は優しい目をしながら、僕の頬に手を添え撫でてくる。
「はい、お祖母様…ありがとうございます」
「お祖母様、また来るね!」
後ろからシャナがお祖母様に抱きつく。
少し目を丸くし、その後仕方ないと笑うお祖母様は、軽くシャナの頭を叩いた。
「不意打ちとはやりますね、シャナ。貴女も、無理はしないように。私の可愛い孫達とお嬢様が元気で過ごす事が、私の願いなのですから」
そこに父様が入っていない所が、お祖母様らしい。
僕らは迎えの車に乗り、テスタロッサ家に別れを告げた。