ユーリおじさんは僕も怖いが、シンク何かやったのか?
「はいはい、もう寝る時間よあなた達。明日はお休みだけれど、早朝の訓練は無し。明日は朝からフリーデリーケに、行ってもらいます…って、もう魔力切れ起こしてるんだけど?! カヅキ、もっと丈夫に作ってよ?!」
弟に疑念の目を向けていると、母様がそう言いつつ崩れ落ちる。
カヅキおばさんに喚きながら文句を言うが、お前の扱い方が悪いせいだ、と返されていた。
「シャル、もう帰ろうか。うん、もう少し重く作っても良いのではないか、カヅキ?」
「そいつの体重準拠で作ったんだがな。文句を言うなら、ナツキを太らせれば良いんじゃないか?」
太った母様か…。
あんまり想像できないな。
結構スタイルが…。
そう考えた所で、僕に向かって雷魔法が飛んできて、咄嗟に避けた。
飛んできた方向を見ると、予想通り父様が母様を抱き抱えながら、片手を上げている。
にこやかに笑いながら、僕に殺気を飛ばしているところを見るに、僕の考えは父様に筒抜けだったようだ。
「グンジョウ、いくら息子といえども…」
「貴方は何やってんの?! 本当、あたしに関して馬鹿になるのやめてってば!!」
母様が父様を殴った鈍い音が、僕らの耳に聞こえた。
父様は母様を落とす事なく、蹲る。
「だが、シャル…」
「だがも何もありません!! ルティ、ナズナをベッドに投げてきて!! あたしは本体に戻ります! レヴィ、あたしの躯体の保管よろしく!」
そう言って、母様は電池が切れた人形のように動きを止めた後脱力した。
母様の言葉に父様は慌て出したが後の祭りのようで、ルティとレヴィが現れて母様の言葉を実行する。
レヴィが父様の手から母様の躯体を剥ぎ取り、ルティは猫を持つように父様を持って転移していった。
「騒がしい奴らだな、まったく…ほら、お前らも早く寝ろ。フリーデリーケは、ここから車でも半日かかるからな」
カヅキおばさんがエリクシールを吸いながら、僕らに向けてシッシッと手を振る。
ここにいても仕方ないので、僕らは素直に寝室に帰る事にした。
◆◆◆
セヴェリ・カルセドニー・フリーデリーケという人は、周囲をとても気にしている男の人。
僕が彼に初めて会った印象はそんなもので、あまり記憶に残らないような人物だった。
「フリーデリーケ卿、あんま変わってないんだろうなぁ…」
僕らの誕生日の宴でも、挨拶をした後は壁の花になっていたくらいだ。
奥方はおらず、自分が退いたら甥に跡を継がせるつもりだと、父様から尋ねられた時話していた。
「変わんないでしょ。歳を取れば取るほど、性格は固定されて変わりにくいって、母様言ってたし」
「偏屈ジジイなわけ? そのフリーデリーケ卿」
スナック菓子をテーブルに開け、それを摘んでいるシンクとシャナの会話には混ざらず、僕は本を読んでいる。
話の話題を振ったのは僕だけれど。
「いやいや、むしろその逆。すっごい周りに気を使う人だよ。自分の存在が周りから邪魔だと思われてるって、被害妄想がすごい人でね。そのせいなのか、すっごい細身で。頬も痩せこけてて…生きてるかな、フリーデリーケ卿…」
「死んだら話がこっちに来るだろ。来てないんだったら、生きてるって事じゃね?」
それはそう。
21貴族だけでなく、誰かが亡くなったりしたら父様がすぐ把握出来るらしいと、母様から聞いた事がある。
なんのギフト貰ったんだろ、父様は。
影を使ってる雰囲気はないんだけど。
「アオ、何の本読んでるの?」
ユエが僕の肩に頭を乗せながら聞いてきた。
僕は彼女の方を見ず、本のタイトルを少し見せる。
「……魔法における、相対性理論…」
「結構面白いよ」
面白くないしわかんないと、ユエは僕から離れてシャナに抱きついた。
面白いんだけどなぁ…。
一般的な相対性理論に加えて、魔法で起こした現象についての論文なのに。
結構勉強になるよ、これ?
「グンジョウ…あんまりユエちゃん放っておくと、他の人の所に行くかもしれないよ? もう少し構ってあげたら?」
抱きついてきたユエの頭を撫でるシャナをチラ見して、僕はまた本に目を落とす。
「そうなったら僕は首を括るだけだから。それに、僕が読書好きなのは小さい頃からだし。それはユエも知ってる事でしょ? そんな僕に愛想を尽かすなら最初から愛想を尽かしてるし、付き合ったりしてないよ。そういう性格なのはお互い知ってるはずだよね、ユエ?」
「そうだけど…」
ユエが、ユタカ達の方を見ている気配がする。
多分また、二人はイチャイチャしているんだろう。
羨ましいと目線で訴えられている気がしたが、僕はあえて無視をした。
僕がシンクと同じ事をしたら、慌て出すのはどこの誰なんだ。
負けず嫌いなのか何なのか知らないけど、ユタカがやってるなら私も、なんて考えやめてくれないかな。
後で恥ずかしい思いするの、僕じゃなくて君なのに。
と、ユエが思考を読むのを前提で思う。
すぐさま、視線が鋭いものに変わった気がした。
「アオの馬鹿、意地悪」