僕の頬を撫で、シャナは微かに笑った。
明らかに弱っている。
携帯は圏外だから、母様達に助けを呼べる状況じゃない。
なら、自分で動くしかないと思った。
「シャナ、僕まだ動けるから。有無は聞かないし、これは人命救助だから。弱ってる姉を助けるためだから…っ!」
「…グンジョウ…自分に、言い聞かせるぐらいなら……ユエちゃん、連れてきなよ……嫌なら別に…しなくても、いい…のに…」
そういうわけにもいかないだろ。
ユエが今どういう状況か、わからないのに。
それに、ユエを探している間にシャナが死んでしまう。
シャナの呼吸が浅くなってきている。
僕は苦笑している姉に口付けた。
シャナと僕の魔力回路を繋いで、循環させ始める。
二人の魔力回路が活性化してきたのを感じて、双子だから余計に巡りがいいようだと思った。
「…もう無理!! なんで姉にキスしなきゃいけないんだよ!! 人命救助でも本当にきついんだけど?!」
口を離して、僕は叫ぶ。
ユエがこの場にいなくて、本当に良かったと思ってしまう。
「やれって言ってないでしょうが。でも、助かったのは本当。ありがと、グンジョウ」
シャナは立ち上がり、伸びをする。
先程まで血の気が引いて真っ白だった顔も、今は血色が良くなっていつも通りのシャナだ。
そして僕らは、同時に口を拭った。
本当、双子って動作が被る時多いな、と僕は苦笑する。
シャナはリブロを呼び出し、この結界の解析を始めた。
「どう?」
「…魂を喰らう、結界みたい。あたし達が来る前から張られてたっぽいね。これ、ツルギ君達危ないと思う」
自分の恋人が危険なのに、シャナは妙に冷静だ。
一体どうしたのだろうかと不思議に思う。
「グンジョウだけでも逃がさないと…」
「シャナ?! 何言ってるの?!」
姉の肩を掴み、僕は声が荒くなった。
だが姉は、厳しい目を僕に向ける。
「前、おばさんに言われた。周りが死に絶えても、グンジョウだけは生還させるようにって。あたしはお姉ちゃんだから、弟が死ぬのは絶対に嫌だ」
「僕だって、姉君が死ぬのは嫌だからな!! …っ、シャナ、眼鏡預かってて。あと、リンク繋いで結界張っておいて。すぐ戻るから」
僕は眼鏡を外し、シャナの手に握らせた。
今から何をするのか分かったようで、シャナは呆れたように笑う。
「そんなの、あたしがするのに」
「僕が動けなくなったらすぐに外へ飛ばして。そのためのリンクでもある。じゃあ、行ってくる」
脚力強化を施し、僕は床を蹴った。
目指すは、フリーデリーケ卿の寝室だ。
そこにシンクと、ユエがいる。
ここへ入る前に異変を感じていたシンクの事だから、何かしらの策を講じていてもおかしくはない。
もしかしたら、もうユタカの所に行っているかもしれなかったが。
「アオ!!」
シンクと共に廊下を歩いていたユエが、僕に声をかけてくる。
急には止まれず、僕は床と天井を蹴って勢いを殺しつつ、地上に着地した。
「ユエ、シンク! 無事?!」
「シンクが結界を張ってくれたから…って、アオ、見えてるの?」
眼鏡を外した僕が、ちゃんとユエを視認できている事に彼女は驚いていたが、シンクが呆れた目で僕を見る。
「お前、シャナとリンク繋いでるな? シャナの消耗も考えろよ」
「今そんな事言ってる場合? それに、ユタカが危ないだろ。何悠長にしてるんだ?」
少し焦って言う僕に、シンクは馬鹿にしたような笑いをした。
「俺が何の策も講じず、ユタカとツルギを送り出したと思ってんのか? こうなる事は分かってたから、二人には守りの結界を張ってあるよ」
「じゃあ僕らにもしてくれなかったかなぁ?! 危うくシャナ死ぬところだったんだけど?!」
僕が怒鳴ると、弟は肩を竦め
「張る前に行っちまったんだよ、お前らは。むしろこんな状態で危機感持たなかったのは、シャナの方だろ。自業自得とまでは言わないが、気付いてたのに対策しなかった方が悪いんじゃねぇ?」
そう言った。
その発言、シャナに聞かれてると思え、シンク。
後で姉に当たられてしまえ。
どれだけ僕らが大変な思いをしたと思ってるんだ。
「とりあえず、二人とも無事で良かったよ。ツルギ達とはまだ?」
問うと、二人とも頷いてくる。
僕も頷き返し、踵を返した。
「アオ、どこ行くの?」
「シャナ迎えに行ってくる」
ちょっと待て、とシンクに肩を掴まれ、弟は指を鳴らす。
強制転移をシャナにやったようで、シャナはリブロを抱えたまま僕の前に転移してきた。
「シンク、ユエちゃん…二人とも無事だったんだ、良かったぁ…っ!」
二人を見て、シャナは満面の笑みで言う。
本当にそう思っているのが、見てわかった。
だがシンクは、そんなシャナの額を突つく。
「こんの馬鹿姉! 俺と同じくらいかそれ以上の魔力量のくせに、何罠にハマってんだよ! その場にグンジョウがいて良かったと思えよ?! 俺だったら…絶対無理だった…」
シャナをキツく抱きしめるシンクに、シャナは突つかれた額をさすりながら、苦笑した。