「シンク、ユタカちゃんが見たら嫉妬されるから離してよ?」
「そんな狭量な女じゃねぇよ。あん時だって、嫉妬なんざしてなかったぞ」
あの時といえば、先月シンクが初めてシャナを抱きしめていた時か。
確かに、僕の時は嫉妬に駆られたような顔をしていたのに、シンクと付き合ってからは結構穏やかな顔をしている事が多いな。
ユタカが不安になるような事を、シンクはしていないのだろう。
僕はどうだろうかと、自問自答してみる。
ユエが不安になるような事ばかり、している気がした。
僕は彼女の手を握る。
そうされたユエは、少し驚いた後フワッと笑った。
「アオ、何考えてるか分かるけど。私は、何も不安に思った事はないよ? 確かに、アオに対して不満だと思った事は沢山あるけど。それも、言わなくても察してくれてるアオが、私は大好きだよ」
「…うん、ごめんね。不満、沢山あるんだ…本当にごめん…」
僕らがそんな会話をしていても、シンクはシャナから離れようとしない。
とても姉の事を心配していたようだ。
死にかけていたのだから当然ではある。
「…姉弟じゃなかったら、絵になるよねぇ」
「ユエ、それ僕に対しても思った事あるだろ。シンク、結界の強度はまだ保つのか? 確か二人共、フリーデリーケ家の宝物庫に行ってるんじゃないのか?」
シャナが眼鏡を投げて寄越して来たのをキャッチして、かけながらシンクに尋ねる。
瞬間、弟はフリーデリーケの宝物庫の方を見た後、シャナを離して駆け出した。
「ユタカ…? ユタカっ!!」
自分の恋人の名を叫びながら。
尋常じゃない慌てように、僕らは顔を見合わせた後、弟の後を追った。
◆◆◆
宝物庫に辿り着いた僕らが見たものは、物語の中でしか見た事がないような金銀財宝が、所狭しと部屋の中に山積みにされている場所だった。
その中央、開けた場所にツルギとユタカが倒れている。
「ユタカ!!」
「ツルギ君っ!!」
二人の姿を見たシャナとシンクが、名前を呼んだ。
「遅かったね、お兄ちゃん達」
財宝の山の上。
足を組んで、自分の膝に頬杖をついた桃華が僕らを見下ろしていた。
「…やったのはお前か、桃華」
シンクが低い声で尋ねる。
シャナもリブロを出し、桃華を睨みつけていた。
「アタシ? 違う違う。やったのはそこの、お・じ・さ・ん。アタシはただの監視役だよ。魔王の因子を、素養もない普通の人間に植え付けたらどうなるか、っていう実験。あ、町の人達にも植え付けてあるから、ゾンビ映画よろしく脱出がんばー!」
ケラケラ笑う桃華から、僕は正面に顔を向ける。
目が虚になって、口の端から涎を垂らしたフリーデリーケ卿の姿があった。
正気を失っているのは、見れば分かる。
それに、町の人にもだって?
いつからだ?
まさか、あの異様な笑顔は…僕らが来る前からだっていうのか?
「なんて事を…」
僕はフリーデリーケ卿を見ながら、唖然とする。
これは、街が一つ壊滅したと言ってもいい事態だ。
「アタシだってしたく無かったんだよ、お兄ちゃん? でも魔王がさぁ。人で遊ぶのも、少しは余興になるだろうってさ。それに、そいつらまだ死んでないから、許してくれないかなぁ? まぁ、今から死んじゃうかもだけど!」
桃華がそう言い、その手に魔銃を呼び出した。
それをユタカとツルギに向けて、撃つ。
シンクがシールドを張るよりも早く、桃華の弾丸はユタカとツルギを貫いた。
「うっ…!」
「ぐっ…」
傷が深かったようで、貫かれた場所から血が滲む速度が早く、衣服が血に染まっていく。
それに対して、シンクとシャナがキレた。
シャナも普段の怒り方ではない、本当にキレた状態だし、シンクがキレるのも初めて見た。
桃華の相手は二人に任せ、僕はユエに言う。
「ユエ、
「わかった。気を付けてね、アオ」
僕はブランシュとノワールを呼び出し、フリーデリーケ卿を見た。
そしてシャナに問う。
「シャナ、リンク切った方がいい?」
「そのままで構わない。私が、お前と繋いだままであれに劣るとでも思うのか?」
あのモード、女帝とでも名付けようかな。
シャナの方を見ず、僕は姉に言葉を返した。
「いいえ、姉君。僕より魔法の扱いが上手い姉君が、あいつに劣るとは思えません。お力、お借りします」
「当然だ。存分に持っていけ、グンジョウ。シンク、行くぞ」
僕が脚力強化を施し床を蹴るのと同時に、シンクが桃華に突っ込んでいくのを横目で見る。
珍しいと思うが、ユタカがあの状態だ。
頭に血が昇っているのだろう。
シンク達の方は、自分達で何とか出来ると思い、僕はフリーデリーケ卿へ剣を振り下ろした。
それは肩に当たったが、普通ならそのまま切り裂かれるはずの体は、金属に当たったかのように手に痺れを伝えてくる。
フリーデリーケ卿が、僕に向けて腕を振り抜く。
咄嗟にブランシュを盾にして防ぐが、僕は吹っ飛ばされた。
「アオっ!!」