だが、こっちは桃華が俺の事が好きで、あいつに殺されたってわけではなく、ただの不運な事故だった。
建築業者の設計ミスで、二階の扉が外開きになっていたのだ。
そして階段を降りようとした俺は、桃華が部屋を出てきた時の扉に当たり、階段を転げ落ちて打ち所が悪くてポックリ、だったと思う。
本来なら、桃華が部屋にいる時、声をかけてから階段を降りるのだが、その日は声をかけるのを忘れてしまっていた。
だから、不運な事故。
妹も、まさか兄が自分が開けたドアで死んでしまうとは思わなかっただろう。
トラウマを植え付けてしまったのなら、大変申し訳ない事をした。
「シンク? 現実逃避しないでくれない? あと、はぐらかそうって考えてるでしょ? バレてるんだからね?」
「…本当、ユタカには隠し事出来ねぇなぁ」
俺は困ったように笑う。
同調現象のせいで、ユタカも俺も、お互い考えてる事が分かるようになっていた。
それは、お互いの距離が離れていてもだ。
それは嬉しくもあり、今回の様な事があると少し困るな、と感じてしまう。
ユタカからは、説明して欲しい、どういう事なんだとの思考が流れてきて、俺は更に苦笑した。
「…ユタカは、思い出さなくていい事だと、俺は思うよ。お前がもし、ユエと一緒の存在で、雪那なのだとしたら。俺が死んでしまった時の事まで思い出す事になる。それは、とても辛いはずだ。グンジョウだって、雪那が先に死んだ時苦しかったはずだから。だから、思い出さないでユタカ。お前が苦しむ姿を、俺は見たくない」
「私、本当にユエと一緒なの? 前世は、シンクの所の子だったの?」
彼女を抱きしめ、額を合わせる。
多分な、と俺は返した。
「俺だって確証が持てたわけじゃない。双子だからと片付けるにしては、記憶を思い出したユエと、お前が似通り過ぎてるんだ。ただ、それだけでお前が雪那だって言い切れない。ごめんな、不安にさせて。雪那だから、ユタカを愛したわけではないのに」
「ううん。でも、私がユエと一緒でシンクの所の雪那だとしたら、これは運命だよね。前世で添い遂げられなかったから、今世では結ばれるようにって。私がグンちゃんに惹かれたのも、とても執着していたのも、シンクの前世の人がとても大好きだったからなんだね。今度は、ちゃんと最期まで一緒にいようね、シンク。貴方と出会えて良かった。大好きだよ」
そう言って、ユタカはニコリと微笑む。
雪那は、あいつは、少し天然が入った子だったなって、今更ながらに思い出した。
こんな風に笑う、風が吹いたら何処かに飛ばされていってしまうような、フワフワした印象の子だった。
だから心配で、目が離せなくて…。
「ごめん、ユタカ…」
「帰ったら、ママに相談してみるね。大丈夫、少し辛いだけだと思うから。気になっちゃったんだもん、仕方ないよ。私がシンクと同じ立場でも、同じ選択をするから。だから、あまり自分を責めないでね、シンク」
雪那がどんな人生を歩んだのか、少し気になってしまった。
そんな俺の意を汲んで、ユタカはそう言ってくれる。
彼女は、俺を忘れて幸せになってくれたのか。
もしくは、引きずってしまったのか。
前者なら少し悲しいが、彼女が幸せになってくれたのなら。
それは、幸福な事だ。
俺が幸せにしたかったけど、叶わなかったから。
後者なら、ごめんと謝る他ない。
それほど俺を愛してくれてありがとうと、感謝を伝えよう。
「ユタカ…」
「うん、シンク。大好き」
ユタカが愛しくて、口付ける。
本当にごめん。
苦しむ姿は見たくないのに、俺の為に決意してくれるお前が、本当に愛おしいよユタカ。
愛してる。
私も、とユタカから思考が流れてきて、彼女を抱きしめる腕の力を、俺は強めた。
◆◆◆
「シンク達が戻ってくる前に…この状況どうしようね?」
シンクは結界を張って、こちら側に中が見えないようにしている。
防音もしているみたいで、二人の会話は聞こえなかった。
まぁ、あんな爆弾投げられたらそうもなるだろうけど。
僕は宝物庫出入り口の扉を見た。
先程から呻き声と、扉をバリバリ引っ掻く音が聞こえている。
圏外でも時計は使えているので時刻を見てみれば、もう午後7時。
ここに来たのが午後1時だったはずなので、もう6時間が経過していた。
「やだ、ホラー…」
「というよりは、ゾンビパニックだよね。ここ、窓なくて良かったよ。あったら今頃、窓から侵入されて対処するの大変だったはずだし」
扉の方を見つつ、シャナは怖がってツルギに抱きついている。
こういうホラー系、見る癖にビビリなんだよなシャナは。
周りを見るが、宝物庫には武器らしい武器が見当たらない。
こういう時のセオリーでは、何か武器になるようなものが置いてあるはずなんだけど。
本の見過ぎか、これ。
「しかも、魂喰らいの結界、まだ作動してるっぽい。シンクに言われて、あたしとグンジョウにも守りの結界張ってるけど…ずっとは張れないよ? それはシンクも一緒だと思う」