よろよろとシンクの方に歩いていったシャナは、差し出された手を取った。
魔力の循環が始まったようで、シャナはホッとした表情をする。
「ごめん、グンジョウ、シンク…。ちょっと、魔力欠乏になりかけてて…」
「そりゃ、こんだけ大きい屋敷を一人で結界張ってんだから、仕方ねぇわな。悪い、シャナ。よく頑張ったわ」
シンクと手を繋ぎながら、ベッドに突っ伏したシャナが謝ってくるが、そんな姉の頭をシンクは撫でた。
「今日、みんなで寝ようか。一塊になってた方が、何かあった時対処できるだろ」
「賛成ー」
僕の提案に、ユタカも同意してくれる。
僕もシャナの頭を撫でて、姉を労った。
「弟達が優しい…いい子達だなぁ…大好きだよぉ…」
「シャナ、寝るな。お前が寝たら、結界消えるから」
そう言われて、姉はハッとなる。
心地良過ぎてつい、と姉は苦笑いを浮かべた。
「ありがと、シンク。ユエちゃんとツルギ君呼んでくるね。二人とも、後片付けしてるだろうし」
立ち上がったシャナは、扉の方に歩いて行きそれを開ける。
そのまま廊下に消えていく姉を見送り扉を閉め、いい加減冷えてしまった夕食を頂く事にした。
◆◆◆
パーティメンバーが全員集まり、どうやって深夜を乗り切るかの話し合いが行われる。
「結界を張れるのは、俺とシャナだけ。だから交互に寝ればいいだけなんだけどよ…」
「ごめん、寝たら起きれないかもしれない」
シャナの返答に、俺もなんだよな、とシンクが呟いた。
いくら魔力の循環をさせて回復したからって、高が知れている。
この中で誰が一番魔力が残っているかと言えば、多分ツルギとユエだ。
桃華と会った後、魔武器を出して彼女を殴ろうと思ったら、フリーデリーケ卿に昏倒させられたとツルギが話していた。
ユエも、シンクが魔法を使ってくれたおかげで自分は全く消費していないと言っていたし。
回復魔法を使ったはずなんだけど、微々たるものだったらしい。
まぁ、シャナはツルギと恋人同士だし、僕の時のように魔力循環させて貰えば回復するだろう。
ユエがシンクと手を繋ぐのも、まぁ…僕が我慢すればいいだけの話だし。
狭量過ぎる男でごめん、ユエ。
「二人には、バッテリー代わりになってもらえば良いんじゃないかな」
僕と同じ結論に至ったユタカに、ユエは不満そうな目を向ける。
「ユタカ、シンクが私と手を繋いで嫌じゃないの?」
「なんでそんな事で目くじら立てなきゃいけないの。事情が分かってるんだから、嫉妬なんかしないよ。ユエ、ちょっとは大人になろうよ。もう高等部二年生だよ?」
言うようになったなぁ、ユタカ。
ちゃんと姉をしているの、久々に見た気がするけど。
去年は僕を追いかけ回していた彼女が、成長している。
女の子の成長は早い、なんて何処かの学術書で読んだ事があるが、ここまでなのか。
ユタカからそう言われたユエは、少しムッとなって、椅子に座っていた僕に乗っかってきた。
僕の首に腕を回し、拗ねてしまったようだった。
彼女の背中を軽く叩きながら、僕は携帯を見る。
携帯のホーム画面の表示を見て、ツルギを呼んだ。
「なんでしょう、殿下」
「圏外が解かれてる。多分、魂喰らいの結界にジャミングも混じってたんだと思う。これ渡すから、カヅキおばさんか母様にかけて」
携帯をツルギに投げる。
彼は慌ててキャッチした後、携帯を操作して電話をかけ始めた。
「…夜分遅く申し訳ありません、御巫です……先生、すみません。緊急事態が起きました……はい、あの…街が一つ壊滅しまして…あ、はい」
ツルギが僕に携帯を差し出してくる。
相手はカヅキおばさんなのだろうが、多分ツルギの無口による説明に業を煮やしたのだろう。
僕に説明を代われと言ったに違いなかった。
「代わりました、グンジョウです」
『グンジョウ、街が壊滅したとはどういう事だ。一体何があった。簡潔に説明しろ』
夜中という事もあって、おばさんが若干性急だ。
寝ているところを起こしてすみません、と思いつつ、僕は説明を始める。
「簡潔に言えば、魔王の手によってフリーデリーケ領都は壊滅しました。フリーデリーケ卿も魔王の因子を埋め込まれ正気を失っており、処断せざるを得ないと判断し、殺しました。詳細は後日報告書を提出しますので、それらを確認していただければ。で、ですね…カヅキおばさん。シャナが結界を張ってくれてるんですけど、朝まで保ちそうにないので…助けてもらえないですか? 領民にも魔王の因子を打ち込まれたようで、今、狂った領民が屋敷に殺到してるんですよ」
それを早く言え、とおばさんに怒鳴られ、僕らを包むように影が伸びた。
頭上まで覆われた後それが弾け、僕らは城の訓練場に出現する。
「あなた達、無事?! シンク、貴方なんて無茶したの?!」
「母様…」
母様が慌てて転移してきた。
椅子やらベッドやらと共に現れた僕達だったが、そこには言及せず、僕達の心配をしてくれる。