そしてシンクについて言ったという事は、星読みであれを見たのだろう。
まだベッド上にいたシンクを、母様は抱きしめた。
「母様…苦し…」
「無茶をするんじゃないわよ! いくらユタカちゃんと魔力回路繋いでたって、貴方転生者じゃないのよ?! 魔力回路壊れたらどうするつもりだったの?! 本当にもう…無茶ばかりするの、あたしに似たのかしらね…」
シンクを離し、泣きながら苦笑する母様に、シンクが少し困った顔をする。
まさか親に泣かれるとは思っていなかったのだろう。
僕もまさか泣くとは思ってなかった。
「全くだぞ、シンク。シャルを泣かすな」
いつの間に来たのか、父様がシンクの頭を小突く。
父様の姿を認めたシンクが、目を丸くして父様と母様を交互に見ていた。
シンクの所の両親は結構冷たかったのだろうが、うちの両親は愛情深い人達だ。
それはシンクもわかっていた事だろうに、何をそんなに驚く事があるのだろうか。
まぁ、それは僕には関係ない事だ。
僕の今の問題は、目の前の彼女をどうしようという事なのだから。
「ユエ、そろそろ離れて。うちの両親来てるから」
「…やだ、眠い」
僕に抱きついたまま、ユエは首を横に振る。
やだじゃないんだよなぁ…。
この状態、ユーリおじさんに見つかったら…。
「僕が何かな? グンジョウ君」
背後からかかった声に、僕は冷や汗が出始めた。
ユエが抱きついているせいで振り向けないが、振り向けなくて良かったと思わざるを得ない。
「…あの、不可抗力でして…」
「別に僕は何も言ってないじゃないか。ユエ、帰るよ。あまりグンジョウ君にベタベタしていると、またテスタロッサ夫人の所で再教育かもね?」
その言葉に、ユエはのそのそと動いた。
表情を見ると、すごく膨れっ面をしている。
僕は彼女の表情を見て、やっとあの場所から抜け出せたのだと、強張っていた体の力が抜けた気がした。
「グンジョウも頑張ったわね。人を殺してしまったのに、あまりショックを受けていないようで…強い子ね、貴方は」
ユエとユタカをユーリおじさんが連れ帰った後、母様が僕の頭を撫でながら言う。
シンクは父様に担がれて城に連れて行かれたし、シャナはもう眠ってしまったのでツルギがお姫様抱っこで部屋に連れて行ったみたいで、この場には僕と母様しかいなかった。
「…別に、ショックを受けていないわけじゃないよ。ただ、フリーデリーケ卿は…もう人ではないと、思い込んだだけ。それに、直接手にかけたわけじゃない。魔法で潰したから、僕の手にはなんの感触も、残ってはいない。だから、そんなに心配しないで母様。むしろ喜んでよ。母様の息子は、こんな事ぐらいで…」
母様が僕を抱きしめる。
母様がつけている、甘い香水の匂いが僕を包んだ。
「強がらなくてもいいし、泣きたいなら泣きなさい。格好つけたい子は、今はいないのだし。あたしは親だから、貴方が泣いたところで誰にも言い触らさないわよ……頑張ったね、グンジョウ。貴方は、自慢の息子よ」
「…っ、母様ぁ…っ!!」
母様の服を掴み、僕は泣いた。
怖かった。
シャナが目の前で衰弱していく様が。
怖かった。
人が、目の前で死んでいく様が。
怖かった。
守りたい人達が、この手から零れ落ちてしまうかもしれないと、恐怖した。
母様みたいな力が、僕は欲しかった。
みんなを守れる力が。
その力が無い事が、今はとても悔しい。
「母様、僕…強くなりたい…。母様みたいな力が、欲しい…」
「グンジョウ。強い力を持っても、それを扱う精神性が無ければ、ただの暴力と変わらないの。それは昔教えた事よね? 大丈夫。貴方はちゃんと強くなっていますとも。力も精神も。母親であるあたしが言う事は、信じられないかしら?」
その問いに、僕は首を横に振る。
カヅキおばさんの次に強い、母様の言葉だ。
誰よりも、信じられる。
「母様…ありがとう。僕、もっと頑張るよ…みんなを守れるくらいに」
「えぇ、頑張りなさいグンジョウ。貴方は、あたし達の自慢の息子ですもの。ね、あなた?」
顔を上げると、母様の隣に父様が立っていた。
僕を優しい瞳で見ていて、僕はまた泣きそうになる。
「あぁ。俺達の息子は、とても強い子に育っているなシャル。今は思う存分泣け、グンジョウ。それを糧にして、前に進め。お前は、賢しい子だ。それ故に、考えてしまう事も多いだろう。だが、お前は艱難辛苦があろうとも、乗り越えられると俺は信じている」
父様からも頭を撫でられ、僕は小さい子のように泣いてしまう。
そんな僕を、両親は抱きしめてくれていた。
◆◆◆
後日談として。
フリーデリーケ領は事実上壊滅し、隣のテレジア領に吸収される形となった。
僕らが帰ってきた翌日、カヅキおばさんが調査に向かい、フリーデリーケの領民全員に魔王の因子が埋め込まれていると、報告してきたからだ。
そのままにしておけず、おばさんは領民全員を消し去ったらしい。
それについて父様は難しい顔をしていたし、母様は沈痛な面持ちをしていた。