治めるべき民もいなくなった領地を是非自分にと言ってきたのが、テレジア卿だった。
なんでも、領民が爆発的に増えたので新しい土地か何かが欲しかったと、後で報告書を読んだ。
それに懐疑的だったのが、父様とカヅキおばさんだ。
「確かに税収は増えているし、出生率も上がっているようだが…本当なのか、これは?」
「私も影を使って調べたが、本当の事のようだ。あの古狸…何を考えているかわからん。ベルファさんに突っかかるくらいしか能がない、ただのクソジジイだろうに…一体どんな手品を使ったのやら」
肩を竦めるカヅキおばさんと、更に眉が寄る父様。
母様はといえば、窓に向かって祈っていた。
多分、亡くなったフリーデリーケ卿や、領民が安らかに神の元へ行けるように、祈っているのだろう。
それが、僕が報告書を上げに行った時に見た光景だった。
そして僕らは今、期末テストを控え、勉強会を開いている最中だった。
「わ、わかんない…どういう事…?」
「シャナ…ここの公式と、ここの公式が…間違っている。このXを求めるには…」
数学の公式を覚える気もない姉が、ツルギに教えてもらっている。
恋人に教えられているのだから、今度こそはちゃんと覚えるだろう。
僕はといえば、期末試験の範囲内でシンクと問題を作り、お互いに交換して解いてを繰り返していた。
「なんか、一般人には理解出来ない、高度な遊びをしているみたい…」
「ユエ、みたいじゃなく、実際そうだから…」
ユエとユタカが僕らの行動を見ながら、若干引いた目で見てくる。
君達、僕らの事を一体なんだと思ってるんだ。
自分だからこそ、苦手分野の克服をしようとしているだけなのに。
「おま…引っかけにも程があるだろ、これ?」
「そっくりそのまま返すよ。科学の問題でこれ出してくるとか、本当に君って奴は…!」
学園の図書室で勉強しているわけなのだが、シンクと掴み合いの喧嘩をしそうになって、お互いの恋人に宥められる。
「まぁまぁ、シンク…」
「これ二人きりで勉強した方がいいんじゃない? ね、アオ。そうしようよ」
そうしたいのは山々なんだけど、君誘惑してくるでしょ。
ここ学園なのわかってるの?
何の為にみんなで勉強してると思ってるの?
そういった視線を向けると、目を逸らされた。
僕の思考も読んでいるはずだから、やっぱりか、と思ってしまう。
「シンク、どうする?」
「んー…じゃあ、お互いの恋人に教え合うってのはどーよ? 俺はユエ、お前はユタカ。良い考えじゃね?」
何処がと怒鳴り声をあげそうになるユエの口を、ユタカが塞いだ。
「苦手分野、結構あるんだ。グンちゃん、よろしくね」
「懇切丁寧に教えるよ。ユエ、ちゃんとシンクに教わりなね?」
ムーっとなったユエの腕を引っ張り、シンクは僕から彼女を離していく。
腕を掴む必要性あったかなぁ。
後でしばこうかな、シンクの奴。
「じゃあ、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね。じゃあ、苦手分野からやっていこうか」
ユタカの苦手分野は大体シャナと同じだったが、姉と違い理解力がユタカにはあった。
少し教えれば、こういう事かと理解を示し、問題をスラスラ解いていく。
「ユタカ、シンクとはどう? まぁ、見てて分かるけど」
「女心っていうものを少し理解した方がいいよ、グンちゃん。ユエをグンちゃんから離して冷静にさせる為だとはいえ、私の初恋はグンちゃんなのは変わりないんだからね? …シンクとの関係は良好そのものだよ。むしろグンちゃんよりも、もっと好きになってるよ」
問題を解きながら、ユタカは微笑む。
幸せそうで、本当に良かった。
「ねぇ、ユタカ。もしもの話なんだけどさ。僕が君を選んでいたら、ユエはどうしていたと思う?」
僕らから遠い場所にいるユエを見る。
シンクを睨みながら、たまに小声で何か言いながら、ちゃんと勉強しているようだ。
「グンちゃん…たとえ想像でも、ユエに失礼だよ。でも、そうだなぁ…ユエの性格を考えたら、オーシアに帰っていたかもね。ユエって結構、勝ち気だから。グンちゃんより良い人見つけて、私は幸せだって笑ってたかもね」
ふふ、と笑うユタカに、僕は苦笑する。
聞いた側だけれど、想像してしまって少し嫌だと思ってしまった。
やっぱり、ユエの隣は僕がいい。
他の男になど渡すものか。
ユエは、僕のものだ。
「グンちゃんも難儀だね。ちゃんとユエに伝えてる?」
「伝えてるけど、恥ずかしがってね。少しは慣れてくれれば有難いんだけど、なかなか…」
ユタカの苦手分野を一つ一つ解説しながら、閉館時間まで僕らはいた。
校舎から出ると夕陽が世界を照らしていて、とても綺麗だと感じる。
「腹減ったなー。どっか食いにいく? シャナも作るの面倒だろ?」
「確かにそのお金はあるけどさぁ…って、なんであたしが作る前提で話してんの? 自分で作りなさいよ?!」
シンクの奴、素直にシャナのご飯が食べたいって言えばいいのに。
日常に帰ってきたのだと、二人のやりとりを見て僕は思った。