別に待ってない、とカヅキおばさんはアイスコーヒーを飲んでいた。
使用人はもちろん王家で雇っている人達だが、カヅキおばさんが母様から全幅の信頼を寄せられている事もあり、結構カヅキおばさんのいう事を聞く人達もいるようだった。
「グンジョウ、また無茶してない? 大丈夫?」
「してないよ母様。大丈夫、午後からはみんなで探索するから。一ヶ月くらいだっけ、ここにいるの。その期間までには終わらせるようにするから」
食卓についていた母様が、僕らを心配そうに見ているのでそう返す。
まぁ、メンタルやられまくってますけど、今。
表情は取り繕えるようになったけど、それすらも母様にはバレているんだろうなぁ…。
「大丈夫というなら、大丈夫だろう。自分の引き際くらい、グンジョウは分かっているだろうさ」
「男親だからわかるってヤツなの、あなた? むぅ…少しだけ悔しいわ」
ぷくーっ、と頬を膨らませる母様、御年35歳。
それすらも可愛いと言って溺愛する父様。
そんな二人を、呆れた目で見ているカヅキおばさん。
いつもの光景である。
「歳を考えろ、ナツキ」
カヅキおばさんが、アイスコーヒーの氷を噛み砕きながら母様に苦言を呈した。
しかしそれに対して、父様が反論する。
「いくら歳を取ったとて、シャルは俺の可愛い妻だ。動作も全て愛らしい。制限する必要性も、今はないだろう? 何が問題なんだ」
「いや、問題だらけだろうが。30過ぎが子供っぽい動作をやるって、頭おかしいのかって思われるのがオチだろうよ」
父様とカヅキおばさんの言い合いというか、討論というか。
母様についての議論とでも言うのか。
長引きそうだったので、僕らは席に着く事にした。
「そういえばユーリおじさんは? 来てないの?」
食堂の中を見回すが、カヅキおばさんの伴侶であるユーリおじさんの姿が見えない。
いつもなら、一緒に来ているはずなのに。
「来てるよ? 何かな、グンジョウ君」
僕の背後から音もなく声をかけられ、両肩に手を置かれる。
扉から入ってくる音もなかったので、それだけで僕は身動きが取れなくなった。
「いや、カヅキおばさんと一緒にいないから、どうしたのかと…」
「リオンとラゼッタ君がお昼寝してたから、起こしに行ってたんだよ。まだ4歳だからね。で? 本当の所は?」
本当も何もその通りにしか思ってませんが?!
ユーリおじさん怖い!!
「パパ、アオをいじめるのはやめて」
僕の背後にいるユーリおじさんを睨みながら、隣に座ったユエが僕の肩に置かれたおじさんの手を払い除ける。
「いじめてるつもりはないんだけどね。全く、親離れが早くないかいユエ? 小さい頃はパパと結婚するって二人とも」
「「言ってないから」」
ユエとユタカの声が重なった。
それに対して、シンクがくっくっと笑い始める。
「何がおかしいのかな? シンク君」
「いや…親離れされるの、寂しいっすよね、ユーリおじさん。すんません、二人の反応見てたらツボっちゃって」
ニコリと笑いながら、ユーリおじさんに言うシンクに僕はただただ驚く。
よく言えるな、こいつ。
僕、まだユーリおじさんが背後にいるから怖過ぎて冷や汗止まらないんだけど。
「パパ?」
「はいはい、離れるよ。次はシンク君を標的にしようかな?」
その言葉に、今度はユタカの顔が険しくなる。
チラリとユーリおじさんを見ると、楽しそうに笑っていた。
娘で遊んでるよこの人…。
止めてくれるであろうカヅキおばさんは、今父様と討論中でこちらに気付いていないし。
母様は優雅にアイスティー飲んでるし。
三人共、お昼ご飯済ませたんですか?
「ユーリおじさん、遊ぶのもそこまでにしてもらえませんか? あたし達、まだお昼ご飯食べてないんです。午後から遺跡の調査もあるので、手早く済ませたいのですが」
「おや、これはごめんねシャナちゃん。じゃあ、僕はリオン達のお世話に行こうかな」
メイドに手を引かれ、目を擦りながら食堂に来たリオンちゃんと、僕の弟のラゼッタを見つつ、ユーリおじさんは僕らから離れていった。
「シャナ、助かった…」
「あれくらい、ちゃんと言いなさい。一応、王太子なんだよグンジョウは?」
シャナが呆れた目を向けてくるが、言えてるなら最初から言っている。
…ユーリおじさんの大切な娘であるユエを、僕は何回泣かせて怒らせたかわからない。
本来なら、ユエから引き離されてもおかしくないのだ。
僕が哀願した所で、自業自得だとユーリおじさんは言うだろう。
実際その通りなので、懇願しても無駄だろうなと考えてしまう。
それでも僕は、ユエの隣にいたい。
僕は俯き、自分の服を掴む。
「アオ…。そんな事になったら、私抵抗するから。いくらパパやママでも、私からアオを引き離すなんて、絶対許さない。あと、気にしないでってば。アオの事が大好きなだけなんだから」
「ユエ…人の心読むのやめてよ…」
でも嬉しくて、彼女の手を握った。
僕らの様子にシャナは肩を竦めるだけだったが。