my way of life   作:桜舞

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141話『甘さを捨てろと言ったのは君のはずだ』

「向こうに鉄格子見えるけど、魔物とかいるのかな…」

 

ユエ、それフラグだから。

そう言いかけた瞬間、僕らの向かいにある鉄格子がゆっくりと上がっていく。

 

中から、赤い目で僕らを睨みながら牙を唸らせる、黒い巨体が現れた。

それを見た瞬間、僕らは魔武器を呼び出し構える。

 

「なんでここにブラックドッグがいるの?!」

「いや、もっとタチが悪いかもしれないよユエ…」

 

この世界には精霊と妖精という種族がいて、精霊は僕らに友好的ではあるが、妖精は人に悪戯をしたり誘惑したり…果てには、人を殺したりする。

 

ブラックドッグもその妖精の一種であり、見た者を死に誘うといわれているモノだ。

だが、僕らの前に現れたのはそれの最上位。

 

硫黄の匂いと、鎖を引きずる音。

ブラックドッグにはない、ツノがある。

それを見た瞬間、僕は冷や汗が流れるのを感じた。

 

「ブラックドッグじゃない、バーゲストだコイツは…」

「…撤退しよう、アオ。流石に私達だけじゃ、コイツ倒せないと思うよ…」

 

ブラックドッグの最上位、バーゲストの話はユエも知ってはいたようだ。

猟犬とも言われているこいつは、その狩猟本能とでもいうのか、人を食い殺す事に躊躇いはない。

それこそ、逃げた所で追いつかれて食われるのが常である。

 

ユエの言う通りにしたい所だけど、撤退した所でバーゲストは追ってくるだろう。

撤退しながらシャナ達に連絡をする間に、ユタカ達がいる場所に辿り着いてしまう。

 

「ユエ、シャナに連絡してこちらに来るよう言って」

「…もうやってるんだけど、ごめん…ジャミングされてるっぽい」

 

成程、抜かりないなバーゲストの奴。

援軍を呼ばれる前に片をつけてしまおうという算段か。

それとも、逃げる獲物を狩る楽しみを味わいたいだけなのか。

どちらにしろ、性格が悪すぎる。

 

僕は思わず舌打ちした。

 

「アオ…」

「ユエ、サポートよろしく。こちらに気が向いている間にジャミングが解かれる可能性がある。あと、リンク繋いでもらっていい? 眼鏡も預かってて」

 

眼鏡を外し、背後にいるユエに投げ渡す。

落とした音がしなかったので、ちゃんと受け止めてくれたようだ。

 

僕は身体強化を全身に施しながら、告げる。

 

「来い、グリード」

〔随分待たせるではないか、我が主。何だ、アレを食い殺せば良いのか〕

 

僕の横から巨大な魔法陣が出現し、そこから銀色の大きな狐が現れた。

僕の魔力量が低過ぎて、主従契約をしたは良いが呼び出すのが少し困難になってしまった彼は、とても暇にしていたようだ。

 

「僕が奴を殺し切るまで、あれの相手をしろ。君が言ったように、食い殺しても構わない。出来るな、グリード」

〔はっ! 誰に物を言うておる。貴様の使い魔になったからと、我は七罪の悪魔ぞ。むしろ、我に食い殺されないよう気を付けろ、我が主〕

 

僕は身を低くして、地面を蹴る。

バーゲストが吠えるが、グリードも吠え返し、二匹は戦闘に入った。

 

僕はバーゲストの体の下を駆け抜けながら、奴の脚を斬りつける。

その巨大な体を覆う体毛が硬すぎるせいか擦り傷一つ負わせられず、僕は身を反転させバーゲストの腹部辺りまで戻ると、その腹を蹴り上げた。

 

黒炎が吹き出し僕を襲うが、シールドを出現させそれを防ぐ。

 

水弾(ウォーターバレット)!!」

 

ユエが魔法を唱える声が聞こえ、続いて水の弾丸がバーゲストに当たる音がする。

バーゲストの注意が彼女に向いたが、グリードがその隙を見逃すはずなく、奴の喉元に食らいついた。

 

僕はバーゲストの腹部から脱し、地面を蹴って飛び上がると、そのままブランシュとノワールに魔力を流し巨大化させ、交差させる。

 

灰鋏(グレイシザーズ)!!」

 

そのままバーゲストの首を落とすはずだったが、それも硬い体毛に阻まれてしまった。

流石に腕力に任せてやると、今度はブランシュとノワールが保たないと判断した僕は、攻撃を止め、バーゲストの頭を踏みつけ、ユエの所へ戻る。

 

「アオ、大丈夫?」

「平気。シャナには連絡ついた?」

 

回復魔法(ヒール)をユエがかけてくれ、何故だろうと思っていると、火傷を少し負っていたようだった。

僕の質問に、ユエは首を横に振る。

 

「仕方ない…。ユエ、念話が通じる所まで撤退。僕が引き付けておくから、シャナ達を連れて来て」

「グリードに任せて、アオも撤退しようよ!? むしろ、アオが引いた方がいい!! シャナちゃんと波長がすぐに合うのはアオなんだよ?! 私は立花の娘だから、簡単に死んだりしない!!」

 

ユエ、と僕は彼女の名を呼び、肩を掴む。

 

「これは命令だ。撤退しろ。甘さを捨てろと言ったのは君のはずだ、ユエ。僕の判断に従うとも言っていたね? 君は、立花の娘だ。なら…わかるな?」

 

ぐっ、と悔しそうに口を引き結び、ユエは俯いた。

そして彼女は胸の辺りで手を強く握り、そこへ涙が一粒零れ落ちる。

 

「わかりました…グンジョウ殿下…どうか、どうかご無事で…」

 

僕へ少し頭を下げ、ユエは踵を返し駆けていく。

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