彼女の方を本能的に追おうとし、首元にグリードが噛み付いているせいで追えず、バーゲストは吠えた。
「…ったく…うるさいな…獣風情が」
僕は体内の魔力回路を高速で回す。
ユエの魔力もほんの少しだけ使わせてもらい、僕は片手をバーゲストへ向けた。
「僕の女を食い殺そうとするな、駄犬。それを許す僕ではないぞ。それに、僕を誰だと思っている……ナズナ・エキザカム・ブリリアントと、シャルロット・マリアライト・ブリリアントの息子だ!! 貴様なんぞに、負ける僕ではないっ!!」
魔法陣が僕の周りに浮かび上がる。
魔力回路が軋み出したが、構うものか。
「
四大元素が魔法陣から放たれ、バーゲストに当たっていく。
シャナがリブロを従えた時に見た魔法、それを模倣してみたのだ。
流石に無属性魔法は仕組みがよくわからなかったから、使えはしないが。
ゴフッ、と僕は吐血する。
魔力量が少なく、無理に魔力回路を回した反動が来たのだろう。
だが、あともう少しだけ。
シャナが到着するか、もしくはシンクが起きるまで保たせなければ。
こいつを、ユエの所に行かせてなるものか。
その一心で、僕は魔法を撃ち続ける。
〔おい、我が主。我にも当たっているのだが〕
「それは…っ、申し訳、ないね! だが、気にしている余裕…こちらには、なくて…っ!」
僕の魔法が当たり、グリードが苦言を言ってくるが、それも気にしている暇などない。
「我が呼び声に応えよ! 開け闇の扉!! 我が敵を貫け
そんな時だった。
僕の背後から聞き慣れた声が魔法を唱え、バーゲストの体を黒色の巨大な剣が刺し貫いた。
それでも藻搔いていたバーゲストだったが、グリードの歯がやっと奴の喉元に到達出来たようで、ゴキィッと派手な音がし、バーゲストはそれで息絶えたようだった。
僕は魔法陣を消し、体の力が抜けて倒れかけるが、その声の主が抱き止めてくれる。
「グンジョウ!! なんて無茶すんの、あんたは!!」
「……姉上…来てくれて、助かったよ…ユエ、間に合ったんだね…」
シャナが
「ごめん、姉上…役立たず、で…」
「もう喋るな! あぁ、もう!! ユエちゃん、ユタカちゃんに連絡!! 撤退するよ!」
姉が指示を出し始め、僕はユエを見る。
「…ユエ、ごめん…」
僕はそこで、意識を暗転させた。
◆◆◆
次に目を開けるとベッドの上で、母様が回復魔法をかけてくれている。
魔力回路も全体強化のダメージも修復されつつあり、こんなに魔法を使ったら母様の駆体が保たないのではないかと、寝起きの頭で思った。
「起きたわね、グンジョウ? 全くナズナの奴…何が引き際よ、やっぱり無茶したじゃないの、この子」
「ごめん、母様…。でも、相手がバーゲストだった…から。逃げたら、ここも危ないと…思って」
母様は仕方ないと笑い、僕の頭を撫でる。
それが心地良くて、僕は目を閉じた。
「本当に、責任感が強い子ねグンジョウ。でも、カヅキも言っていたでしょう? まず、生き残る事を考えなさいって。自分の力を過信しちゃダメ。グリードも召喚していたのですってね? それも、ほんの少しだけユエちゃんから魔力を貰っただけで、あとは自分の魔力だけで回してたって。貴方…生命力まで使ったわね? だから血を吐くのよ、お馬鹿」
「…ごめんなさい」
僕は薄目を開けて、ため息をついた母様を見る。
「あたしに謝らず、ユエちゃんに謝りなさい。シャナから聞いたけど、ユエちゃん泣きながらシャナに助けを求めていたそうよ。アオが死んでしまう、助けてシャナちゃん、って。うちの男ども、惚れた女に心配かけさせる癖でもあるのかしら」
「………はい、すみません」
耳が痛すぎる。
これ、ユーリおじさんの耳にも入ってるだろうなぁ…。
婚約破棄目前ですか、これ?
「馬鹿な事考えてないで療養しなさい。明日は、貴方を抜かしたメンバーで行くそうよ」
「それは…っ! う…ぐ…っ!!」
驚いて身を起こしかけ、激痛で胸を押さえる。
ペシリ、と母様から頭を軽く叩かれた。
「魔力回路が損傷しなくて良かったわね、グンジョウ。良いから、休んでなさい。あと、ユエちゃんが来たらちゃんと謝るのよ? …いたた」
母様が立ち上がり扉の方へ歩いて行く際、少しだけ腹部を押さえていた。
それを見て、生身で僕の治療をしてくれていたのだと、察する。
「母様、ごめんなさい。ありがとう」
「…あたしの可愛い子供だもの。心配にはなるけど、親が先回りして子供が成長するのを、潰してはダメだと思うのよ。だから、いくらでもあたし達に心配をかけさせなさいグンジョウ。それが親の務めですもの」
僕の方を見て微笑んだ後、母様は扉を開けた。
そして少し動きを止め、僕を再度振り返って苦笑いをする。