「…? 母様?」
「グンジョウ…まぁ、頑張りなさい」
母様と入れ違いで、ユエが入ってきた。
なんであんな表情をしたのかの理由が、よくわかる。
僕に眼鏡を投げ付けて、椅子に座ったユエが泣き腫らした目で、僕を睨みつけていたからだ。
眼鏡をかけて、その表情を見た僕は困ったように笑うしかなかった。
「ユエ…あの、ごめんね…? その…君が無事で、良かったよ。怪我はなかった?」
そう言葉をかけるが、ユエは無言で僕を睨み続けている。
うわ、気まずい。
ユエが怒る理由はわかる。
去年のウンディーネ3の月、ユーラ王国に行った時。
ユエが言った言葉を僕は彼女に対して使い、一緒に逃げようと言ったユエを、命令という形で突き放した。
その結果がこれだ。
シャナを連れて帰ってきたら僕が死にかけてて、彼女は血の気が引いた事だろう。
「ユエ…本当にごめん。心配かけたよね…でも、あの判断は間違ってなかったと、僕は思っている。ユエ、君を傷つけたのは大変申し訳ないと思っているよ。だけど、こんな事態になったら僕は迷わず同じ判断をするだろう。君を心配させ、傷つけると分かっていても
……ユエ、君を傷つける発言を、今からするね。
……一回、別れようか? 婚約はそのままにはするけど、少し僕から離れた方が良いんじゃないかな、って思うんだ」
僕のその言葉に、ユエはベッドを殴りつけた。
「……馬鹿っ!! 本当にアオの馬鹿!! なんで別れるって話になるの?! そんなに私を泣かせたいの?! ……っ、悔しかったんだよ…っ! 私じゃ、アオの足を引っ張る事しか出来ないんだって…っ! 確かに、救援を連れてくるのも重要だったよ…!
でも、でも…っ! 逃げるなら、貴方と一緒が良かった…っ!! 貴方をあの場に残して行きたくなかった!! 逝くなら、貴方と一緒がいいの!! アオの判断は、わかるよ…それが貴方の判断なら、王太子としての、貴方の判断なら…従うと言ったよ。でも、貴方を愛している私の事も考えてよ!!」
悲痛な叫びを上げながら、ユエは涙を流し始める。
僕は痛む体を推して起き上がり、ユエの頬に手を添え彼女の涙を拭った。
「ごめん、ユエ。何回も、君を傷つけて泣かせて…最低な男だよね、僕は」
「…本当に、最低…っ!! でも、そんな最低な貴方も、愛してるの…っ!」
コツンと、泣いているユエの額に、自分のをくっつける。
そして苦笑した。
「ユエ、君…ダメな男に引っかかってない? 大丈夫?」
「アオがそれ言う?!」
僕がダメージを負っていると分かっているからか、ユエは手を挙げてはこないが、ムッとなってしまう。
その表情を見て、僕は笑った。
「アオ、酷い…」
「そんな僕も好きなんだろう、ユエ? 僕も、君の欠点も含めて愛しているよ。とても愛おしい、僕だけの
頬にキスを落とす。
ユエは少し困ったようで、目が泳いでいた。
「…照れてる?」
「聞かないでよ、馬鹿…」
フッ、と笑うとまた、酷いと言って彼女はそっぽ向いてしまった。
まぁ、その後回復してなかった僕は、彼女に寄りかかる形でグッタリしてしまい、またユエに怒られるという事態に陥った。
◆◆◆
次の日。
僕を抜かしたメンバーが遺跡に潜って行った。
ユエは残りたそうにしていたが、僕の部屋にいた彼女をユタカが連れていってしまう。
そんなわけで、僕は一人で本を読んでいるわけなのだが。
「めっちゃ進む…っ!!」
本を一冊読み切り、僕は少し感動して顔を覆う。
勉強だ、魔王の遺物探しだと休日も忙しく、本を読んでいる暇がなかったのだ。
たまにはこんな日もあっていいよな、なんてニコニコしてしまう。
別にユエを蔑ろにしているわけではないし、彼女がデートをしたいというなら、何処へなりとも連れて行く所存である。
本を3冊くらい読み終えたところで、部屋の扉がノックされた。
「はい?」
「アオ、起きてる、よね。入っても良い?」
ノックしたのはユエのようだが、別に普通に入ってくればいいのに、入室許可を取るなんて珍しい。
「良いよ、どうしたの?」
「いや、あの…読書の邪魔しちゃ、悪いかなって思って…」
少しだけ扉を開けて、こちらを覗き込んでくるユエに苦笑する。
フリーデリーケに行った時の事を思い出したようだ。
「今は読んでないよ。君が帰ってきたって事は、もうお昼だろう? 一緒に食事を摂りたいんだけど、どう?」
「…うん! 休憩一時間くらいしたらまた潜るけど。それまでは、アオと一緒にいたいなって思ってたの」
扉を開け、食事が載ったカートを押して、ユエが入ってくる。
僕の彼女可愛い。
凄いニコニコしてる、可愛い。
本当、こんなクズと付き合ってくれるユエ、女神の生まれ変わりじゃない?
もう本当好き、愛してる。
僕がそう思っていると、ユエがテーブルに配膳している途中で固まってしまう。
どうしたのだろうと思い少し考えて、また僕の思考を読んだのだなと結論に至った。
「ユエ? 口に出してないんだけど?」