しないし、君以外いらないのに。
僕はユエの腕を外し、二人に頭を下げた。
「ユーリおじさん、カヅキおばさん。ユエを、僕にください。精一杯、彼女を愛し、守り、慈しみます」
「さっきも言ったけど、お気持ち表明だけだと困るんだよグンジョウ君? それで魔王が倒せればいいよね、二人とも?」
パパっ!!
とユエはまた怒鳴るが、僕は頭を上げず言う。
「おじさんが言う事もわかります。ですが、僕は強い者だろうと、屈するつもりはありません。僕はユエを、みんなを守りたい。それが、ユーリおじさんには表面上の話だと見えてしまったとしても。僕の決意は揺るぎません。魔王は必ず討伐します。命になんて変えない、絶対みんなで生還します」
「裕里、子供を信じ見守るのも、教育者の務めと思わないか? まぁ、グンジョウが未熟なのは私も認めるが」
顔を上げていないから、カヅキおばさんの表情が分からないが、絶対面白そうに僕を見ている事だろう。
あと未熟なのはわかってます。
「まぁ、カヅキに免じてこれくらいにしておいてあげるよ。グンジョウ君、成長してもらわないと困るから言っておくけど。常に冷静にね」
二人の足音が遠ざかっていく。
ユエが僕の腕を軽く叩いて、漸く僕は顔を上げた。
「シャナ、口を出さず黙っててくれてありがとう。あと、煩かったかな…ごめんね?」
「…いや、ごめん。あんなに怒ってるグンジョウ、初めて感じたから。ユエちゃん連れて来たら何とかなるかと…。余計なお世話だったかな」
姉の言葉に、僕は首を横に振る。
微笑もうとしたが、体調が万全でない上で戦闘をし、尚且つこの炎天下で僕は立ちくらみがし、その場に蹲った。
「アオ?! パパ、マジ許さん…っ!!」
「グンジョウ、立ちくらみ? 日陰作るから、少し休んだら動けそう? 水飲む? ユエちゃん、今はそっちいいからこっち手伝って」
ユーリおじさんが去って行った方向を睨みつけるユエと、僕を心配して色々やってくれるシャナ。
あと、珍しくシャナがユエを叱責して、彼女は姉の言う通りに動き始めた。
「姉上…ごめん、倒れる…」
「良いよ。しばらく眠ってなさい、グンジョウ」
本当、こういう時頼りになる姉だよ、シャナは。
僕はそう思いつつ、シャナに抱かれながら瞼を閉じ、意識を手放した。
◆◆◆
次に目を覚ますと夜だった。
時刻を携帯で確認すると午前1時で、僕は起き上がる。
少し散歩してから、お風呂入ってもう一回寝よう…。
そう思った僕はゆっくり扉を開けて、廊下に出た。
そのまま外へ繋がる扉を開けて、裏手の門の所で寝ずの番をしている親衛隊に声をかけ、門を開けてもらう。
少し散歩してくるだけで、すぐ戻る事を伝え屋敷の裏にある森の遊歩道を歩く。
「涼しいな…」
昼間のあの熱気が嘘のように、夜はとても涼しく過ごしやすい。
森林浴とでもいうのか、空気が心地よく感じ、僕は深呼吸をした。
月も出ているので、歩くのは難しくない。
「月か…」
確か、ユエの名前を生前の母様の国である、日本で使われていた漢字という言語にすると、月と書くらしい。
その名前の通りだと、僕は思った。
彼女の美しさは月のように、涼やかで冷たい印象を与えてくるが、それでも慈悲深く暗い道を照らしてくれるような、導いてくれるような、そんな女性だ。
「ユエ…」
僕は月を見上げながら手を伸ばす。
届きそうで、届かない。
彼女がもし、僕から離れてしまったのなら。
この月のような距離に、行ってしまったのなら。
僕はこの気持ちのまま、生きていかなければならないのだろうか。
「ユエ、会いたい…」
ポツリと、そんな事を呟いてしまう。
今彼女は、屋敷の寝室で眠っているだろう。
会いたいと思えば会いに行けるし、日が登れば起き出して僕に会いにきてくれる。
こんな切ない気持ちになるなんて、ナンセンスだ。
それに、彼女が僕から離れるなど有り得ない。
僕も彼女も、共依存に陥っていると、ここに来てから気付いたのだから。
お互いに必要で、大切で、離れ難く、なくてはならない存在。
それが、今の僕とユエの関係だ。
くっ、と自嘲して僕は月から目の前に視線を戻す。
暗闇の中、少し発光しながら一人の少女が立っていた。
今まで、誰もいなかったのに。
しかしその姿を認めた瞬間、僕はブランシュとノワールを呼び出す。
薄ピンクの髪に、白いワンピース、靴は履いておらず、素足のまま。
「桃華、何故ここにいる」
僕の問いかけに、桃華は俯き答えない。
一体何を企んでいるんだ、と警戒していると、彼女が顔を上げた。
その表情に、僕はギョッとする。
大粒の涙を流し、虚ろな目で桃華は僕を見つめていたのだ。
「桃華…?」
「……助けて…お兄ちゃん……助けテ……助ケ…テ……オ……兄……ちゃ……ン……」
助けて、お兄ちゃん?
何を言ってるんだこいつは。
なんで僕が、お前を助けなくちゃいけないんだ。
僕から、雪那を奪った。
今は魔王の手先として、僕を、ユエを、みんなを。
害そうとしているお前を。