「え、いらない。まぁ、王太子妃になってアオと一緒に公務に行く時には、身につけなきゃいけないんだろうけど…普段から宝石身につけたくない、怖い」
君はそうだよね、うん。
僕はみんなに振り返り、帰ろうかと告げた。
◆◆◆
夜。
おばさんに遺物を引き渡し、僕らは天体観測に向かった。
弟妹達の夏休みの宿題に、そんなものがあったらしい。
忙しそうな僕らに声をかけ辛かったみたいだと、母様から教えられた。
母様もそんなに詳しくはないし、ユーリおじさんはそちら方面は自分の教科外だからと、やはり詳しくなく。
父様は論外、カヅキおばさんは忙しいと判断した弟妹は、僕らの用事が終わるまで待っていてくれたようだ。
「いやしかし、疲れたなぁ。俺もう寝たいわ」
「じゃあ帰れば良いじゃないか。別に強制じゃないんだし」
弟妹達を先頭に、シャナやユエ、ユタカ、ツルギの順で小高い丘を登っている最中、最後尾にいたシンクと僕だったのだが、弟がそう零した。
それについて返すと、シンクはあくびを噛み殺しながら、だってよぉ、と不満そうに言う。
「ユタカも行くっていうんだから、俺が行かないわけにはいかないじゃん? 何かあったら嫌だし」
「そんな、トリスタン領で何か起こるわけないだろ。カヅキおばさんの統治下だぞ、ここ。犯罪率だって極端に少ないのに。まぁ、ここがテレジア領だったら話は別だけれど」
フリーデリーケの領地を貰い、領地を拡大したテレジアだったが、人は多いもののそれに比例して犯罪率も高いそうだ。
スリや窃盗など当たり前で、酷い時だと殺傷事件が起こるらしい。
それに比べて、カヅキおばさんの統治下にあるトリスタン領は、犯罪者には手厳しい罰を与えるが、貧困層が出ないようにと職業斡旋所を作ったり、学園都市に行って勉強出来るようにと、学園に行く前準備として寺子屋というものを作ったりと、結構人の事を考えて統治している。
だからこそ、犯罪率が極端に少なく領民はカヅキおばさんに感謝して生活しているのだ。
父様がカヅキおばさんの意見を重用するのも、こういう姿勢があるからなのかもしれなかった。
「兄さん、ここー?」
一番前を歩いていたラゼッタが、僕に尋ねてくる。
四歳になった弟は、夜になって眠くなるどころかリオンちゃんの手を引き、とても楽しそうだ。
「そうだね。じゃあ、目的地に着いたところで星座の知識を持っている人ー?」
僕のその問いに手を挙げたのは、シンクとリーゼだけで、博学なアンナが挙手しないとはと、内心驚く。
「なら、簡単に説明するね? 母様達が言う所によると、母様達の故郷と僕らが住んでるこの星は星の配列や星雲の位置が酷似してるらしく、ここ最近はその知識を求めて、天文学者達がこぞって母様やカヅキおばさんにその話を…」
「おい、話が脱線してんぞグンジョウ」
シンクがストップをかけてきたので、僕はごめんと謝りつつ、空を指差した。
まぁ、薄暗くてみんな見えているかはわからなかったけど。
「まぁ、要するに星座や星の位置なんかは母様達の故郷と一緒ってわけ。上を見てもらうとわかると思うんだけど、結構光ってる星があるよね? あれは、夏の大三角形って呼ばれててそれぞれアルタイル、ベガ、デネブって名前が付けられてる。アルタイルはわし座、ベガは琴座、デネブは白鳥座の一部なんだ」
僕は魔法を使って、星の間に薄く光る線を描いていく。
弟妹達はへぇー、と感嘆の声を上げた。
「母様達の故郷では、織姫と彦星の伝説があってね。お互いを愛し合って、仕事をしなかった二人を怒った神様が引き裂いて、簡単に渡れないようにと天の川を間に引いたようなんだ。二人はもちろん泣き濡れて暮らしていたらしいんだけど、ちゃんと仕事をしていたら一年に一度会わせてあげると、神様に言われたんだ。それがイフリート1の月7日の事だね。その日は、二人が一年に一度会える日なんだって」
「ちゃんと仕事していたら、引き裂かれる事も無かったのでは?」
アンナが挙手しながら、僕に尋ねる。
「それはそうなんだけどね、アンナ。伝説って、大体妄想とか空想の類が人の口伝で発展していった物だから…」
妹の現実主義的発言に、僕は苦笑いを浮かべる他ない。
取り敢えず気を取り直して、僕は星座講座を続ける。
が、途中でシャナの方を見た。
「…ツルギ、シャナ連れて帰って。今日の事もあって、疲れてるんだろうね。寝てるんだけど、うちの姉君…」
すーすーと、規則正しい寝息が聞こえてきたから見てみれば、本当に寝てるんだけど。
そんなにつまらなかったか、僕の話は。
うん、勉強嫌いだもんねシャナは。
「…すみません…お言葉に甘えまして…そうします」
ツルギがシャナをお姫様抱っこして抱え上げる。
そのまま、来た道を戻って行った。
夏の星座講座から、冬の星座に切り替わろうという時に、シンクが一つ手を打つ。
「グンジョウ、もうそろそろ22時だ。流石にラゼッタ達も眠くなってきてるだろ」