「俺は、まだ…平気だもん…。それより、グンジョウ兄さんの話…面白くて…」
コクリコクリと船を漕ぎ始めているラゼッタに、僕は苦笑する。
「我が王、私はもう眠たいです。お屋敷に帰りましょう?」
「でもさぁ…リオ…」
ラゼッタを我が王と言って慕ってくれてるリオンちゃんだったが…ごめん、なんで我が王って呼んでるのか一回聞いてみたいんだけど。
僕、王の器じゃないとか思われてる?
いや、その通りなんだけど。
「グンジョウ殿下、別にそう思ってませんわ」
「心読むのやめてもらって良いかな…君達立花の家は、どうなってるの?」
若干の抗議を含めて言ってみたけれど、ふふふ、と笑ってはぐらかされてしまった。
もしかして、リオンちゃんも転生者?
妙に大人びてるんだよなぁ…。
眠くなってしまったラゼッタをシンクが、リオンちゃんをユタカが抱えて帰り道を歩く。
アンナと、一言も言葉を発せずうちの妹を見て、ニコニコ笑っていたスイカ君は手を繋いで歩いていた。
僕とユエは最後尾で、みんなから少し離れた位置にいる。
「ねぇ、アオ。織姫と彦星って、本当に一年に一回しか会えなかったのかな。どうにかして会おうとか、考えなかったのかな」
「天の川は激流で、渡ろうとした牛とか、橋桁とかを全て流していってしまったんだったかな。年に一回、神様がかけた橋の上でしか再会出来なかったって話だよ」
ユエは僕を見て、寂しそうに笑った。
自分と、僕に置き換えて想像しているようだと気付いた僕は、ユエの額を突つく。
「ちゃんと隣にいるだろ、ユエ。それに、織姫と彦星は仕事をしてなかったから、引き裂かれたんだ。僕らはちゃんと役目を務めてるんだから、そんな事になるわけない。あまり悲観的な想像するなよ」
「…アオ…ちょっと変わった? なんか、夕陽君に近いような…」
チラリとシンク達の方を見る。
暗いからか、少し僕らが遅れても気づかなさそうだった。
僕はユエの腕を引いて、近くの茂みに入る。
木に彼女を押し付け、その唇を奪った。
「んっ?!」
驚いたユエがそんな声を上げるが、キスを段々深いものにしていくと、甘ったるい声を上げ始める。
僕は唇を離し、ユエの耳元で囁いた。
「あまり煽るなよ、ユエ。夕陽の名前は出すなって言ったはずだ。別に、今制約を破ったって良いんだぞ」
低い声で言うと、びくりと肩を跳ね上げた彼女はか細い声で、ごめんなさい、と謝ってくる。
僕は彼女から体を離し、頬に手を添えた。
「僕だって、嫉妬する生き物なんだよユエ? いくら僕の前世とは言え、他の男の名前を出すなんて…」
「ごめんなさい! 謝るから、許して…っ!!」
少し怖がらせてしまったらしい。
涙目で僕を見上げる彼女に苦笑する。
「…わかった?」
「わかった、わかったから、お願い…離して…」
そう言われて、僕は素直に彼女から手を離した。
怖がらせてごめんね、と言いながら。
「落ち着いたら戻っておいで。流石に、今の僕とは一緒にいたくないでしょ、ユエ? じゃあ、また屋敷でね。おやすみ」
彼女に笑いかけた後、背を向けて歩く。
いやぁ…嫉妬でやるんじゃなかった…。
これ、婚約破棄されてもおかしくないなぁ…。
やばい、涙出そう…。
いや、自業自得だから泣くな僕。
しかも、我慢しようって言った矢先にこれやる僕って…阿呆の子なのかな。
シャナの事言えねぇじゃん。
眼鏡を外し、目頭を押さえて俯きながら歩いていると、背中に衝撃がきた。
ちょっと受け身を取り損なって、僕は転ぶ。
「いっ…て…何?」
カラカラと音を立てて、眼鏡が何処かに行く。
後ろを見ると、僕に馬乗りになっている黒髪が目に映った。
今の時点で、こんな事をするのは一人しか考えられない。
「ユエ…? どうしたの?」
「ごめん、アオ…動揺しただけで、アオの事怖いとか思ってないの。むしろその…低い声で囁かれて、ドキッとしたというか…格好いいって思ったというか…惚れ直したというか…」
怖がってなかったのなら良いのだが、ちょっと退いてもらえないだろうか。
肘擦りむいてるし、眼鏡どっか行ったし。
「ユエ、あの…」
「…あれで攻められたら、私…って、何?」
ユエがキョトンとして、首を傾げる。
「何じゃなくて、退いてくれない? あと眼鏡どっか行った。探索魔法使って探してもらって良い? 僕、今なら平気で崖から落ちれるよ?」
僕の言葉に、ユエは慌てて僕の上から退いた。
まぁ、気配を探る訓練も受け始めてるから、眼鏡がなくても屋敷までだったら帰れるだろうが、それでも自信がない。
ユエが退いてくれたので立ち上がれた僕は、擦りむいてしまった肘に回復魔法をかける。
この程度なら僕だって使えるのだ。
「アオ、ごめん! 眼鏡あった!」
茂みに飛んでいっていたようで、ユエはすぐ戻ってきた。
立ち上がった僕の手に、眼鏡を握らせてくる。
それをかけ、僕は彼女を抱きしめた。
「アオ?」
「本当に怖がってない? さっきの僕、ヤバい奴だと思うんだけど」
クスっと笑って、ユエは僕の背に手を添えてくる。
「むしろ、襲って欲しかったくらいかな」