「よし、お前らちょっと物理的に距離置け。流石に俺も頭痛くなってきた。グンジョウ、お前学園都市内のホテル泊まっとけ。今夏季休暇中だから、問題ないだろ。あ、ユエには漏らすなよ。またこうなるぞ」
「シンク、なんの権限があってそんな…っ!」
シンクが本当に頭が痛そうに、僕にそう提案してきたので頷いた。
アオ、と悲痛な声で僕の名前を彼女が呼ぶが僕は背を向ける。
「頭冷やしてくる。パーティーにはちゃんと出席するから。シンク、悪いな」
「ユエの説得は任せとけ。ゆっくりして来い、兄ちゃん」
拳を合わせると、僕は弟の魔力で転移したのだった。
◆◆◆
ユエやみんなから離れて、一週間。
訓練で顔は合わせていたが、ユエと一切話す事なく過ごしていた。
この間の訓練でシンクが時限式のカートリッジ爆弾を運用して、母様達の目を撹乱させた後爆弾責めにして、高笑いして油断したところをボコボコにされるという事態が起こった。
土煙が凄過ぎたのと、音のせいで気配が探れなくて僕も一発KOになり、敢え無く全滅した。
「…はぁ…」
明日は、パーティーだ。
とても憂鬱である。
本当に、一切ユエと喋っていない。
訓練で会っても話しかけてこないし、僕も話しかけなかった。
あれはユエが悪いと自分に言い聞かせていたし。
ピロン、と音がして携帯を見る。
シンクからで、今からそっち行っても良いかとメッセージが来たので、ラウンジで会う事にした。
「よ、待たせたな」
シンクからのメッセージが来て約十分後、片手を上げて弟はラウンジに現れる。
コーヒーを飲んでいた僕は、首を横に振った。
「どーよ、ホテル生活」
「快適だけど、本が読みたくなるね。って、そんな世間話しに来たわけじゃないんだろシンク。明日には帰るけど…ユエの方どう?」
それについて、と弟は鞄から一枚の紙を出した。
読んでみるとユエからの誓約書らしく、今後僕に対してこういう事は言わない、僕からの気持ちは疑わない、もし僕が心変わりをするようなら素直に受け入れる等書いてあり、僕はため息をつく。
「なんであいつは、こんなのばっか…」
「これがユエの精一杯なんだってよ。これ魔法契約系でよ。絶対遵守なんだわ。破ったらどうなるかは、まぁお察しって事で。お前がサインしたら効果が発動するんだけど。どうする?」
僕はラウンジのテーブルに置いてあったペンを取り、一文を書き足す。
これで効力がなくなるならそれはそれで良いし、この一文がこの魔法契約に追加出来るなら別にそれでも良かった。
「婚姻したら破棄? まぁ、お前の好きにすれば良いけど」
サインしたその紙を持って、シンクは立ち上がる。
「シンク」
帰ろうとした弟が振り向いた。
「ユエに伝えて。それで君の心の安寧が図れるなら良いけど、僕は心変わりするつもりは全くないからね、って」
僕は、シンクにユエへの言伝を頼む。
その言葉を聞いて、弟は苦笑した。
「ちゃんと伝えとくよ、兄ちゃん」
そう言って帰って行った弟を見送った次の日、城に帰ってきた僕は、パーティーの時間に合わせて身支度を整えてもらい、ユエの部屋まで彼女を迎えにいく。
コンコンと扉をノックすると、ユエ付きのメイドが扉を開けてくれた。
部屋の中に入ると、正装であるドレスを身に纏ったユエがこちらを見て微笑している。
ドレスの色は青。
僕の色である。
「ユエ、あの…」
「ごめんなさい、アオ。不愉快にさせて。うん、よくよく考えたら私も、あんなに疑われたら嫌だなって思ったの。本当にごめんなさい」
ユエに話しかけると、深々と頭を下げて謝られた。
謝ってくれたら別に良いのだけど、と思った僕は、メイド達を下がらせる。
「アオ?」
「ユエ、あのね。確かに僕の気持ちを疑われて悲しかったよ。君以外を愛するつもりはないって、再三言ってきたのにって。でもね、君と離れている間思ったんだ。君が不安がる事を、僕はしていたんじゃないかって。でなければ、勝気な君があんなに僕に対して浮気だなんだって言うはずないって」
彼女の頬を両手で包み、僕の方を強制的に見つめさせる。
僕は微笑み、彼女の額に自分のをくっつけた。
「ねぇ、ユエ。僕の
「ア…オ…」
驚いて目を丸くしたユエは、次いで大粒の涙をこぼし始めた。
ごめんなさいと、何回も謝りながら。
「ユエ、化粧してるのに…ごめんね、泣かせて」
「違…アオ悪く、ない…私が、アオが離れていくんじゃないかって、不安なの…だってアオ、凄い格好良いんだもん…!!」
君も充分可愛いとは思うんだけどな。
ポケットからハンカチを取り出し、なるべく化粧を落とさないよう涙を拭いていく。
「遺跡でも言っただろ、君に溺れている愚者だって。他の女なんて有象無象の類でしかない。僕の中で唯一の女性なんだ、君は。愛する女性も、君だけ。ね、だから泣かないでユエ。喧嘩しても、君が好きなんだから」