シャナ達もそれに勘付いたのか、僕と同じく歩みが止まった。
「おい、ナズナ。別にグンジョウが悪いわけじゃないだろ。グンジョウはナツキに相談しただけだ。実の息子だからって、そこまで殺気を放つんじゃない。可哀想だろ」
先程の様子と違って、カヅキおばさんは冷静に父様に苦言を呈している。
しかし父様は怒り心頭のようで、腕を組み僕を見ていた。
その眼光の鋭い事といったら…それで人を射殺せるのではと思うくらいで、僕も気絶したくなる。
しないし、出来ないけど。
「…シャルが倒れたんだ。この怒りは誰にぶつければ良い」
はい、僕ですね。
むしろ、僕の人生ここまでかもしれない…。
内心合掌していると、シャナが僕の服を掴み恐る恐るといった風に、僕の後ろから父様を見る。
「あ、あの…」
「てめぇの娘も怯えてんじゃねぇか。いい加減にしろ、馬鹿!」
父様の後ろに控えていたカヅキおばさんが、父様の頭を殴った。
その瞬間、殺気が消え失せる。
背後の気配が下に下がったのに気付き、僕はシャナが引っ付いているのとは逆方向に、後ろを見た。
ユエとユタカが、座り込みながら肩で息をしている。
父様の殺気に当てられてしまったようだった。
「ユエ、ユタカ、大丈夫?」
「ごめん、グンちゃん…腰抜けた…」
「同じく…」
二人の様子を見たカヅキおばさんが、更に父様の頭を殴る。
普通なら不敬罪になる所だが、カヅキおばさんに至ってはそれは不問にされていた。
だってやる事成す事、全てカヅキおばさんが正しいから。
「………」
無言になってしまった父様に、僕は頭を下げる。
「母様が倒れたのは僕のせいです。本当にすみませんでした」
「そ、それなら原因作ったのあたしじゃん! ごめん、父様!!」
シャナも僕同様に頭を下げた。
そんな僕達を見て、父様はため息を吐く。
「こっちこそすまん…シャルが倒れた事で気が立っていた」
「精神的ショックが強すぎたんだ、暫くすれば起きる。で、グンジョウ、シャナ。そこの扉閉めろ…娘達が邪魔だな。ルル、レイラ、すまんが外に引っ張り出してくれ。私が良いと言うまで、誰も部屋に入れるな。ナツキもだぞ」
ルルとレイラが、苦笑しながらユエとユタカを引っ張って行った。
それを見届け、僕らは扉を閉める。
扉を閉めた直後、カヅキおばさんは片手を上げた。
魔法陣が展開され、何かの術式が発動される。
一体何が発動したのか、僕にはさっぱりだったが。
「さて。今朝の話をもう一度聞かせろ、シャナ」
カヅキおばさんの促しに、シャナは僕を見る。
僕は頷き、シャナの手を握った。
見た夢の内容を話すと、カヅキおばさんはシャナの前に来る。
そして僕を見て、
「グンジョウ、お前は頭が良い。今からラーニングさせる言語を覚えろ。それから、シャナの見た夢をお前に見せる。シャナがわからないと言った言語を、お前に解読してもらう」
なんて無茶苦茶な、とは思うが、それが出来てしまうのが転生者という者だ。
「拒否権はない、ですよね」
「なんだ、姉の為に体を張りたくないというのか?」
意地悪な聞き方をしてくるおばさんに、僕は肩を竦める。
分かっているくせに、そう言うのだこの人は。
「シャナは僕の姉です。いくらでも体を張りましょう?」
「よく言った、ではラーニングさせるぞ。壊れてくれるなよ?」
なんて怖い事を言うんだ、カヅキおばさん。
壊れたらどうしてくれると言うんだ。
いや、直せそうだなこの人なら。
カヅキおばさんが僕の額に触れる。
途端、リューネとは違う言語が頭に流れ込んで来た。
何だ、この言語…頭割れそう…。
意識が飛びそうになるが、シャナと手を繋いでいる感覚が、僕を引き留める。
「《さて、どうだ? 群青》」
おばさんが僕に覚えさせた言語、おばさんや母様の故郷の言語である日本語。
ちゃんと聞き取れる…。
「《ちゃんと発音出来てますか、
「《出来てるな。流石は
シャナと父様は首を傾げている。
これが日本語か…。
文字は…覚えないでおこう…なんか面倒くさい気配を感じるし。
「さて、じゃあシャナ。お前の記憶を読み取って、グンジョウに渡す。良いな?」
「う、うん…」
シャナの額にも触れ、カヅキおばさんの足元に魔法陣が展開される。
そこで僕の意識は途切れた。
◆◆◆
次に目を開けると、そこはどこかの部屋の中だった。
僕の目の前には何かがあり、目が暗闇に慣れるまでに時間がかかる。
カーテンは開け放たれている。
そのはずなのに、部屋は常闇に包まれていた。
「………っ!」
誰かが息を呑む声が聞こえる。
雲がかかっていて暗かったのか、雲の隙間から月明かりが入り込み、僕の目の前には天蓋付きのベッドが見え、その上に人影が見えた。
「みや、づか…?」
か細い、女の子の声が聞こえる。
宮塚、という名前には聞き覚えがあった。
カヅキおばさんが電話口で母様に言っていた名前だ。
それがどうしてここで出てくるのか?