「では、我々はこれにて。ツェリ、この席で余計な事言うな…っ!!」
最後の方は小声で注意するエミル君だったが、ユエが握りしめた手を振るわせている。
どうやら、エミル君の声が聞こえていたらしい。
ツェリ、諦めてないのか。
この場でないと、父様や母様に接触出来ないからだろうけど。
余計な事を。
ユエが不安がるだろうが。
僕はユエの手に、自分の手を添える。
ハッとなったユエが、僕の方を見て微笑んだ。
〈大丈夫…大丈夫だよ、アオ。ちょっと、動揺しただけ〉
〈僕の伴侶は君だけだから。君以外は愛せないと言っても過言じゃない。ツェリの言葉なんて無視しろ。僕だけを信じろ、ユエ〉
コクリ、とユエは頷く。
その様子を見ていた母様が、カヅキおばさんを手招きで呼んだ。
扇子に隠れてこそこそ話をしていたが、カヅキおばさんが僕の前に跪く。
「殿下、大変申し訳ございません。我が娘の様子が少しおかしいもので…出来れば、退出させて頂きたく」
「ならば、私も彼女に付き添いましょう。私の婚約者です。体調に気付けず申し訳なかったね、ユエ嬢。少し我慢しておくれ」
そう言い、僕はユエを姫抱っこする。
「で、殿下、
「無理しちゃダメだ。陛下、王妃殿下。我々はこれで退出致します」
深々と、彼女を抱き抱えながら頭を下げた。
クスクスと、母様が笑い出す。
「グンジョウ、ユエちゃんが落ちそうよ。早くお部屋に連れて行ってあげなさい? ユエちゃん、お大事にね」
「あ…大変申し訳ございません、陛下、王妃殿下…。お姉様、後はお願いします…」
父様と母様に謝り、ユエはユタカを見て後を頼んだ。
「ゆっくりお休みなさい、ユエ。グンジョウ殿下、妹をお願いします」
「えぇ、では」
僕はユエを抱き直し、入り口まで歩いて行く。
廊下に出て、暫く歩いていると後ろから駆けてくる足音が聞こえ、立ち止まった。
ユエも僕の肩越しにその人を見たようで、その身を硬くする。
「っ、グンジョウ君!!」
「……ハインリヒ嬢、何の用だ。それにここを何処だと思っている。気安いぞ、控えろ」
僕はツェリを威圧するが、彼女はものともせず僕を見つめながら話始めた。
「後でもう一度、陛下と王妃様に打診してみようと思うの。私、側妃でも良いからグンジョウ君のお嫁さんに」
両手を組み、神に祈るような姿勢で僕に話しかけてくるツェリに対して、僕は冷たい目を向ける。
「良い加減にしろ、ハインリヒ嬢。不敬だぞ。私を誰だと思っている。リューネ国第一王位継承者、グンジョウ・デルフィニウム・ブリリアントだ。貴様程度の一貴族風情が、馴れ馴れしく声をかけて良い存在ではないと知れ。貴様と学友なのは、あの学園内だけの話だ。それに、側妃だと? 私は、ユエ嬢以外と婚姻を結ぶつもりなどない。そのような妄想、恥を知ると良い。ハインリヒ子息、貴様の家の教育はどうなっている。王族にも不敬を働くよう、育てられているというのか?」
ツェリの姿がなく、もしかしてと後を追ってきたエミル君だったが、少し遅かったようだ。
彼女の発言を止めてくれていたら、僕もここまで言わなくて済んだんだけど。
僕の様子に、エミル君は臣下の礼をとった。
「いいえ、とんでもございませんグンジョウ殿下。我が妹の愚行、大変申し訳なく思います。家に帰り、父と共に再教育を施しますので、どうか寛大なご慈悲を賜りたく…!」
「殿下、
腕に抱いたユエからもそう言われ、僕は少し嘆息する。
ユエはむしろ、ツェリを罰するべきだとか言えば良いのに。
去年辺りの自分を重ねたな、これ。
「ユエ嬢に免じて、今宵は不問とする。命拾いしたな、ハインリヒ嬢。ユエ嬢、行こうか。早く休まないとね、私の可愛い婚約者殿」
「で、殿下?! 恥ずかしいのですが…!!」
顔を赤らめ、僕を見上げるユエが可愛くてその頭に頬擦りする。
口説いて狼狽えるユエは可愛い。
僕らは二人を残し、その場を去った。
◆◆◆
ユエの着替えが終わったとの事で、僕は入室を許可され、彼女の部屋に入る。
立花の家の彼女の部屋より調度品とかも豪華にはなっているのだが、ユエの部屋だなぁ、と感想を抱く。
実家から持ってきたであろうぬいぐるみとか、色々置いてあったから。
「アオ、それ苦しくない?」
「ん? あぁ、この王太子用の服? 成長するたびに作り直ししてるから、別にキツくはないし、首周りも苦しくはないかな」
首周りのホックを外し、プチプチと上着のボタンを外していく。
キツくはないが、装飾品が多くて結構重いんだよな、これ。
上着を脱いで、そこら辺のソファーに投げた後伸びをした。
「お疲れ様、アオ。軽食貰ったんだけど、アオも食べる?」
「あー…食べる。ユエもお疲れ様。ツェリの時はよく我慢したよ。怒鳴り出すかと思ったのに」
私だって成長してるんだよ、とユエは言い、そんな彼女の頭を撫でる。