イフリート3の月。
残暑が厳しい中、新学期が始まった。
父様の公務でカヅキおばさんが着いていき、残すのが心配だからと母様も連れて行ったので、今回の訓練は分身体のおばさん一人だと、僕らは思い込んでいた。
「…なんで、リーゼ達がいるんですかね…」
ぐっぐっ、と準備運動をしているリーゼやアンナ、スイカ君を見つつ、僕はカヅキおばさんに尋ねる。
「そんなの訓練だからに決まっているだろう」
「いや、そうなんですけど…」
今夜中なんだよなぁ…いくら明日が休みだからって、起こしてて良いのか?
成長に害にならない?
僕らはもう成長しきってるから良いとしても…。
うーん、となっている僕の服を、誰かが下から引っ張ってきた。
下に目を向けると、アンナが僕を見上げている。
「どうかした、アンナ?」
「グンジョウお兄様。絶対負けませんから」
アンナの負けず嫌い、誰からの遺伝だろうか。
母様かな?
いやぁ、闘争心が素晴らしいね。
僕には無理。
なんで小さい子って、こんなに元気一杯なんだろうか。
分けて欲しい。
「アオ、考えがじじくさい…」
「考え読まないでもらって良いかな、ユエ…」
僕の傍に寄ってきていたユエが、僕の思考を読んだようでそう呟き、やめて欲しいと彼女に伝える。
ぱんぱん、とおばさんが手を鳴らし、訓練開始を告げてきた。
先頭をツルギとユタカ、次に僕、ユエ、最後尾にシンクとシャナという、いつものフォーメーションになる。
「では、敵が幼い子供を使って襲撃してきた想定で戦闘訓練を行う。リーゼ、アンナ、スイカ。遠慮はいらん。胸を借りるつもりで、本気で行け」
「「「はい」」」
リーゼはおもむろにカーテシーをしたかと思うと、スカートの中から何本もの剣を出現させた。
スイカ君も片腕を挙げると、大量の収納空間からこれまた大量の人形が出現し、それをアンナが素早く自分の糸で操って、リーゼが出した剣を掴んでいく。
「妹達のスキル見た事無かったんだけど、アンナ…パペッターだったのか」
「リーゼちゃんは何だろ、収納系?」
スイカ君のスキルはあの収納空間だろう。
アンナの人形を、大量に保管出来ているのだから。
人形にほぼ持っていかれたが、リーゼは一対の剣を出し、両手に持つ。
それを見た僕は、ニヤ、と笑った。
「アオ?」
「いや、リーゼも僕と一緒かって思ったら面白くて。今まで両手剣なんて、桃華くらいしかいなかったじゃないか」
桃華の名前を出した事に、ユエの眉が少しだけ吊り上がる。
うん、気に食わないのは重々承知してはいるが、ごめん。
本当に面白かったんだよ。
実の妹が、自分と同じで。
「アンナちゃん、行きますよ?」
「はい、リーゼお姉様。スイカ!!」
「任せて、アンナちゃん!」
スイカ君は更に大量の人形を呼び出し、アンナが僕らに襲わせる。
それと同時にリーゼが飛び上がり、僕に狙いを定めて上から斬りかかってきた。
それをブランシュとノワールを交差させて防ぐ。
「流石グンジョウお兄様ですね」
「リーゼ、君飛び上がるなんて少しはしたないんじゃないかい? スカートの中が見えそうだった、よ!!」
膂力で、リーゼを弾き飛ばした。
妹はクルクルと空中で回転して地面に着地する。
「ご心配なさらなくても、ちゃんと履いてますよ?」
スカートの裾をつまんで、持ち上げようとする妹を、僕は制止した。
「リーゼ、スカート上げて見せようとしないの。それこそ、はしたないって母様に叱られるよ、それ」
ちょっと兄として、本当に心配になるんだけど。
そんな会話をしていると、シンクの方から怒鳴り声が聞こえる。
「グンジョウ!! 何のんびりリーゼと喋ってるんだ!! 集中しやがれ!!」
そちらに目を向けると、カヅキおばさんがシンクとシャナへ攻撃を仕掛けていた。
二人も応戦してはいるが、分が悪そうだ。
ツルギとユタカ、ユエは襲いかかってくる大量の人形へ、魔法を使って戦闘を行っている。
「グンジョウお兄様、油断してるといくらお兄様でも私に負けると」
「誰が油断していると言った、リーゼ」
僕は脚力強化をし、妹の懐に入り込むとその腹部を思い切り殴り上げた。
腹を抱えて蹲るリーゼの頭を踏み付け、僕はシンクに尋ねる。
「シンク、あとどれくらい保ちそうだ?」
「結構ギリギリだっての!! やるなら早くやれ、グンジョウ!!」
リーゼが倒れた事により、僕に人形達が襲いかかってきた。
母様曰く。
母様が生前住んでいた国から、遠い場所にあるイギリスという国に、ある伝承があるという。
僕のスキルは、その伝承の中の一節。
湖の騎士が、敵の策にハマり丸腰で戦わねばならず、足元にあった樫の木の枝で応戦し、勝利した。
そんな逸話のスキル。
どんな武器でも、自分の物に出来るというとんでもスキルだ。
このスキルが発現した時、同じスキルを持っていた冬夏さんに、母様は僕を預けた。
自分の手に負えないからと。
だからこそ、冬夏さんにこの力の使い方を教えてもらい、とんでもないからこそ今の今まで使わずにいたのだ。