ここに母様がいないからこそ、出来る所業である。
「じゃあ、明日にでも」
「あぁ、行ってこい。アンナ、もう泣くな。リーゼ、寝落ちするんじゃない。まったく…本当、お前達はナツキの子だな。アイツそっくりじゃねぇか」
仕方ないな、とおばさんは笑いながら、妹達を介抱していく。
明日休みなら寮に戻る必要ないな、と思った僕達は、各自の自室に帰った。
◆◆◆
「ユタカはこっち! なんでシンクと一緒に寝ようとしてるの! 自分の部屋が城にないからって、なんで同衾が許されると思ってるわけ?! それなら私だってアオと一緒に寝るわよ!!」
「ユエ、落ち着いて。今夜中だから。そんな大声出さない」
就寝するという話になり、自室に帰ろうとするシンクにユタカは付いていこうとし、ユエに腕を掴まれ怒鳴られていた。
「えー。婚約者だから良くない?」
「良くないから言ってるんでしょ?! アオからもなんか言ってよ!」
と言われても。
ユエは王太子である僕の婚約者だから、そういう制限が付けられているのは理解出来るのだが、ユタカには多分制限がないのだろうなと察する。
それに、一緒に寝たからとシンクはユタカに手は出さないだろう。
我慢が限界値を迎えている僕とは違って。
「うーん…そこは、二人の問題じゃないかな。シンクがダメって言うなら、ユタカは諦めるだろうし。な、シンク」
「俺は別に構わないけど? ユエ、堪え性のない彼氏だと苦労するな」
ポンポン、とユエの頭を軽く叩き、シンクはユタカの肩を抱いて自室に向かった。
シャナやツルギはもう部屋に帰っているので、この場にはユエと僕の二人きり。
ジト目で見られているのは分かったので、僕は目を逸らした。
「…なんかごめん、ユエ」
「はぁ…良いよ、もう。三年生の冬辺りに子供が出来ても問題はないとは思うけど、今は流石にねって私も思うもん」
とんでもない爆弾発言を聞いた僕は、思わずユエを見る。
「あの、ユエさん?」
「婚前交渉がーとか、古臭い事言わないでよねアオ。いや、流石に古きを重んじるのは分かるんだけどさ。時期を鑑みれば、パパやママだって許してくれると」
そう言う彼女の口を塞ぐ。
何をするという目を向けられたので、僕はユエの耳元で囁くように、低い声で言った。
「あまり煽ってくれるなよ、ユエ。それで構わないなら、もう僕は君を部屋に連れ込んで、グズグズに甘やかしてるんだぞ」
口から手を離し彼女を見ると、暗くてもユエの顔が真っ赤に染まっているのがわかり、僕は苦笑する。
ユエを抱きしめ、彼女の頬に手を添えながら、
「君を大切にしたいんだよ、僕のお姫様。ねぇ、ユエ。君を女にするのは簡単だけど、お姫様でいられる時間って短いと思わない? まだ、そのままでいてほしいって…そう思うのは僕の我儘?」
尋ねると、ユエはフルフルと首を横に振った。
「ごめ…アオ…あの、離して…」
「やだ。まったく…一緒に我慢するって言ったの何処の誰なんだよ、ユエ。すーぐ人の事煽るんだから、君は」
強く抱きしめ、頭へ頬擦りする。
ユエは困った顔をして、僕の服を握った。
「…だって、アオの事好きなんだもん。アオが私の事、愛してくれてるって分かってるけど…私貪欲みたい。もっと、って思っちゃって。もっと、アオに愛されたい。もっと、アオに触れられたいって」
「だから煽らないでってば…ユエ、もう寝ようか。このままだと、タガが外れて君襲いそう…」
別に良いというユエの額を軽く叩いて、僕は彼女を部屋まで送り、自室に帰った。
そして翌朝。
城の転位門の前に、パーティのみんなが集まった…のだが。
「…シャナは?」
姉の姿が見えず、僕はシャナの恋人であるツルギに尋ねる。
彼はフルフルと首を横に振った。
「なんで連れて来てないの、ツルギ」
「昨日遅かったから、シャナちゃん寝坊してるのかも。なんで連れて来ないかな、ツルギ」
ユエとユタカが呆れた目をツルギに向けている。
最初にこの場に来たのは僕だが、続々パーティメンバーが集まる中、シャナだけがいない。
時刻は午前10時。
流石にこの時間まで寝てるとか…いや、あり得る。
休みの日は寝て過ごしている事が多い姉だ。
昨日、何時集合って話してなかったから、起きずにそのまま寝てる可能性は十二分にあり、僕はため息をついた。
「…ちょっと起こしに行ってくる」
「あ、なら俺も。ユタカ、起動しててくれね? すぐ戻るわ」
はーい、と手を振るユタカに背を向け、僕とシンクはシャナの部屋に向かうのだが、一人でも良いのになんで着いてきたこいつ?
「そんな疑問に思うなよ。弟として、姉を起こそうってだけだよ」
「別に普通に起こすだけだぞ? …まぁ、寝起きがいい事を祈るけど」
シャナの部屋の前に着き、ドアをノックする。
返事は全くない。
「…完璧寝てるわ、これ…」
僕らの部屋の前は親衛隊の周回コースに入っているので、鍵はかかっておらずかける必要性もない。