「…ユエ、君が世界最強の立花夏月の娘であるように、僕だってカヅキおばさんの次に強い、母様の息子なんだ。訓練で鍛えられて、前よりは強くなった。少しは…信じてくれないかな?」
彼女の手を強く握ると、ユエは少し唇を噛み締めた後、ため息をついた。
「アオ…私がもう何を言っても、無駄なんだよね? どれだけ説得しても…もう、決めたんだもんね?」
「ごめんね、ユエ」
更にユエは深いため息をつき、魔力を少し譲渡するのではなく、リンクを繋いでくれた。
彼女の魔力が、僕へ一気に注がれる。
「…ユエ…」
「…良い、アオ? 心臓に当たったら、誰も蘇生できないんだからね。頭でもダメなの……アオ、私を一人にしないで…っ!!」
ユエが背を向けているからその表情は分からなかったけど、泣いているのだけはわかった。
「ちゃんと生きて戻るよ。ていうか、今生の別れみたいな雰囲気出すのやめてくれない? 冗談でも笑えないから」
僕はブランシュとノワールを出し、立ち上がる。
彼女の気持ちは分かるが、ユエが言うと本当にそうなりそうで、僕は茶々を入れた。
「アオっ!! 私は本気で…っ!!」
「分かってる。でも、成功するって信じててよユエ。君の夫になる男は、困難にも立ち向かって打開する男なんだ…ってね!!」
全身強化を施し、僕は銃弾の雨の中飛び出していく。
トップスピードで銃弾を避けたり、斬ったりして桃華に近付き、その手首を切り落とした。
ゴトリ、と魔銃ごと手首が地面に転がる。
「ヒャは!! お、ニイちゃっ、ん!!」
「もう黙れ桃華」
首を斬り落としてやるが、桃華はまだ生きているようでケタケタと笑っていた。
その姿がゲル状になり、辺り一面に広がっていく。
「お前ら全員飛べ!! グンジョウ!!」
危険だと判断したのか、シンクが皆に浮遊魔法を使うよう告げた。
僕へは崖を指差し、そこから飛び降りるよう指示してくる。
まだ全身強化の効果は続いているから、僕は崖まで走り、シンクの指示通り飛び降りた。
ちょうど魔棍の位置だったらしく、僕はそこにノワールを投げ、魔棍を破壊する。
「アオっ!!」
冷えて固まったマグマとはいえ深部までは固まっていないであろう事が予想出来ていたので、ユエの魔力を使って浮遊しようとした所彼女に抱き抱えられて、落下が止まった。
「…ありがとう、ユエ。ごめん、上まで飛んでくれる?」
僕の言葉に彼女は頷き、皆がいる位置まで飛翔する。
眼下に広がる光景に、僕は言葉を失った。
桃華だった物が広がり、僕らがいた場所を飲み込んで溶かしていたのだ。
もしあそこに残っていたら僕は桃華に飲み込まれ、死んでいただろう。
「しばらく観察してみるか、グンジョウ?」
シンクが僕を見つつ、どうするか尋ねてくる。
だが僕は、首を横に振った。
「…蒸発させよう。あのまま放っておけば、ここら一帯飲み込み始めるだろう。その前に、片を付ける」
「はいよ、兄君」
シンクが片手を桃華だったものに向ける。
そして、詠唱を始めた。
「蹂躙せよ、浄化の炎。悪しき者をその焔の腕で焼き尽くせ。
シンクが展開した魔法陣から、白い炎が桃華だったもの目掛けて落ちていく。
それへ当たった瞬間、音もなく一瞬で焼き尽くされ、眼下はここに入ってきた時同様の景色に戻った。
「………」
僕は、少しだけ思考する。
あの傷…もしかして、魔王に何かされた?
もしくは遺物の影響か?
何にせよ、酷い状態だった。
今の桃華が本体ではないとは思うが、本体の彼女はどうなっているのか。
学校に行ったら、様子を見てみるべきだろうか。
僕を抱き抱えていたユエが、その手を離した。
いきなりの事で驚いた僕だったが、ユタカが慌てて僕を抱き止めてくれる。
シンクが呆れた目で、僕ではなくユエを見ていた。
「お前さぁ…」
「だってアオの思考、桃華の事ばっかなんだもん!! わた、私、すっごい心配したのに…っ!! うわぁぁぁんっ!! アオの馬鹿ぁあっ!!」
ユエが空中で泣き始めてしまう。
僕はユタカに抱き抱えられながら、彼女を見上げていた。
それはごめん。
でも思考読むなって言ってんだろ。
まったく…。
少し嘆息すると、ユタカが申し訳なさそうな顔をする。
「ユタカごめん、落として良いよ」
別に彼女がそんな顔をする必要性はないと感じた僕は、手を離しても良いとユタカに言った。
「いや、グンちゃん…ユエがごめん。私もチラッとグンちゃんの思考読んだけど、遺物の影響とか考えてたでしょ? シャナちゃんも魔王の遺物持ってるから、もしかしたら桃華みたいな事になるんじゃないかって、思ったんじゃない?」
「それもあるけど…流石に影響が出過ぎてる気がするんだ。最後に桃華に会ったのは別荘の時だったけど、人格が崩壊しかけていただけで、あそこまで体の損傷はなかった。それに、さっきの形状も気になる。あれを町中で使われたら…流石に、僕らの手には負えない事態になる」
それこそ、フリーデリーケの二の舞だろう。