あったらあったで困るんだよ!!
何が悲しくて姉とキスしなきゃいけないんだよ!!
人命救助ならまだしも!!
そう叫びたかったが、僕は拳を握って耐える。
「じゃあ、その貴族令嬢にはあるっていうの? 尚更ドミノにさせたくないんだけど」
「ドミノちゃん、グンちゃん信奉者だもんね。ねぇ、ルトルちゃん。ユエの役なんだったの?」
ユタカが何とは無しに聞いてみた。
それは僕も気になっていたので、口を出さずルトルの返答を待つ。
『愛人役その2だよ、ユタカ君。グンジョウ君には、色んな女性を侍らす悪役というものを演じてほしくてだね』
「だからそれ、イメージ悪くなるだろ。しかも映像とか一生残るやつじゃん。却下。僕らは裏方にしろ、ルトル」
えー、とか不満げに言う彼女とほぼ同時に、テーブルへ朝食が並べられていく。
今から朝ご飯だからとルトルに言い、通話を切った。
「じゃあ、逆なら良いんじゃね? 俺が裏切る役、グンジョウがボス役。別にイメージがどうとかって関係なくね? だってフィクションだぜ、これ?」
「その場合、ユタカに撃ち殺されて、傍らにはシャナ侍らせてるんだけど良いのかよ」
演技だし、とシンクは言ってのけるが、何でこいつ平然とそう言えるんだろうか。
ユタカも普通に朝食食べてるし…これが精神年齢の違いってやつ?
「あ、あたし、セリフとかあるのかな…」
「それはルトルに聞いて…っていうか、みんな出る事に乗り気なのなんで?」
僕以外普通にしている皆に、僕は問う。
だって、とユエが口を開いた。
「たかだか映画でしょ? さっきシンクも言ったけど、フィクションだもん。アオのイメージが悪くならない方向になるなら、私は出る事に賛成。大体、去年の喫茶店怠かったんだよね。一日出てたって事もあるけど、変な客は湧くわ、それを男子が撃退していたけどえげつないわで…正直、飲食店なんてもうしたくない」
彼女は卵焼きを一切れ食べ、これ美味しいとシャナに言う。
姉が結構嬉しそうに笑っている様子を見ながら、僕は次にユタカヘ問いかけた。
「ユタカも出る事に賛成なの?」
「んー…ごめんね、グンちゃん。私もシンクの意見と一緒かな。これで私達と混同する人がいるなら、そっちの方がおかしいというか…。ツルギもそう思わない?」
話を振られたツルギは、ちょうど水を飲もうとしていたようでキョトンとユタカを見る。
これ、話聞いてなかったか、まさか自分に振られると思ってなかったやつだな。
「…あー…俺、演技とか…得意じゃなくて…あまり台詞、ない方が助かります…」
「それあたしも! 昔幼等部でやったお遊戯会で、大根ってエミルから言われて…っ!」
拳を握りつつ肩を少し震わせているシャナを見て、ツルギが心配そうに姉を見ていた。
あの時のシャナ、ガチガチに緊張していたし。
台詞も棒読みだったから、エミル君にそう揶揄われたんだったな。
「…僕以外、出る事に賛成なわけだ…」
「イメージっていうんなら、俺がその悪役演じてやるから心配すんなってグンジョウ!」
はっはっは、と笑いながら、シンクが僕の肩を叩いてくる。
確かにユタカの言う通り、僕らとその役を混同する人がいたならそれはそれでおかしい事なんだろうけど。
「……わかった。ルトルにはそう返事しておくよ。僕とシンク、ユエとユタカの配役逆にするなら出るって」
ルトルにメッセージを送ると、すぐさま感謝の返事と台本は教室の机の上に置いておくと速攻で返って来た。
こうなる事を見越して返事を待っていたに違いなく、僕は朝なのに辛気臭いため息をつく羽目になってしまう。
「これ、ラブシーンとか無いよな…」
味噌汁を飲みながら、僕はポツリと呟いた。
それを聞いてたシンクが、苦笑いを浮かべる。
「学生が撮るやつだぞ? ちゃんと企画くらい先生方の目を通してやってるだろ。台本だってそうだ。だいたい、全年齢版しか撮れねぇだろ。そんな事しようもんなら、立花先生が止めに来るに決まってんだから。何、ユエとの絡みとか期待した系?」
味噌汁が気管に入り、僕は咽せた。
シンクが、大丈夫か、と心配してきたが、誰のせいだと思ってんだ馬鹿野郎!!
「…馬鹿、言わないで、くれない、シンク…?!」
咽せながら、僕は弟に文句を言う。
ユエも驚きながらこちらを見ているし。
見ないで欲しい、本当に。
「いや、んな事言うからよ」
「気になっただけだろ?! あと、そんなのあったらルトルに抗議しまくって潰すから!!」
想像しなかったわけではないが、ユエの肌をスクリーンに誰が映すものか。
そんなのベテランの女優にギャラ払って、最初から最後まで演じて貰った方がまだ得策だろうに。
「アオ、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫だからこっち見ないでユエ」
想像してしまったが故に、彼女の顔が見れず僕は顔を背けながら食事する。
朝食を終え、洗い物を僕らに任せて女性陣はテレビを見ながら他愛無い話をしていた。
僕は、これから教室に行ってみる台本が憂鬱すぎて、ため息をつくしかなかったのだった。