my way of life   作:桜舞

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174話『怒りの目しか向けねぇよ』

ウンディーネ1の月。

僕は憂鬱で、椅子に座って項垂れていた。

 

先月のあの電話の後から映画撮影を始めたのだが、衣装合わせだなんだと訓練と学業と並行してやっているものだから、ユエとの時間が全く取れない。

ユエもユエで妃教育がやっと終盤に入り、お祖母様から合格点を貰えるようになって来たと、昼休憩の時に話していた。

 

そう、昼休憩の時にしかユエと話す事が出来ていない現実に、僕は今打ちひしがれているのだ。

今この場にユエがいないのも、更に拍車をかけている。

 

「おーい、グンジョウ。次お前のやつ撮るってよ」

 

ラスト辺りから撮り、それを編集でくっつけたりして映画にしていくとかルトルが言ってはいたが、血まみれの衣装で口からも血糊を垂らしながら、シンクが呼びに来た。

 

「おま…流石に口はゆすいで来いよ…」

「別に不味くねぇし。大体、これお前もやるんだからな?」

 

それは分かっているけど。

それに、僕の出番は少しのシーンとシンクに殺される場面しかない。

台詞もあまり多くなく、それについては大変助かった。

逆にシンクの方は出番が多く、ユタカと共に出突っ張りである。

 

そして、今日のシーンは僕が殺される所の撮影だ。

なんとも憂鬱である。

 

「グンちゃん、頑張れー」

 

ヒラヒラとユタカがアンティーク人形みたいな衣装を着て、カメラ外で僕に手を振っている。

なんともユタカに似合ってはいるが、僕の憂鬱は晴れる事はなかった。

 

「ユエに会いたい…」

「ユエ君は今、腹痛で休養中だろ? 毎月の事とはいえ、女子は大変だと思わないかいグンジョウ君」

 

演技指導に来たルトルが、僕の呟きに返してくるが…君も女の子だった筈では?

 

シャナからそういう知識は与えられていたし、実際腹痛で機嫌が悪くなって、当たり散らされた事も何回かある。

ユエは波がある方らしく、痛い時と痛くない時があるのだそうだ。

 

女の子って、本当に大変なんだな。

気遣うくらいしか、僕には出来ないんだけど。

 

「ではグンジョウ君、ボス役として偉そうにしててくれたまえ。あの椅子に踏ん反り返ってだね」

「…こんな感じ?」

 

指を差された先にある椅子に座り、頬杖を付きつつ足を組む。

ルトルが、うんうんと頷き始める。

 

「そうそう! 後は見下す目…そうだな…グンジョウ君は優しいから、虫を見るような目と言ったところで普通の目をするだろう……そうだ。ユエ君に群がる男どもを見るような、蔑むような目をしてみてくれないかい?」

 

どんな目だよ。

むしろ怒りの目しか向けねぇよ、そんなの。

 

呆れてルトルを見るが、うーん、と首を捻られてしまう。

 

いや、今その目をしていないから、首を捻られても…。

 

僕らの様子を見ていたシャナがこちらに来て、僕に耳打ちしてきた。

 

「母様思い出しなよ、グンジョウ。父様がやらかした時の母様の目。それかカヅキおばさん」

「…あぁ、そっちか…」

 

理解したくはなかったが、偶に父様が母様に対して致命的な選択ミスをする事がある。

そんな時は必ず、母様は総帥モードと自分で呼んでいる状態になり、それを怖がっている父様は平身低頭母様に謝り倒すのだ。

 

その二人の様子を見て、カヅキおばさんも父様に対して母様と同じ目をしている時がある。

 

「あれかぁ…僕出来るかなぁ…」

「大丈夫、エミルがめっちゃ怖かったって言ってたから」

 

…ん?

エミル君がなんだって?

 

僕は姉を見上げ、困惑気味に尋ねた。

 

「エミル君がどうかしたの?」

「ほら、ユエちゃんとユタカちゃんの誕生日の時、ツェリに言い寄られたんでしょ? あの時の顔すれば良いんじゃない? めっちゃ蔑まれたってエミル嘆いてたもん」

 

それは、エミル君に対してはごめんと思うんだけど。

全面的にツェリが悪いから、甘んじて受けて欲しい。

 

僕は目を閉じ、ツェリに向けた感情を思い出して表情に出してみる。

その表情を見たルトルが、パチパチと拍手をした。

 

「グンジョウ君、やれば出来るじゃないか! シャナ君、彼に何を言ったんだい?」

「別に何も。グンジョウが想像しやすいシチュエーション伝えただけ。じゃ、グンジョウ頑張れ」

 

ヒラヒラと手を振り、シャナはカメラ外に出る。

姉には本当に助けられてばかりだが、着ている服を見て僕は少し頭を抱えたくなった。

 

腰に届きそうなくらいに入ったスリット、胸を強調するかのようにそこだけ開いているチャイナドレスを着たシャナは、平然と歩いていく。

シャナが通り過ぎた後、男子全員が振り返っているのだが、姉は気付いていない。

 

「ルトル…なんであの服なの…」

「ん? シャナ君かい? 扇情的だろう? まぁ、素肌ではなくあれ肌色のタイツだから、心配せずとも良いさ!」

 

ははは、と笑うルトルを軽く睨む。

 

肌色のタイツだろうと、心配になるわボケ。

リューネ国第一王女になんて物着せてんの君。

不敬罪でしょっ引かれるよ、いい加減にしないと。

 

◆◆◆

 

カメラが回る。

セットの中の椅子に座り、先程の動作をしながら僕は向かいに座るシンクを見た。

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