シャナの腰に手を回してニヤニヤ笑っていたシンクは、正直凄いと思うけど。
「…多分、大丈夫だと、思う…」
「動揺してんじゃん…」
ユタカを抱きしめたまま、顔を上げない弟を見兼ねて、僕は自分の頬を思い切り叩いた。
「グンちゃん?」
「代われ、シンク。私がやる」
王太子モードになった僕を、ユタカは驚いた顔で見るし、シンクも少し顔を上げて目を丸くしている。
「…良いのか?」
「良く無ければ代わるとは言わん。弟が出来ないのなら、兄である私が代わりにやるだけだ。シンク、少し休め。良いな?」
僕がそう言うと、シンクは少し申し訳なさそうな顔をして目を伏せ、暫くしてから目を上げた後、
「……すまねぇ、兄ちゃん」
と言った。
「任せろ。お前の役、務めてやる。代わりに…私が苦手な場面があったら代わってくれ」
あいよ、とシンクは答え、僕と拳を合わせた。
それを見ていたシャナがルトルに伝えに行き、僕はシンクの衣装を着て、椅子に腰掛ける。
「グンジョウ様のお膝…グンジョウ様のお膝が、
「興奮するなドミノ。お前は演技に集中しろ。ミスは許さん」
はいっ!!
と元気よく返事してもらって悪いんだけど、なんで親子二代で僕らを神聖視するのか分かんないんだよなぁ。
しかもなんでシャナじゃなくて僕なんだよ、訳分かんねぇよ。
カメラが回り始める。
僕は先程のシンクと同じ表情をさせつつ、ユタカを見据えた。
シャナの腰に手を回し、ドミノさんの頭を撫でながら。
「お前はただの駒なんだよ、俺を更に上にいかせるためだけの、な」
そのセリフを言った後、僕の両脇にいる女性達がクスクスと頽れたユタカを嘲笑った。
「クスクス…可哀想ぉ。でも、利用されている間は良い夢を見れていたでしょう?」
「私達みたいに美しくないのだから、利用してくれてありがとうございます、と頭を他に付けて感謝を述べるべきよね」
ユタカは僕を見ながら泣き始める。
「そ、そんな…」
「はぁ…泣けば済むと思っている女程、気持ち悪いものはないな。お前は金を持っていたからその間だけ付き合ってやっていたが…なんだ? 俺が本気でお前と恋に落ちたとでも思っていたか? コイツらみたいに、別段美に特化してるわけでもないのに? はっ! だとしたらおめでたいな。なぁ、そう思わないか、お前達?」
僕はシャナの腰から手を離し、僕にしなだれ掛かる金髪に触れ、見上げた。
もう片方の手は、ドミノさんの頬を撫でながら。
「えぇ、そうねあなた」
「本当に、その通りだわあなた」
泣いていたユタカが立ち上がり、僕を睨みつける。
許さない、と呟いて。
「許さない? 誰が? お前がか? …ははっ!! 笑える冗談だな。まぁ、良い。お前はもう用無しだ。何処へなりとも行くが良い。まぁ、お前みたいな世間知らず、金が無ければ娼婦に堕ちるしかないだろうがな!」
ははは、と笑う僕をユタカは睨み、踵を返して走り去っていく。
瞬間、カットという声と共に、ユタカはストップした。
「グンちゃーん! 凄いよ、はまり役だよー! すっごいクズだった!!」
「ごめん、ユタカ。それ褒めてる? あとドミノさんごめん、早く離れてくれない? …シャナ助けて!!」
ストップした地点から、ユタカがニコニコ笑いながら僕に対して手を振ってくるが、僕はそれどころでは無く、姉に助けを求める。
ドミノさんがハスハス言いながら僕の膝にくっ付いているから、今若干恐怖を覚えているのだ。
「はいはい。ドミノちゃん離れて。弟怖がってるから」
「はっ!
シャナの腰に手を回し抱きついていた僕の頭を撫でながら、姉がドミノさんに退くよう告げる。
我に返ったのか、ドミノさんは僕に謝りつつ離れてくれた。
「…怖…っ! あの一族怖…っ!!」
「分かったから離してくれない? それともお姉ちゃんが抱っこして城に連れ帰ってあげようか?」
そう言われて、僕はすぐさまシャナから手を離す。
本当に、ここにユエがいなくて良かった。
絶対怒鳴られてるから、こんなの見られたら。
あとツルギ、ごめん。
シャナに抱きついて。
そんな微妙そうな目で見ないで欲しいんだけど。
不可抗力だから、これ。
◆◆◆
他の人の演技を見ていると、サイレントモードにした携帯が振動を伝えてきて、着信している事を知らせる。
僕はセットから離れ、携帯の着信が誰か表示させた。
リューネ王立図書館の司書長である、リリア・トレイルからの着信だったが、僕はそれを思わず見なかった事にしたくなってしまう。
一応僕も司書の免許を持っていて、王立図書館に籍を置かせてもらっている。
まぁ、王太子だから滅多な事では来れないと分かりきっている職員ばかりなので、僕が籍を置いているのも、本好きだから中に入って日の目を見ていない本が見たい、という理由なのも知っている人達ばかりなのだが。
このリリアという女性だけは、僕の能力を買っていて、何か面倒事が発生した場合だけ僕に連絡してくるのだ。