途端、目の前にディスプレイが表示される。
音声認証を求めてきたので、僕はそれへ向けて告げた。
「グンジョウ・デルフィニウム・ブリリアント。職員番号026782179351」
魔法陣が球状になり、真ん中に椅子が出現する。
青色だった僕の魔法陣が紫色に変化し、裏書庫のデータベースとリンクした事を理解した。
「Sortieren
Beginn der
本達がふわりと浮き上がり、渦を巻いていく。
トトトト、と音がし始めたので、本が本棚に戻っていっているのだろう。
カウンターも回り始め、今どれくらい本棚に収められていってるか、残りの書物はどのくらいかがわかる。
僕は椅子に座り、そのカウンターを足を組みつつ眺めた。
「あー…しんど…寝たい…」
眼鏡を外し、目頭を押さえる。
日中は学業、放課後は映画撮影に、早朝と深夜は狂化訓練。
明日は休日だから、自分の撮影が終わったら寮に帰って訓練まで寝てれば良かった、と若干後悔した。
そして魔力を使って本を棚に戻しているものだから、些か怠くなってきている。
後で、仮眠室貸してもらお…。
深いため息を吐くと、頭上から声がかかった。
「おーい、グンジョーウ。お前に客だぞー」
見上げると声の主からしてタイラーさんが、僕を見下ろしているようだ。
「……客? 誰…いや、ここに僕がいるって知ってるの、限られてるか…誰だ、来たの…」
僕は椅子から立ち上がって螺旋階段に飛び移り、眼鏡をかけながらタイラーさんの所まで上がる。
上がると、やっぱり僕に声をかけてくれたのはタイラーさんで、お疲れと言いながら僕の肩を軽く叩いた。
「客って誰ですか? 姉か弟ですか?」
「いんや? 黒髪赤目の美少女」
そんな特徴的な人なんて、僕の知り合いには一人しかいない。
僕は慌てて表のカウンターに早足で行く。
予想通り、少し厚着をしているユエがそこにいた。
「ユエ、どうしたの? 君体調悪いのに、ここまで来たの? 大丈夫? しんどくない?」
彼女の手を取ると、いつものユエより体温が低くなっている。
毎月の事とはいえ、血が無くなるってよほど辛いだろうに。
「アオ、心配しすぎだよ…。ママが調合してくれた薬飲んで、少しマシになってるから。それよりごめんね、忙しいのに呼んじゃって。ユタカに撮影状況聞いてて。アオが図書館の方に呼び出されたって、シャナちゃんが言ってたって聞いたから。お昼もまだだろうなって思って、そこのコンビニで買ってきたの。これ、差し入れ」
差し出されたビニール袋を受け取り、僕は中身を見る。
僕の好きなものばかりで、思わず蹲った。
「アオ?! 大丈夫?!」
「大丈夫…僕の女神最高…もうヤバい…好き、愛してるユエ…体調戻ったら抱きしめさせて…」
ユエが慌てているが、僕は嬉しくて思った事を言う。
気遣い最高、僕の彼女途轍もなく天使。
超絶女神。
「ア、アオ、他の人もいるから、ね…?」
「グンジョウ、何蹲ってるんだ? 体調悪くなったか?」
裏書庫からタイラーさんが出てきて、蹲っている僕を見て心配の言葉をかけてくる。
僕は立ち上がり、タイラーさんに振り向きながら苦笑した。
「いや、すみません。少し感極まっちゃって。彼女、僕の婚約者なんです。体調悪いのに、ここまで差し入れ届けに来てくれて。嬉しくてあんな状態に…」
「あー、成程。俺はタイラーって言うんだ。ここではグンジョウの先輩だな。まぁ、王子様に偉そうに振る舞えるのここだけなんで、目を瞑っててくれるとありがてぇな」
タイラーさんがユエに手を差し出す。
彼女は微笑みながら、差し出された手を握った。
「立花月です。アオ…グンジョウ殿下の婚約者です。殿下がいつもお世話になってます」
カカカ、とタイラーさんは笑い声をあげ、僕の背を思い切り叩いてくる。
「グンジョウ、立花卿の娘と婚約とは凄えじゃねぇか。しかも貴族かぶれしてないなんて、将来安泰だな!」
「…いってぇ……えぇ、まぁ。ユエはとても頑張り屋で、優しいし、気遣いが出来る女性ですから。僕には勿体無いくらいですよ」
貴族かぶれ? とユエが首を傾げた。
タイラーさんは少し苦笑いを浮かべ、その単語について説明してくれる。
「貴族かぶれっていうのは、まぁ…ちょっとした蔑称っていうか。ここら辺ってさ、下流貴族が結構住んでんじゃん? 俺平民なんだけどさ、下流貴族の奴等って俺らを人とか思ってない連中ばっかでよ。グンジョウや、リリア司書長、ここの職員とかはちゃんと俺を一人の人間として扱ってくれてて。まぁ…貴族に不信感って言うんかな。人間だって、良い奴もいれば悪い奴もいるんだけど…こう、良い思い出がねぇって言うか。だから、嬢ちゃんが俺が平民でも蔑まず、対等に接してくれて嬉しいんだよ」