my way of life   作:桜舞

179 / 408
179話『凄い言われようだな、母様』

「母から、そんなプライドは犬にでも食わせておけと教わっています。平民だろうと、人を蔑むなんて家畜以下…いいえ、この世界に有益な存在ではないので、処しても問題はないと母は言うでしょう。私も同じ考えです。むしろ、人を見下して従わせている連中、本当にこの国に必要ですかね?」

 

彼女の言葉に、僕は後ろからユエの口を塞ぐ。

流石に言い過ぎだと思ったのだ。

 

「いやぁ…はは。結構言うねぇ、嬢ちゃん」

「ユエはたまに暴走する時がありまして…。ユエ、一人で来たの? 迎えは?」

 

僕の手を退かし、彼女は見上げてくる。

 

「一人で来たよ。迎えなんてあるわけないじゃん」

「…ユエ、僕帰り遅くなるんだけど待てる? 裏書庫は職員だけしか入れないから、カウンター辺りで待っててもらう事になるんだけど」

 

そう言うと、ユエはキョトンとして首を傾げた。

なんで僕がそんな提案をして来たのだろう、と疑問に思っているようだ。

 

「一人で帰れるよ?」

「いくら薬飲んでたからって、体調悪い事には変わりないだろ? 心配なんだよ、そんな君を一人で帰すのが。せめてユタカに連絡して迎えに来てもらって。良いね?」

 

タイラーさんがニヤニヤと僕らを見つめていたが、無視する。

自分の婚約者の心配をして何が悪いというのか。

 

「アオ、私本当に大丈夫なんだけど…」

「まぁまぁ、嬢ちゃん。グンジョウは嬢ちゃんが可愛くて仕方ねぇんだよ。心配で手元に置いときてぇんだ。今グンジョウ、大変な仕事抱えてるからよ。まぁ、座んな。茶菓子やお茶は司書長が厳選に厳選を重ねた逸品だから、結構美味いぜ」

 

困った顔をしたユエの手を引き、タイラーさんはカウンター奥のテーブルに彼女を連れて行く。

外から見えないそこは、職員の憩いの場だった。

 

ユエを席に座らせ、タイラーさんは温かいお茶を入れ出す。

 

「あの、お構いなく…」

「あー! タイラー、私の分は?!」

 

ユエが遠慮がちに声を上げた瞬間、それに重なるようにタイラーさんの名を呼んだ甲高い声へ、僕は自分の頭を押さえてそちらを睨みつけるように見る。

 

「…リリアさん、ここ図書館なんですけど。司書長の貴女が騒がしくしてどうするんですか? あと、僕の彼女が来てるんで静かにしてもらえませんかね? 彼女、体調悪いんで。それに、リリアさん今年で何歳でしたっけ?」

 

僕に睨みつけられたリリアさんは、冷や汗をダラダラ流しながら、引き攣り笑いを浮かべた。

 

「や、やだなぁ、グッさん。そんなに怒んないでよぅ…今年で34だけど…。あ、彼女ちゃん? 初めまして、ここの国立図書館の司書長をしてます、リリア・トレイルです。グッさんには度々お世話になってまして…本当に、助かってます。彼氏のグッさん借りてごめんね。デートだった、もしかして?」

「あ、いえ…。グッさん?」

 

ユエは、リリアさんを睨み付けている僕を仰ぎ見る。

視線に気付いて、僕は彼女に苦笑しながら説明した。

 

「グンジョウのグの字を取ってグッさんなんだって。君付けでも良いって言ったんだけど、自分より有能だからってさ。というか、リリアさん34だったんですか。もう少し下かと思ってました」

 

僕は再びリリアさんを見ながら、呆れた目線を投げる。

だって、動作がほぼうちの姉そっくりなものだから、いっても20代前半あたりかと思っていたのだ。

 

「何おぅ。一応、王妃様と同じ学舎だったんだぞぅ。いやぁ…陛下と仲睦まじいし、天才画家が描いた絵画から出てきたのかっていうくらい美しいし、所作は綺麗だし。そんな人が戦争の英雄なのは理解不能だしで…いやぁ、あれ本当に人なのかなってうちの学年では噂になってたよ。いや、人なんだけど。うちの学年では専ら、彫刻が人の命を得て陛下に見初められただの、いや絵画から出てきて陛下がそれに惚れただの、あんな超常的な力を持っているのだから、精霊が人になっただの散々言われててさぁ」

「…………」

 

凄い言われようだな、母様。

どれも間違いだけど。

むしろ、精霊になってみようかと言った母様を、父様は説得したらしいし。

 

「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。立花月と申します。初めまして、リリア司書長。殿下がお世話…お世話? になっております」

「ユエ、疑問形つけないで。むしろ世話してるのこっちだから」

 

そうだけどさぁ、とリリアさんは情けない声を上げながら、タイラーさんが差し出したティーカップを受け取り、お茶を飲んだ。

 

「どーぞ。俺、茶を入れるのだけは上手いんだぜ」

「あ、ありがとうございます…」

 

ユエはティーカップを受け取り、リリアさん同様それを飲む。

そして、その目を大きく見開いた。

 

「…美味しい。母が淹れてくれるのより、とても美味しいです。タイラーさん」

「お口にあったんなら良かったよ。グンジョウも飲むかい?」

 

タイラーさんの申し出を、僕は苦笑しながらユエから貰ったビニール袋を掲げつつ断る。

 

「彼女からの差し入れがあるので、それ食べながら仕事に戻りますよ。ユエ、帰る時はメッセージ頂戴ね?」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。