母様も教えてくれていたが、遠くから走り寄り
そんな時、また僕の意識が遠くなる。
帰ったら、母様に謝らなきゃ…。
許してくれるか、わからないけど…。
そう思いつつ、僕の意識は暗転した。
◆◆◆
「グンジョウ?! グンジョウってば!! 起きてよぉ…っ!!」
顔に何かあたり、僕はうっすらと目を開ける。
眼鏡は外されているようで、姿がぼんやりとしか見えない。
ただ、金色と慣れた匂い、頭に当たる柔らかな感触で、僕に膝枕をしているのがシャナだとわかる。
ポタポタと顔に当たる水滴に、シャナが泣いているのに気付く。
「…シャナ、泣きすぎじゃない…?」
「誰のっ、せいだと…!」
一体何が起こったのだと僕は起き上がった。
目の前に何か差し出され、それを受け取る。
慣れた感触に、それが眼鏡だと理解して掛けた。
やっと視界がはっきりして、目の前にカヅキおばさんが屈んで僕を見ていたので、僕はニヘラと笑う。
「あの、何があったんですか…?」
「お前にシャナの記憶を見せた瞬間倒れたんだ。後頭部からそのままな。シャナが回復魔法をかけていたが、大丈夫か?」
確かに後頭部付近が痛い。
たんこぶでも出来てるんじゃないだろうか。
あとでシャナに確認してもらって、出来てたらもっとかけてもらおうと決めた。
「で? 何を見た?」
「宮塚と、長谷川という人が出てきました。あと、ナツキという女の子も」
宮塚と長谷川の名を出すと、カヅキおばさんと父様が苦虫を噛み潰したかのような顔をする。
あの光景を二人も知っていたという事かと、その表情を見ただけで理解した。
「なら、シャナは宮塚で確定か…あいつ、執念深すぎだろ…」
「娘は殺させんぞ、カヅキ」
ちっ、と舌打ちしたカヅキおばさんに、父様は言う。
誰が殺すか、とおばさんは父様に怒鳴った。
「あの、話見えないんだけど…」
シャナが挙手して言う。
僕もあの光景を見ただけでは、なんでシャナを殺すという話になるのかわからない。
「シャナの前世である宮塚麻人は、ナツキを殺した張本人だ。それに、この世界に魔王として現れた。だから、シャナは魔王の素質を生まれながらに身につけている、という事だ」
僕らは絶句する。
シャナの方は、更に青ざめていた。
前世の事とはいえ、自分が母親を殺していたなんて、しかも魔王として現れたなんて。
それが僕だったとしても、信じたくはない話だ。
だが、カヅキおばさんがそう言うなら、本当の話なのだろうと僕らは思う。
誰にでも自分にも厳しく、優しく公平なおばさんの言葉だから、信じられるのだ。
「その力、封印する。良いな、シャナ。嫌だと言ってもするんだが」
「嫌とは言わないし、出来れば前世の記憶ってやつも消してほしい…」
昨日だけだったのかもしれないが、今後見るかもしれない。
それは嫌だと、シャナは言った。
そうか、とおばさんがシャナの頭を掴んだ瞬間、結界が壊れる。
おばさんは扉の方を見、ため息をついた。
「グンジョウ! シャナ!」
扉を思い切り蹴破り、母様が姿を現す。
どうやら起きたようだが、よく僕らがここにいるとわかったな。
「母様、あの…」
「カヅキに何かされてない?! 魔法使ってる気配がしたから、飛び起きてここまで来たの! 無事?!」
それはこっちが聞きたい事なのだが。
母様は、シャナの頭を掴んでるおばさんの所へ行ってその手を叩き落とした。
「うちの子に何してんのよ、あんたは!!」
「逆に何してんだテメェは!! 喧嘩売ってんのか!!」
睨み合いを始めた二人に、父様が間に入って宥め始める。
ユエとユタカも、扉の外からこちらの様子を眺めていた。
何この混沌とした状況。
僕もう帰りたい。
帰って本読みたい。
シャナが少し震えていたので、後ろから抱きしめて肩辺りに額を置いた。
ユエとユタカが少し騒がしかったが、別に変な意味はない。
僕の半身と言えるシャナに、どうして邪な感情を抱けるというのか。
生まれた時から一緒だというのに。
邪な感情を抱けるのは、その身の内に狂気を孕んでいる奴らだけだろう。
「ごめん、グンジョウ。あたしは大丈夫だから」
「まだ震えてるし、僕もう疲れたよ。シャナが悪いわけじゃないし、宮塚が悪いんだけど。あんな体験もうしたくない」
僕の腕に手を添えてシャナは言うが、僕は嫌だと首を横に振った。
まだ頭痛いし、と言うと、シャナが僕の後頭部に手を添えて、回復魔法をかけてくれる。
「とりあえず、お前ら落ち着け。子供達の前だぞ。それか、ターニャでも呼ぶか?」
父様のその声で、母様達は黙った。
余程お祖母様が怖いらしい。
母様も、カヅキおばさんも。
「で、シャナの力を封印するんだが、異論はあるか?」
「…ない。ごめん」
母様が素直に謝る。
離れて欲しいと、シャナが僕の腕を軽く叩いた。
腕を解いて立ち上がり、数歩後ろに下がったが、僕はよろめいてしまう。
普段なら体幹を鍛えているおかげで、ふらつく事もないのだが。