「…本当に心配性だなぁ。待ってるよ。ママから、今日の訓練は無しにしてやるって。アオと一緒に帰って来いってメッセージ来たから」
自分の携帯のメッセージを表示させながら、ユエは微笑む。
本当にその通りに書いてあったので、僕は更に苦笑した。
「じゃあ、行ってきます。リリアさん、変な事ユエに吹き込まないで下さいよ」
「なんで私だけ注意されなきゃいけないのかな、グッさん?!」
貴女が面倒な仕事振ってきたからですよ、とは言わず、僕はニコリと笑むだけに留めた。
◆◆◆
ユエが持ってきてくれたものは全て食べやすい物ばかりで、本当に彼女に感謝の念しか湧かない。
炭酸も入っていたが無糖の炭酸水で、食べながら僕の好み把握してる彼女マジ天使、と思ってしまう。
「…いや、疲れてるな、これ」
ユエは女神だとか思っている僕だが、流石にこの思考はマズい気がする。
椅子に深く腰掛け、背もたれに頭を乗せてそのまま目を閉じる。
「あと何冊だよ…その前に僕の魔力尽きるぞ、これ…」
体調不良のユエに、リンクを繋いでもらうなんて愚かだし。
むしろ、明日もう一回来てやってから、終わらなかったらリリアさん達に投げてもいいんじゃないか、という思考に至る。
非常勤だし、僕。
そうしようと目を開けた所で、携帯に着信が入った。
「誰…母様?」
携帯の着信画面には、母様の文字。
僕は通話ボタンを押して、耳に当てる。
「はい、どうしたの母様。何か緊急事態でも起きたの?」
『ごめんなさいね、仕事中に。グンジョウ、貴方…ツェリちゃんからの求婚断ったのよね?』
ツェリの名を聞き、僕は二ヶ月前の事を思い出す。
ユエとユタカの誕生パーティーの最中、ユエを連れて廊下を歩いていた僕に、ツェリは言ったのだ。
[後でもう一度、陛下と王妃様に打診してみようと思うの。私、側妃でも良いからグンジョウ君のお嫁さんに]
まさか、あれを母様逹に言ったのかツェリの奴。
いつの間に母様達に接触してたんだ、あいつ。
「…断ったよ。僕は、ユエ以外と婚姻するつもりはないってハッキリ言った。それが何」
あれを思い出して、声が低くなる。
そんな僕の声を聞き、母様がため息をついた。
『…ハインリヒ家から、正式にグンジョウへ婚約の打診があったの。でも、そう…貴方が断ったのなら、こちらもそう回答しましょう。ごめんなさいね、煩わせてしまって』
「いや、教えてくれてありがとう」
またね、と言って母様は通話を切る。
僕はポケットに携帯をしまい、つい大声を出してしまった。
「あーっ!! くっそ!! 良い加減にしろよあいつーっ!!」
髪を掻きむしり、頭を抱える。
どんだけ僕に執着しているっていうんだ、ツェリの奴。
もうそろそろ良い加減にして貰わないと、此方だって考えがあるからな。
「…荒ぶってるとこすまねぇが、グンジョウ。声、表にも聞こえてるぞ。立花の嬢ちゃんが心配してオロオロしてるんだが…」
頭上からタイラーさんの声が聞こえ、僕は見上げる。
「…すみません、タイラーさん。仮眠室貸してもらえません…?」
「貸すのは良いが、嬢ちゃんと致すなよ?」
しないし出来ないっていうのに。
精神的にも物理的にも。
しません、と言って、僕は螺旋階段に飛び移り、頂上を目指す。
裏書庫から出ると、ユエが心配そうに立ち上がって僕を出迎えてくれた。
「アオ、あの…」
「…ユエ、こっち」
彼女の手を引き、仮眠室に行く。
なんでこんな場所があるかと言えば、本の整理や区分けなどで徹夜になる事もあるそうで、リリアさん達が増設したらしい。
ちゃんと国に申請してからだけど。
僕は一つのベッドに入り、彼女へ手招きする。
動揺して中々動かなかったユエだったが、観念して僕の腕の中へ来た。
ギュッと彼女を抱きしめ癒される。
「アオ、大丈夫? なんか絶叫が聞こえたけど…」
「んー…うん。大丈夫じゃないけど、大丈夫…」
眼鏡を外し、サイドテーブルに置いた後ユエの頭に頬擦りした。
サラサラの黒髪と、彼女が使っているであろうシャンプーの香りがして、僕は更にユエを抱きしめる腕に力を込める。
「アオ、苦しい…」
「ごめん、少し我慢して…君とこう出来るの、久々でさ…あー…本当にユエ好き。癒される…」
僕がそう呟くと、仕方ないなと彼女は笑った。
そんなユエに、僕は先ほどあった事を伝えようと思い、口を開く。
「ユエ…ちゃんと断ったから、安心して欲しいんだけどさ」
「ん? うん、何?」
少し身動ぎし、ユエは僕を見上げてくる。
そんな彼女の額に、自分のをくっつけながら言った。
「さっき母様から電話があってね。ハインリヒ家が、正式に僕へツェリと婚約して欲しい、って打診があったんだって」
「…っ!!」
ユエは驚き、目を丸くする。
僕は目を閉じて眉を寄せた。
「本当、良い加減にして欲しいよね…僕はユエ以外、いらないっていうのに。僕の隣は、ユエだけのものなのに。母様にも、ツェリにはちゃんと断ったって伝えてあるから、これ以上には絶対にならない。あぁ、くそ…ツェリの奴…」