「アオ」
ユエが僕の唇を自分ので塞ぐ。
いつもより体温が下がっているユエの唇が、僕の頬に添えられている手が冷たくて、このまま雪みたいに彼女が消えてしまうのではと、錯覚してしまった。
「…ユエ」
「もう、ツェリちゃんの名前は出さないで、アオ。断ってくれたのは嬉しいけど、思考がツェリちゃんに染められてる。染まるなら…私の事だけ考えて?」
なんて可愛い事を言うのだろう、僕の恋人は。
僕は、前世も今世も、そして来世でさえも君に恋をし続けるのだろう。
僕のユエ。
僕の…
「そうだね、ユエ。君の言う通りだ。僕は、君を愛してる。君さえいれば何もいらない。あぁ…君と一つになれればいいのに」
「…アオ、もうちょっと我慢しててね。式を挙げたら…いっぱい、甘くて蕩けてしまうような夜を過ごそう。私、その日を楽しみにしてるから」
ユエの指に自分のを絡め、彼女の額にキスをする。
「うん、僕も楽しみに日々を過ごすよ。君が、僕の
魔法陣を展開していた僕の魔力が尽きたようで、彼女に好きだよと言う前に、僕の意識は暗転した。
◆◆◆
「…アオ、起きて。アオ」
ユエに揺り起こされ、僕はうっすら目を開ける。
「ユ、エ…?」
「うん、寝かせてあげたいんだけど、ごめんねアオ。もう閉館するから、リリア司書長がもうお帰りって。アオのバイト代も預かってるよ。起き上がれそう?」
僕はゆっくり起き上がり、フルフルと首を横に振った。
意識が全く覚醒しない。
いや、起きてる時点で意識はあるのだが、まだ夢の中にいるような感覚だ。
「ごめん、ユエ…シャナか、シンク呼んで…魔力欠乏になりかけてる…データベースとはリンク切ったんだけどなぁ…」
夢見心地とはこの事か。
確かに、魔力酔いを起こしたシャナが楽しくなるのはわかる気がする。
だからって、あんなテンション高くはなれないけれど。
ユエが携帯を取り出し、電話をかけ始めた。
誰にかけているかは、ボンヤリした頭では理解出来なかったが。
「グンジョウ、大丈夫? 確かに、魔力欠乏起こしかけてるね…もう、ちゃんと無理なら無理って言いなよ」
「全くだ。なんだったら俺が代わりに行くっていうのに。おーい、グンジョウ聞こえてるかー?」
ユエが電話を切った直後、目の前にシンクとシャナが転移してくる。
なんで二人が一緒にいるかはわからなかったけど。
「姉上…シンク…ごめん、助けて…」
僕がそう言うと、二人とも僕の手を握ってくれる。
「おうよ」
「当たり前じゃん、お姉ちゃん達に任せなさい」
二人がリンクを繋いで、僕に魔力を流した。
魔力回路が活性化してきて、僕の意識が段々ハッキリしてくる。
視界も鮮明になってきて、一番始めに見えたのはユエだった。
彼女は少し申し訳なさそうな顔をしていて、何故そんな顔をしているのだろうと思ってしまう。
「ユエちゃん、連絡くれてありがとう。いやぁ、二人が抜けた穴埋めるの大変でさぁ。またおばさんにコテンパンにやられた後に連絡貰ったんだけど」
シャナが笑いながら、指を鳴らす。
瞬時に景色が変わり、寮の僕らの部屋へ転移したようだった。
「お前頑張りすぎ。あとユエ、んな顔すんな。お前、今魔力不安定なんだろ? ユタカから聞いた。グンジョウとリンク繋いでサポート出来なかったって、悔やむなよ。お前悪くねぇから」
無茶したコイツが悪いの、とシンクは僕の頭を軽く小突いてくる。
全くもってその通りなので、僕はユエに謝る。
「シンクの言う通りで、魔力欠乏になる前にリンク切れば良かったのに、しなかった僕が悪いんだよユエ。後、お昼ご飯持ってきてくれてありがとう。ちゃんとサポートになってるから、そう落ち込まないで欲しいな」
「アオ…。うん、ありがとう。明日は、ちゃんと映画の撮影に参加するからね」
無理しないでね、と言うが、大丈夫と返されてしまった。
シャナがこっそり、僕らに聞こえないようユエへ耳打ちして何か質問をし、ユエもシャナに耳打ちで返す。
「あー…うん、ユエちゃん強くない?」
「これは人それぞれだって、ママ言ってたよ。私はこれで平気だけど…シャナちゃんは辛いんだね…」
うんうん、とシャナが頷いているが、僕はなんの事かサッパリなので取り敢えずスルーする。
聞いた所で、女性の悩みを男性が理解出来るとは思えないし。
理解しろと言われれば、勉強する所存ではあるが。
「取り敢えず、ユエ送ってくるわ。グンジョウ、もう寝ろ。明日はお前とユエの絡みが多いシーン撮るって、ルトル言ってたから」
「うげ、マジかよ…」
ユエと映るのが嫌なのではなく、こんな怠い状態で撮影しなければならないという事実が、である。
「足りないなら、お姉ちゃんとチューする?」
「誰がするか馬鹿野郎!! お前はツルギとでもしとけ!!」
怒鳴ったせいで眩暈がし、僕はソファーに突っ伏した。
アオ、とユエが僕を心配する声が聞こえるが、僕は手を挙げて彼女に大丈夫だと伝える。