僕は取り出し口からブラックコーヒーを取り出しつつ、彼女に何を飲むか尋ねた。
「いや、自分で買うし」
「買わせてよ。別に大した金額でも無いんだから」
ニコリと笑むと、ユエは少し不満そうな顔をしながら、これ、と自販機の商品を指差す。
お金を入れ、それのボタンを押して落ちてきた飲み物を取り出し、ユエに渡した。
ついでに着ていたジャケットをユエに羽織らせる。
ユエは白いドレスを着ていたが肩が出ているデザインなので、少し寒くなってきたこの季節にそれは寒いだろうと思ったからである。
あと、多分まだ終わって無いだろうから、ユエの体温は下がっている事だろう。
「アオ、何か話あったんじゃないの?」
「ん? いや、別に。王立図書館でも言ったけど、君とこうやって過ごす時間が最近取れなかったから。ごめんね、ユエ。寒いとこに連れてきて」
別に良い、と彼女は僕に身を寄せてきた。
ユエの肩を抱き、彼女の頭に頬をくっつける。
「体辛くない?」
「平気だってば。アオ、心配しすぎ。でも、ありがとう。貴方が私を気遣ってくれるの、凄く嬉しい」
嬉しそうに笑う彼女が愛おしくて、僕は軽めの口付けをユエにした。
そして、少し後悔する。
「あっま…」
「アオのばーか。私これ飲んでるんだから、当たり前でしょ?」
おしるこ、と書かれている缶を僕に見せ、彼女は呆れた顔を向けてきた。
吐く程ではないがちょっと苦手な甘みなので、ブラックコーヒーで口直しする。
「…忘れてた」
「アオ、痴呆入るの早いよ。まだ16でしょ?」
あと数ヶ月もしたら、ユエと同じ17になるけど。
確かに失念していた僕は、ボケでも入っているのだろうか。
「ユエ、僕がボケても見捨てないでね?」
「見捨てるわけないじゃん。うーん…若年性痴呆症かなぁ…ママに後で精密検査してもらう?」
流石にそこまでは…。
ユエが心配だと言うなら、受けるけど。
「ユエちゃーん? ごめん、ちょっと良いー?」
ユエのクラスメートが彼女を呼びに来たらしい。
僕らの様子に、気まずそうな顔をした。
「あ…ごめん、お邪魔した?」
「良いよ。アオも別に良いよね?」
彼女と話したかっただけで、別段拘束はしていなかったから、僕は頷く。
「良いよ。むしろごめんね。いってらっしゃい、ユエ」
「うん。外寒いんだから、アオも早く中入りなよ?」
僕にジャケットを返し、ユエは手を振ってくれた。
そのまま、クラスメートに着いて中に入っていく。
「……まぁ、頃合いだよな。なぁ、ツェリ」
「いつから気付いてたの、グンジョウ君?」
ユエを見送り、僕は背後の茂み辺りを見ながら声をかけた。
そこから見知った幼馴染みが現れ、クスクス笑っている。
「よくここが分かったな。ここ、ルトルの家の所有物件のはずなのに」
「そのルトルちゃんが教えてくれたんだよ。ここで映画撮ってるって」
あいつ…まぁ、僕らの因縁なんてルトルは知らないから、仕方ないとしても。
「良い加減しつこいぞ、ツェツィーリエ。僕がしつこい女嫌いなの、知ってるはずだろ?」
「ユエちゃんがそうだったもんね。ふふ…あの頃のグンジョウ君、結構大変そうだった」
クスクス笑うツェリを、僕は睨み付けた。
そんな世間話をしに来たわけじゃないだろうに。
「王家から、ちゃんと回答はしたはずだ。ツェツィーリエ、僕はお前と…いいや、ユエ以外と婚姻は結ばない。それが僕の答えだ。それ以上言い寄るというなら…不敬罪で、お前を裁かねばならなくなるぞ」
「優しいね、グンジョウ君。でもね、私もユエちゃんと一緒でグンジョウ君が初恋で、ずっと好きなの。諦めきれないの。だから、側妃で良いから傍にいさせてほしいんだ」
だから、それは出来ないって言ってるのに。
こんなに物分かり悪かったか、ツェリは。
「もう一度言う。ユエ以外と婚姻は結ばない、それ以上言い寄るな。これは警告だ、ツェツィーリエ」
「引き下がりなよ、ツェリちゃん……これは、王家の総意です。第一王女として命じます、ツェツィーリエ・パパラチア・ハインリヒ。今後、弟に故意に近寄ろうものなら…王家はハインリヒ家を裁きます」
いつの間に来たのか、シャナが僕の後ろに立っていた。
「…シャナ…いや、姉君。いつから…」
僕らの会話を聞いていたであろう姉が、王家の権力を出しツェリに命を下す。
これに異を唱えるなら…反逆罪として、シャナは彼女を裁くつもりなのだろう。
「……どうしてもですか、シャナ第一王女殿下」
「二度同じ事を言わせるのですか、ハインリヒ嬢。私としては、貴女には弟を諦めて他の方と幸せになって頂きたいと思っています。大切な幼馴染で、学友ですもの…しかし、私を含め弟は今大事な局面にいます。貴女如きで、弟の手を煩わせたくはないのです。引き下がりなさい、ハインリヒ嬢」
僕の疑問には答えず、シャナはツェリを見据え、彼女にそう告げる。
悔しそうな顔をしたツェリは、シャナに臣下の礼をとって頭を垂れた。