my way of life   作:桜舞

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184話『今目が泳いだね?』

「…承知致しました、第一王女殿下。グンジョウ王太子殿下、御前を失礼致します」

 

ツェリは踵を返し、僕らから離れていく。

その姿が見えなくなるまで彼女を見、僕はシャナの方に顔を向けた。

 

「…姉君、いつから聞いていたのですか」

「最初から。ユエちゃんがグンジョウと一緒に外へ行ったはずなのに、クラスメートと一緒だけど一人だけで戻ってきたから、おかしいと思ったの。ユエちゃんの体調を心配していた貴方が、彼女を放っておくなんて、と。まさか、ツェリが来てたなんて。これ、ユエちゃんには言わない方が良さそうだね…」

 

姉の言葉に、僕は頷く。

ユエが体調を崩しているのに、更に悪化させるような事言うわけにはいくまい。

 

「多分、シンクも気付いてるだろうけど…まぁ、あいつは空気読めるからユエちゃんには言わないでしょ」

「…僕以外は、って話でしょ。シャナ」

 

口を滑らすんじゃないぞ、と姉は僕に釘を刺して、少し震える。

僕はため息をついて、ジャケットをシャナにかけた。

 

「風邪引くよ。なんで上着羽織って来なかったの」

 

シャナの衣装は、昨日と同じで肩が出ているものだから、この気温が下がってきた気候では寒すぎるのだろう。

 

「急いで来たんだから、お姉ちゃんを労わんなさいよ! むしろ感謝しろー!」

 

はいはい、と言いつつ僕は姉を抱きしめる。

あれ以上ツェリと話していたら、僕は中にも聞こえる声で彼女を怒鳴りつけていた事だろう。

それはユエにも、このやりとりが聞こえてしまうという事だ。

そんな事態にならなかったのは、ひとえにシャナのおかげである。

 

「ありがとう、姉君。本当に、シャナが僕の姉で良かった。姉弟として、大好きだよシャナ」

「…全くこの弟は。でも、ユエちゃんが気付く前で良かったね、グンジョウ。ほら、後もうちょっとでグンジョウのシーンの撮影なんだから、行っておいで」

 

優しく微笑む姉に、僕も笑いかけた。

 

「うん。行ってきます、姉君」

 

◆◆◆

 

「アオ、シャナちゃんと抱き合ってたでしょ」

 

ユエとのダンスシーンで、僕と手を繋いで密着した彼女が、ジト目で僕を見る。

カメラがまだ回っていないから、私語をしても大丈夫なのだが…。

 

よく分かったな…。

シャナ、別に香水つけてないし、服の匂いだって同じなはずなのに。

 

「外にいた僕に用があったみたいなんだけど、上着着てくるの忘れたらしくてね。ジャケット貸してあげたんだけど、寒い寒い煩いから抱きしめて暖取らせただけ。他意はないよ」

「ふーん?」

 

更に疑わしい目になったので、僕は苦笑いをする。

別に嘘は言っていない。

ツェリの事が入っていないだけで。

 

「まぁ、良いけど。アオは、私が大好きだもんね?」

「その通りだよ、ユエ。誰よりも、君が愛おしいんだから」

 

微笑みながら言うと、彼女は少し照れて目を逸らしてしまった。

ルトルが僕らに声をかけ、撮影が始まる。

 

音楽に合わせて、僕らはステップを踏んだ。

 

「私のために、こんなパーティーを開いてくれるなんて…嬉しいわ、貴方」

 

ユエが嬉しそうに笑う。

それが演技だと分かっていても、僕も嬉しくなって彼女に微笑んだ。

 

「お前のためでもあり、俺のためでもある。存分に楽しめ、愛しい人。今夜は、空の星々も全てお前の物だ」

 

誰だこんな脚本書いた奴。

いや、ルトルか。

キザ過ぎるだろ、このマフィアのボス。

最初これシンクにしようとしていたから、あいつベースで書いたんだろうけど…それにしたってキザ過ぎる。

 

〈アオ、ペース早くなってる。ステップ踏み辛い。後、手を強く握り過ぎ。痛い〉

〈ごめん、ユエ。初歩的なミスして〉

 

彼女からの念話で、表情は崩さず手の力を緩める。

ダンスシーンは充分に撮れたようで、ルトルからカットの声がかかった。

 

「ユエ、大丈夫? 痛くなってない?」

「痛くはないけど、どうしたの? アオがこんなミスするなんて珍しい」

 

握っていた方の彼女の手を取り、さする。

首を傾げるユエに、僕は苦笑した。

 

「いや…このマフィアのボス、キザったらしいなぁって思ったら、思わず力が入ったみたいで…。本当にごめん、ユエ」

 

僕は両手を合わせ、彼女に頭を下げる。

良いよ、とユエはクスクス笑い出した。

 

「痛かったけど、骨が折れるほどじゃないし。気にしないで、アオ」

「あ、そう言えばグンジョウ君。ツェリ君はどうしたんだい? 今日君に会いに来るって、彼女言ってたんだけど」

 

ルトルの言葉に、ユエの笑顔が固まる。

なんとは無しに、思い出したかのように言った彼女だったが、それは今僕にとっては禁句なわけで。

 

「アオ、今目が泳いだね? どういう事?」

「…ルトル、僕はあいつには会ってない。今後会わないし、会うつもりもないから。あとユエ、お願いだから落ち着いて。後で話し合おう、ね?」

 

笑顔で怒りのオーラを出すユエを見て、僕は内心でシャナに助けを求める。

 

助けて姉君、ユエが怖い…。

 

それを感じ取ったのか、シャナが来てフォローをしてくれたので、事なきを得たのだった。

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