ウンディーネ2の月。
今月は学園祭があり、二日の間、僕らが撮った映画が体育館で上映されるわけなのだが。
初日に僕とそれを観たユエが、信じられない顔で僕の方を見てきたので、僕はその間彼女の顔を見れず目を横に逸らす他なかった。
「アオ? ちょっとお話ししましょうか?」
観終わった後ユエに空き教室に連れて行かれ、彼女の方が背が低いにも関わらず、壁ドンされる。
「あれ、どういう事?」
「どういう事って…何の事かなぁ…」
彼女から顔を逸らし、僕は引き攣り笑いをした。
ユエが上映中、僕の方を見たシーン。
それは、シンクの役を僕が代わりにやったあの場面だった。
周りの観客は、僕とシンクが出ている事は知っていたが、あの場面は確実にシンクだろうと思っていた筈だ。
実際、演じた僕でも観客目線で見たらそう見えたわけだし。
僕も、シンクに似せるように演技したのだから。
だがユエにはやはり、どちらが演じていたかなんてすぐ分かったらしい。
眼鏡外したら、どっちがどっちかなんて分からない、と妹達にも言われたのに。
シンクも撮影のために、長かった髪を切って僕と同じくらいにしてあったんだけど。
「あれ撮ったの、私が腹痛で撮影休んでた時だよね? 何? なんでアオが、シンクの役やってるの? シャナちゃんの腰に手を回して…
うぅー…っ!!」
ポロポロと大粒の涙を零し始めたユエに、僕は慌てる。
「あぁ、ユエ泣かないで!! あれ仕方なかったんだよ! シンクが、ユタカ泣いてるのに動揺して撮影出来なくなってさ…僕が代わりにやるって言ったんだよ。多分、何回やっても同じ事になると思ったから…。観てて分かってると思うけど、あれ一回しか代わってないからね? あと僕だったろ? ね、泣かないでユエ…」
「……そうなんだ…? …じゃあ、許してあげる。お詫びにクレープ奢って、アオ」
涙が止まり、ケロッとしながらユエが僕にそう言った。
あまりの変わり身の早さに、僕は彼女を見ながら唖然とする。
「ユエ…? 泣き止むには、早くない…? いつもならもっと泣いているというか…」
「嘘泣きだよ、アオ。いや、泣いたのは本当だけど。なんか、映画撮ってからこんな事出来るようになっちゃった」
嘘泣き?
マジで?
あれ、本気で泣いてなかった?
僕は安堵からか、彼女の肩に顔を埋めた。
「アオ?」
「…ユエ、ビックリしたよ…君の涙、ちょっと心が痛むから…あまり、そういうのしないで貰えると…」
また泣かせてしまったかと、罪悪感で死にそうになっていたのだ。
あれが嘘泣きで良かった。
「いや、あの、怒っても良いんだよアオ?」
「…いっつも泣かせてるから…怒れないって…」
はぁ、とため息をついて顔を少し動かした瞬間、眼鏡が床に落ちる。
パリン、と甲高い音がして、僕は体が固まった。
「…ユエ、ごめん。眼鏡落ちたみたいなんだけど…どうなってる?」
「…アオ、残念なお知らせ…眼鏡のレンズ、粉々に割れてる…」
やっちまった…。
予備の眼鏡、城に置きっぱなしなんだよな…。
一個くらい、寮に持って来れば良かった…。
シャナにお願いして持ってきてもらわないと、今日一日何も見えないままなんだけど。
僕は彼女から離れ、顔を覆って蹲る。
「え、あ、ごめんねアオ。シャナちゃん呼ぼうか?」
「そうして貰えると助かる…あと、ユエのせいじゃないから」
ユエがシャナに連絡を取ってくれたようだが、通話を切った彼女は少し申し訳なさそうな声をあげた。
「シャナちゃん、アレの日だから…魔力不安定で、城まで飛べないって。私が行ってこようか?」
「…ユエ、僕がどこに何しまってるか、把握してないでしょ…家探しみたいな事させるの、流石に申し訳ないから…シャナの魔力が安定するまで、眼鏡なしで生活するよ…」
見えないと言っても人の表情とかだけで、何かがあるくらいは分かる。
本当に、何かある、だけだが。
「アオ……うん、分かった。じゃあ、シャナちゃんの代わりに私がリンク繋いで、アオの目になるから。それなら、見えるでしょ?」
「あぁ、うん。魔力供給してくれるなら、視力上げられるから…良いの? 眼鏡割ったの、自業自得なんだけど…」
フルフルと、彼女は首を横に振ったようだ。
黒髪が揺れている。
「私が嘘泣きしなきゃ、こんな事にならなかったでしょ? だから、良いの。クレープも良いや。ごめんね、アオ」
「いや、それは奢らせて。というか、欲しいものは全部言って。学園祭の間デートしよう、ユエ。君との時間、作らせて?」
そう言いつつ、彼女を抱きしめた。
うう、と声がして、ユエの顔がある辺りから暖かく湿った何かが僕の制服を濡らす。
どうやら本当に泣いているようだ。
「なんで泣くの、ユエ…」
「アオ優しすぎるよぉ…うぅ…怒っても良いのに…」
なんで怒る必要性があるのか。
さっきも言った通り、眼鏡を割ったのは自業自得で、ユエが悪いわけではない。
多分、眼鏡のジョイント部分が甘くなっていたのだ。
ちょっと緩いかなぁ、まぁ良いかと放っておいた自分が悪い。