遅かれ早かれ、こうなっていたに違いなかった。
僕は苦笑しながら、彼女の頭を撫でる。
この状態なので、教室にかけられている時計を見ても何時かわからない。
「ユエ、ごめん。今何時? 少しお腹空いてきてさ」
「…11時…グスッ…アオ…」
ユエからリンクを繋がれたので、僕は彼女の魔力を使って視力を上げる。
確かに時計は11時を少し過ぎているし、僕の腕の中にいるユエは涙を流しながら僕を見上げていた。
「泣かないでよ僕のお姫様。泣き顔の君を、みんなには見せたくはないな。二人きりが良いっていうなら、このまま寮に帰ろう。僕も、君と二人の方が本当は良いし。デートなんて、家デート? っていうものがあるんだって。そうしようか?」
ユエの涙を拭いながら、僕は彼女へ微笑む。
またフルフルと首を横に振ったユエは、僕を見上げながら言った。
「キスして、アオ」
「仰せのままに、僕の姫」
唇を合わせ、暫くしてから離す。
目が合うとユエはフワリと笑った。
「…エスコート、していただけますか? グンジョウ殿下」
「勿論、喜んで。私の可愛い婚約者殿」
彼女から少し離れ跪き、その手を取ってキスを落とした。
◆◆◆
「ユエちゃん、シンク君とデートしてるの? え? ユタカちゃんは?」
僕の腕に抱きつき、校内にあるクレープを作っているクラスに行く途中、ユエのクラスメートが声をかけてくる。
それを聞いて、僕ではなくシンクに悪い噂が立ちそうだなぁ、なんて考えてしまった。
僕の婚約者にも手を出す、愚かな王子、的な?
「ん? アオだよ、この人」
「え? 眼鏡かけてないじゃん?! え、流石三つ子…全然どっちか分からない!」
お褒め頂いて有難いんだけど、眼鏡の有無で判別されても…。
まぁ、ユエがわかってくれてれば僕は別段どうだって良い。
口を開こうとしたが、それより前にユエが微笑んでクラスメートに言う。
「ふふん。眼鏡があろうがなかろうが、アオを判別出来ないとはまだまだですなぁ」
「ユエ…なんで君そんな誇らしげなの…。いや、良いんだけど」
僕の口調から、本当に僕がグンジョウである事を理解したユエのクラスメートは、ちょっと気まずそうに笑って僕らから離れていった。
「何あれ?」
クラスメートの様子に、ユエは首を傾げる。
「僕がシンクだったなら、結構な醜聞だからじゃない? 僕に隠れて、ユエがシンクと付き合ってるっていう。シンクもユタカに隠れて、ユエと付き合ってるんじゃないかって噂立ちそうだな、これ」
そんな事はないのだが。
僕らは、自分の彼女が可愛くて大切で本気で愛しているのだから。
「…うげ、勘弁してよ…」
ユエは本当に嫌そうな顔をする。
それ、どっちの表情なんだろうか。
ユエがシンクと付き合っているという噂に対してか、それともユタカに申し訳ないという感情に対してか。
「まぁ、多分今日だけだと思うから。シャナの魔力不安定なの。ごめんね、一日我慢してもらえると」
今日のシャナは動きが緩慢的に鈍く、早朝訓練でも一番に吹っ飛ばされていた。
朝ご飯もまともに取れなく、簡易栄養食を飲んで登校したくらいだ。
そんなに辛いなら休んだら、とは声をかけたのだが、ツルギと過ごしたいからと言って出て行った…のだが、眼鏡が割れたショックでその事を完璧に忘れ去っていた。
ごめん、シャナ。
「我慢なんてしてないよ。というか、私がシンクと付き合うわけないじゃん。全然タイプじゃないもん」
「あの、ユエさん。同じ顔なんですけど…」
更に言えば同一人物、異次元同位体の僕なのだが。
タイプじゃないってどういう事?
「同じ顔でも、アオはアオ。シンクはシンクじゃん。大体、あんな何考えてるか分かんない腹黒、私好きじゃないんだよね」
「そりゃ悪うござんしたね。俺もお前みたいな直情タイプ、趣味じゃねぇわ」
背後から声がかかり、僕らは振り向く。
ユタカの肩を抱き、眉を寄せて不機嫌そうなシンクが僕らを見ている。
「グンジョウ、お前なんで眼鏡かけてないわけ? おかげで、会う奴会う奴みんな、ユエを連れていないのかって聞いて来やがってよ」
「私は、瞳だけはユエと違うからみんな見ただけで分かってくれるけど…グンちゃんとシンクは、ねぇ…」
ユタカも苦笑して、僕らにそう言った。
それはまぁ、そうなのだが。
見た目だけなら、僕とシンクに相違は全くない。
「眼鏡壊しちゃってさ。悪かったと思ってるよ、シンク。予備の眼鏡、城に置いてきてて」
「お前馬鹿じゃねぇの? シャナに…って、そうか。シャナ今日、体調悪かったっけな……あぁ、くそっ! グンジョウ、城に帰ったら自分で片付けろよ! ユタカ少し預けるけど、変な事すんじゃねぇぞ!!」
シンクはそう言いつつ、転移していった。
ユタカに変な事…するわけないだろ。
ユエにならまだしも。
「シンク、心配性だなぁ。グンちゃんユエにしか興味ないのに」
「全くだよ。アオがユタカに手を出すなら、もうとっくの昔に手を出してるし。なんなら告白してきてる女の子達にだって、手を出してるでしょ」
彼女の言葉に僕は固まる。