あの映画撮影とかでユエと過ごせなかった時間を、この三日間埋めるように過ごしてやるからな…!!
あと、変な噂流した奴に見せつけてやる…!!
「…あれ、そういえばユエ。髪切らないの?」
彼女の髪を弄びながら、そう聞く。
長いのは鬱陶しいから好きではない、って前世から言っていたはずだったし、切られる前に伸ばしていたのも僕の初恋が冬夏さんで、彼女の髪が長かった事に起因していた筈だ。
別に初恋じゃないけど。
「………」
ユエはプイッと僕から顔を背け、そのままクレープを食べている。
なんか変な事を言っただろうかと、僕は彼女の名を呼ぼうと口を開いた。
だがそれは、目の前の二人の深いため息に遮られる。
「…何だよ」
「グンちゃん、察し悪すぎ」
ユタカからジト目で見られてしまい、僕は困惑した。
何かマズい事でも言っただろうか?
ユタカはユエとは違い、黒髪を腰まで伸ばしているし、髪型はハーフアップと呼ばれるものだ。
ワンポイントなのか、シンクの名前通りの紅いリボンでくくっている。
ユエは暑苦しいからと、いつもポニーテールだけど。
ユタカみたいにしたら、もっと可愛く…いや駄目だ、他の男共がユエに群がってしまう。
「……?」
本気で分からなくて、僕は首を傾げた。
「ユエ、言って良い?」
「……うん」
一応ユエに許可取らなきゃいけない事柄なの、それ。
何言われるんだろう、と僕はユタカを見つめる。
彼女は呆れた目を僕へ向けて、告げた。
「グンちゃんとの結婚式で、ウィッグやエクステじゃなく、自分の髪を結って臨みたいってユエ思ってるから、鬱陶しくても髪伸ばしてるんだよ。ちゃんと髪の手入れもしてるから、サラサラでしょ? それもこれも全部、グンちゃんの為なんだよ?」
そう言われ、僕はユエの方を見る。
彼女は耳まで真っ赤になっていて、思わず背後から抱きしめた。
「ひゃっ!! ア、アオ、あの…」
「嬉しい。凄く嬉しいよ、ユエ。あぁ、大好きだ。僕のユエ。君を愛してる」
周りの視線が刺さったが、構うものか。
ユエが愛しすぎて、そんなもの気にならない。
「グンジョウ、良い加減にしとけー。立花先生飛んでくるぞー。両方」
「…それは困る」
ユエから手を離し、僕はコーヒーを飲み始める。
取り敢えずみんな食べ終わり、教室から出て次は何処に行こうかと相談していると、僕の背中に誰かがぶつかった。
そちらを見ると、オレンジの髪で。
ギョッとなった僕だったが、背後は階段だったらしい。
彼女も驚いたようで、下がろうとして段差を踏み外した。
その体が傾いでいく。
「っ!! ツェリっ!!」
僕へと伸ばされた手を掴み、脚力強化で彼女を抱き留めつつ、下の踊り場に着地する。
咄嗟の事でツェリを強く抱きしめてしまい、彼女が少し苦しげな声を上げた。
彼女を踊り場へと下ろすと、ツェリと目が合う。
とても切なげな目で見られたが、僕はそれへ目を逸らす事で無視をした。
「…ありがとう、ございます。グンジョウ殿下…お手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」
ツェリは悲しげな顔をしながら僕に頭を下げ、階下へ降りていく。
僕はユエに見えないように、自分の胸辺りを握りしめた。
あんな顔するなよ、ツェリの奴。
あれじゃあ、僕が悪いみたいじゃないか。
ギリッ、と歯を食いしばる。
「アオ、大丈夫?!」
僕を心配しながら階段を駆け降りてきたユエに、僕は微笑んだ。
「大丈夫。怪我してないよ。それより、驚かせてごめんねユエ。まさかツェリがいるとは思わなくて…」
「いや、マジで驚いたわ。ツェリ、あんなに魔力消すの得意だったっけか」
シンクもユタカと一緒に階段を降りながら、僕に声をかける。
そういえばぶつかられるまで、僕もツェリの気配に気付かなかった。
「…うーん」
ユタカが階段の途中で降りるのをやめ、首を傾げている。
そんな彼女を見て、シンクも同じく首を傾げた。
「どーしたよ、ユタカ?」
「シンク、あの話ここでしちゃダメだよね?」
あの、とはどの事だろうか。
だがシンクは合点がいったようで、頭を少し掻いた。
「あー…うん。ちょっとな。せめて寮に帰ってから…は、ユタカ待てなさそうだよなぁ…仕方ねぇ、こっち来い」
シンクは本当に仕方ない、といった感じで僕らを誘導し始める。
一体なんだと弟について行くと、保健室に辿り着いた。
シンクは何も言わずに、保健室の扉を開ける。
ここに何の用があるのだろう、と思って中に入ったシンクに続いた。
「あら、いらっしゃーい。今日はどうしたのー?」
養護教諭の先生だろうか。
丸眼鏡に、勿忘草みたいな淡い青色の髪色をした女性だった。
お世話になる事が全くないので、顔を全く覚えていない。
「母様、防音の結界張っていいか?」
「…は?」
僕とユエは、驚いてシンクを見る。
養護教諭の先生を母様とか…寝ぼけてるのか、コイツは。
思わずそんな目で弟を見てしまう。
「シンク、まずは扉閉めてから言いなさい」
へーい、とシンクは言う通りに扉を閉めた。
養護教諭の先生が眼鏡を外す。