my way of life   作:桜舞

192 / 408
192話『いずれ王太子妃』

ウンディーネ3の月。

僕らはハインリヒ家へ向かう車の中にいた。

 

先月のあの騒動の後ツェリは学校を休んでおり、エミル君へ聞くとなんでも、原因不明の体調不良で寮生活が出来ないくらいに弱り、療養目的で実家に帰ったとの事らしい。

 

「そんな馬鹿な。あのツェリちゃんが病弱? 絶対嘘じゃん」

 

ユエが不満げに、ツェリに対してそう言う。

学園祭のデートを打ち切られた恨みもあるんだろう。

僕もあれはちょっと、と思っているし。

あの騒動が無ければ僕もユエも、楽しい時間が過ごせたはずなのだから。

 

「ユエ、思ってても言うんじゃない」

 

僕の注意に、ユエは口を噤んだ。

一応、僕らは王からの命で動いている。

他人を卑下する言葉を述べる前に、確認する事があった。

 

「もう一度確認する。シャナ、ユエはツェリの身柄の確保。その際、魔王の遺物があったなら回収、またはツェリ自身が侵食されているのなら拘束する事。僕とシンクはハインリヒ卿に事情聴取。ユタカとツルギは何かあった時の為に、シャナとユエの護衛。良いか、ユエ。僕の事についてツェリから何か言われても、耐えろ。戯言と受け流せ。君は、いずれ王太子妃になる。そのうち王妃だ。わかっているな?」

 

皆を見ながら、僕は最後にユエへ目線を投げ、告げる。

彼女は真剣な顔で頷いた。

 

「分かっています、グンジョウ王太子殿下。私は、立花家の娘です。分は弁えております。ツェツィーリエ様に何を言われようとも、口を噤んでおきます」

「シャナ、ユエのフォローをお願い」

 

シャナを見ると、姉はコクリと頷いてくれる。

 

「てか、堅苦しいな。今からガチガチに緊張してたって、後で疲れるだけだと思うがね」

 

シンクがヒラヒラと手を振りながら、僕へ言った。

弟の隣に座っているユタカが、シンクの様子へクスクス笑い始める。

 

「シンクだって緊張してるくせに。それに、緊張感を持つのは良い事だと思うけど。グンちゃんは優しいから、もしツェリちゃんが魔王の遺物に侵されていたら…助けてあげたい、って思ってるはずだよ?」

「…別に、思ってない」

 

僕は彼女から顔を背けた。

素直じゃないな、とユタカは笑う。

 

ツェリが遺物に侵食されているのなら…それがもう手遅れなら…幼馴染として、彼女の命を絶とうと決めているだけだ。

 

「…見えてきた。覚悟はいい、みんな?」

 

窓からハインリヒ領の領都が近づいてくるのが見える。

僕の問いかけに、皆頷いた。

 

「なら、作戦開始だ」

 

◆◆◆

 

ハインリヒ家の屋敷前に到着し、僕らは車を降りる。

老年の使用人が屋敷から出てきて門を開け、僕らに対し頭を下げてきた。

 

「お待ちしておりました、王太子殿下。私、この屋敷で執事長を務めさせていただいております、ウヌスと申します。旦那様とぼっちゃんの元まで、御案内させて頂きます」

 

恭しく頭を垂れる執事長に、僕は微笑みながら言う。

 

「心遣い、痛み入る。不躾な願いだが案内をもう一人つけて欲しい。姉君達はハインリヒ嬢の友人でな。療養でこちらに戻ったハインリヒ嬢を、(いた)く心配しておられる。出来れば会わせてやりたいのだが、宜しいか?」

 

勿論ですとも、と執事長は言い、呼び鈴を鳴らしてメイドを呼び寄せた。

僕とシンクだけでハインリヒ卿に会う事を伝え、シャナに目をやる。

シャナもこちらを見、微かに頷いた。

 

姉達と別れ、僕らは応接室に通される。

そこには、家長のニコライ・トルマリン・ハインリヒとエミル君がいた。

 

「グンジョウ殿下、シンク殿下。この度は我が家までご足労頂きまして、誠にありがとうございます。陛下からの通達で我ら21貴族の家宅を捜索する旨は、聞き及んでおりましたが…その、何故に捜索するのかお伺いしても、宜しいでしょうか?」

 

ハインリヒ卿とエミル君は座っていたソファーから立ち上がり、僕らに一礼する。

そして、ハインリヒ卿は僕にそう尋ねてきた。

 

隣にエミル君がいるのは後学の為に同席させているのか、もしくは幼馴染で親友だから何か痛い所を突かれても、彼を使って僕を懐柔できると踏んだのか。

 

そのどちらでも、僕は彼の存在を無視するだけだが。

僕が話しているのはハインリヒ卿なのであって、エミル君ではないのだから。

 

「聞く必要性はない。僕らは陛下の命で動いているだけだ。その疑問は直接陛下に尋ねるがいい、ハインリヒ卿」

「はっ、失礼致しましたグンジョウ殿下」

 

すぐさま僕に頭を下げるハインリヒ卿に、エミル君が言う。

 

「父上、殿下方もお疲れの事かと思います。座って頂いた方が宜しいでしょう」

「あ、あぁ、そうだな。大変失礼致しました、ソファーにお掛けになってください、殿下方」

 

勧められて、僕とシンクはソファーに座った。

僕は二人を観察する。

 

冷や汗をかきながら、息子と同時に座るハインリヒ卿。

その様子を、若干心配そうに見ているエミル君。

 

魔王の遺物に関して、二人は関係なさそうに見えた。

まぁ、見えるだけで疑ってはいるけれど。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。