私はツェリちゃんの言い分に、拳を握って耐える。
確かに、私も最初はそうだった。
アオに、そんな理想を抱いていた。
何でも知ってて、周りの動きを見ながら最も最適解の動きをし、頼られれば自分が出来る最善手で相手を助ける。
理想の王子様という感じで笑う、アオ。
私もユタカも、そんなアオが好きになった。
でも、それはアオが自分で作り上げた表の顔だ。
王太子という重責、周りからの目と、両親からの期待に応えようと、必死になって努力してきた結果だ。
本当のアオは年相応の男の子なんだよ、ツェリちゃん。
大人びた笑顔なんて絶対にしない。
私を大好きだと言ってくれる笑顔も、好きなものをあげて喜んでくれる顔も、何かに対して怒る顔も、そして、泣いている顔も。
全部、王子様っぽくはないけど。
でもそれが、アオがちゃんと1人の人として感情を出した時の顔なんだよ。
それを否定したら、誰がアオの拠り所になってあげられるの?
シャナちゃんやシンクだって、アオとずっと一緒にいられるわけじゃない。
私がアオから離れたところで、ツェリちゃんがそう言い続けるのならば、アオは王子様の仮面をずっと被り続ける。
それがアオにとって、期待された顔だって事だから。
そんなの、アオは休まらない。
いずれ精神を病んでしまう。
私は、そんなアオなんか絶対に見たくない。
だから…ツェリちゃんにこの座を渡すわけにはいかない。
アオを理想像としてしか見れない彼女になど、誰が安心して彼を譲れるというのか。
「ユエちゃん…落ち着いて」
シャナちゃんが私の肩に手を置く。
どうやら、ツェリちゃんを睨みつけていたようだ。
私は深呼吸をして、シャナちゃんに微笑んだ。
「大丈夫…私は大丈夫だよ、シャナちゃん。アオにも言われたから。私はいずれ、アオの妻になる。こんな事で揺らいでちゃ、王太子妃になんてなれないもん」
「ユエちゃん…」
シャナちゃんがツェリちゃんを見る。
とても厳しい目で。
「ツェリ。あたしはグンジョウやシンクみたいに腹芸は得意じゃないから、単刀直入に聞くよ? 魔王の遺物は知ってるよね。今、貴女はツェリなの? それとも…その嫌な気配を漂わせてる魔王なの?」
シャナちゃんの問いかけに、ツェリちゃんは俯く。
そして、その肩を震わせ始めた。
「ふふ…あは…っ! あっははははっ!! あー、可笑しい!! シャナちゃん、本当に腹芸得意じゃないんだね! ……私は私だよ、シャナちゃん。シャナちゃんだって、魔王の遺物を持ってるじゃない。でも、それだけじゃ弱いよ。遺物はこう使わないと」
そう言いつつ、ツェリちゃんは上半身の服をはだけさせる。
ツルギ見ちゃダメ、とユタカの声がして振り向くと、姉はツルギの目を手で覆い隠していた。
多分、シャナちゃんが怒るだろうと予想しての事だろうが、ツルギは見ても何も思わないんじゃないだろうか。
シャナちゃん以外眼中にないって感じだし。
むしろシャナちゃんになら、何をされても良いと思っていそうな節を感じるし。
「ツェリ…」
シャナちゃんが驚愕の声を上げる。
顔をツェリちゃんに戻すと、その胸には魔符が埋め込まれ、中心部から首下にかけて赤黒い何かが根を張っていた。
「魔王の遺物は、こう使うんだよシャナちゃん。自分に寄生させて、その力を引き出すの。ユエちゃん、最後の警告だよ。グンジョウ君から離れて。彼を解放してあげて」
シャナちゃんが私を見る。
ツェリちゃんに対して話しても良い、という事だと感じ取り、私は内心でアオに謝った。
ごめん、アオ。
一言だけだから、許してね。
「アオをお前になんか絶対やるもんか!!」
「っ!! 離れろぉぉぉおっ!!」
ツェリちゃんが激昂する。
彼女の姿が変貌していくのと同時に、大量の紙が私達を押し潰そうと迫ってきた。
紙が壁にも当たり、破壊して外へ雪崩れていく。
シャナちゃんがリブロを駆使してシールドを張ってくれてはいたが、それもミシミシと音がしてきていた。
「シンク!!」
「ユタカ! 無事か?!」
アオと一緒にいるはずのシンクがユタカを心配して転移してくる。
彼の姿を見た瞬間、私は思わずシンクに尋ねた。
「アオは?! 一緒じゃないの?!」
「あいつなら、ハインリヒ卿とエミルと一緒に屋根の上だよ。無事だから安心しろ、ユエ。というか、ここじゃ普通に話出来ねぇな…シャナ、いけるか?」
シンクの問いかけに、シャナちゃんは頷く。
二人は同時に転移術を使ったようで、景色が変わった。
そこはハインリヒの屋敷の屋根上で。
ハインリヒ卿と、エミルと、アオがいた。
アオは下の庭を見ているようで、その表情は驚愕に染まっている。
「ツェリ…?」
ツェリちゃんの名前をアオが呼んだのと同時に、庭からツェリちゃんの声が聞こえた。
誰かの声と重なるように。
『「愛しているの。アナタ」』
◆◆◆
「いったいこれはどういう状況なんだ?!」
呆然とツェリを見ていた僕は、ハインリヒ卿の絶叫でハッと我に返った。