卿を見ようと顔をそちらに向けた所で、ユエ達も屋根の上にいる事に気付き、そして彼女達はツェリの元へ行っていた事を、今更ながらに思い出した。
「…ユエ……ユエっ!! 無事?! 怪我してない?!」
彼女の元へ行き、抱きしめる。
この状況で強張っていたであろうユエの体は、僕に抱きしめられた事によってか力が抜けたようだった。
僕の背中に手を伸ばし、ユエは抱き返してくれる。
「アオ…うん、大丈夫。みんな、無事…だけど。ツェリちゃんが…」
ユエ達がいる場所からは、ツェリの姿は見えなかった。
だが、ここへ来る前にあの姿を見たのだろう。
彼女の表情が、若干暗くなっていた。
「一体何があったの。それに、ツェリのあの姿は…」
僕はユエに問いかける。
階下からはツェリの哄笑が聞こえ、建物を破壊する音も聞こえてきた。
あんなに笑う子ではなかったはずなんだけど。
それに建物が破壊される振動が凄く、徐々に立っているこの場所も傾いているようだった。
「魔王の遺物に侵食されてた。グンジョウ、もう手遅れかもしれない」
シャナが魔武器を取り出し、僕の横を通り過ぎて階下へ行こうと歩き出している。
僕は姉の腕を掴み、引き留めた。
「詳しく話せ、シャナ。なんであぁなっているんだ。ツェリは今、どういう状況なんだ」
「お願いします、シャナ殿下。娘は…ツェツィーリエは、どうしてしまったんでしょうか? 何故あのような異様な姿になっているのですか? 教えてください…っ!!」
ハインリヒ卿はシャナの足元に跪き、懇願する。
姉はため息をつき、ツェリの方を見つつ僕らに告げた。
「ツェリは、ハインリヒ家の家宝であった魔王の遺物をその身に宿していた。それを使って、あたしやユエちゃん達に攻撃を仕掛けてきたの……あれは、もうツェリじゃない。ツェリの真似事をしている、魔王だ」
シャナはツェリの方から、自分を見上げているハインリヒ卿に目をやる。
「ハインリヒ卿、残念だけど貴方の娘はもういない。例え、ツェリの意識が残っていたとしても…王族に害をなそうとした時点で死刑だ。それでも、貴方はツェリを庇いますか? 娘を庇ったせいで、一族郎党が死に絶えたとしても」
姉の言葉に、ハインリヒ卿は項垂れる。
なんという事だ、と一言呟いて。
「アオ、ごめん。トリガー引いたの、私かもしれない…」
僕の腕の中にいたユエが、ポツリと言った。
何を言ったんだ、と彼女を見る。
あれほど耐えろって言ったのに。
むしろツェリに何言われたんだよ、君は。
「グンジョウ、ユエちゃんに喋る許可を与えたのはあたし。責めるならユエちゃんじゃなく、あたしにしなさい」
「…何言われたの、ユエは」
僕は、ユエからシャナに顔を向ける。
シャナが彼女を庇うなんて、相当だ。
絶対、よくない事を言われたに違いない。
「グンジョウを解放しろってさ。ユエちゃんに恋をしてから、盲目になってしまったからって。理想の王子様がただの人になっているのは、耐えられないって感じだったかな」
「何だそれ…」
理想の王子様?
誰の事だ、それは。
僕の事なのか?
深いため息を吐きつつ、僕はユエに尋ねた。
「で、君は何て返したの」
「…アオを解放しろ、離れろって言われたから…アオをお前になんか絶対やるもんかって…」
それで神経逆撫でした結果、魔王の遺物がツェリと完全に結合したわけか。
僕は頭を少し押さえて首を横に振った後、ユエを僕から引き剥がした。
「…シャナ、僕がやる。何の為にカヅキおばさん達に鍛えられたか、わからないだろ…それに、今思い出した…僕の初恋は、ツェリだったよ。今まで忘れていたけどね」
僕は屋根の縁から、庭にいるツェリを見下ろす。
彼女は僕の姿を認め、嬉しそうに微笑んで僕へ手を伸ばした。
『「貴方がいれば、何もいらない。大好きなの、愛しているの。来て。一緒にいて。ずっと、二人で生きていこう? グンジョウ君…」』
「ツェリ…」
これがユエからの誘いなら、喜んでこの身を階下へ投げるのに。
僕は一度キツく目を閉じ、そして目を開ける。
庭に向けて落ちようと足を踏み出した瞬間、服を掴まれ引き戻された。
それをやったのはユエかシャナかと思ったのだが、引き戻したのはシンクで僕は驚く。
「シンク、なんで…」
「俺はお前で、お前は俺だ。お前の考えなんて分かるんだよ。事前情報もなしに、突っ込んで行こうとするんじゃねぇ。ツェリは、まだ助けられる可能性がある」
シンクの言葉に、この場にいた全員が驚く。
いや、ただ一人。
ユタカだけは驚いていなかった。
多分、シンクの考えがわかっていたからだろう。
「どうやって助けるっていうんだ、あんな状態だっていうのに」
「魔王の遺物にはコアっていうものがある。元の持ち主の魔力が結晶になって、遺物に埋め込まれているらしい。それが集まる事によって共鳴反応を起こし、今の魔王の力になる…ってカヅキおばさんが言ってた」
それと、今の状況が何か関係あるのだろうか?
怪訝そうな顔でシンクを見る僕へ、ユタカが言った。